第305話、センセイの誓いとケジメ

 『Atle・za・ture・O-VAN』を倒し、オーディン博士とワルキューレさんに別れを告げた俺は、真っ白な世界に別れを告げて『接続アクセス』を解除した。

 意識が純白の世界に潜り、超高速エレベーターに乗った時のように浮上し、意識が現実の俺の中に戻ってくる─────あぁ、きた。


「…………っぷぁ、はぁ~」


 終わった。

 『Atle・za・ture・O-VAN』は完全に停止。安全なシャットダウンをした。

 目の前には、巨大なパチンコ玉みたいな本体がある。あとはこれを破壊すれば、長きにわたって続いた人類軍とアンドロイド軍の戦いは終わる。


「よし、とりあえず─────」


 手をブラブラし、振り返った瞬間だった。


「「「「「「「センセイ!!」」」」」」」

「うおっ」


 戦乙女型七人が殺到。完全に包囲され、もみくちゃにされた。

 なになに、モテ期到来っぽいのは知ってたけど、さすがにヤバいだろ。


「おい、無事なのか!?」

「センセイ、体調は!?」

「ああ、よかったですわ……」

『お疲れ様です。センセイ』

「ばば、バイタルチェックを! ジークちゃん!!」

「う、うんっ!」

「センセイ……生きてた」

「ま、待て待て。マテ、まて。落ち着け、落ち着け!!」


 とりあえず全員を引き剥がす。

 なんだか様子がおかしい。とりあえずこの中で一番冷静そうで落ち着いて話せそうなのは……。


「ヴァルトラウテ、何があったんだ?」

「何がって……センセイ、あなた身体は大丈夫なのですか?」

「いや、別に……?」


 首を傾げる。身体って……どこも怪我してないし、痛くもない。ちょっと腹が減ったくらいで、問題はないけど?

 ヴァルトラウテは、心配そうに言った。




「センセイが『接続アクセス』を始めて、すでに360時間経過してますわ」

「は?」




 360時間?

 えっと、一日は24時間、10日で240時間、5日で120時間、合わせて360時間・……ええと、つまり15日間、俺はあの世界に潜ってたことになる。

 いやいや、冗談だろ…………っは!?


「っ!! まさか……よかった」


 俺は股間とケツをチェック……うん、粗相はしていない。

 15日間飲まず食わずの割には体調はいい。健康そのものだ。

 ジークルーネが俺の身体をチェックしながら言う。


「センセイにどんな影響が出るかわからなかったから、ナノマシン注入もメディカルチェックもできなかったの。でも、心臓は動いてるし体温も変化がなかったから、わたしたちでずっと見守ってたの……」

「じゅ、15日も? って、オストローデ王国はどうなった!?」

「…………順に説明しよう」


 シグルドリーヴァが、腕を組んで話し始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シグルドリーヴァの話はカッチカチでわかりにくかった。

 とりあえず、要点としてはこんな感じ。

 

 まず、オストローデ王国の住人は目を覚まし、何事もなかったかのように生活を始めた。

 国王のヴァンホーテンは病のため寝込んでると偽情報をアナスタシアが流し、国営はアナスタシアが行っている。他のアンドロイドたちや生徒たちも協力しているようだ。

 住人たちは戦争があったなんて露ほど知らない。こればかりは仕方ない。


 他国の王たちはオストローデ王国にいる。

王城の来賓室で、これからのことを話し合っているそうだ。最有力候補は俺が王になりこの国をまとめる…………ふざけんな!!

 壊れたアンドロイドたちは、オストローデ郊外に放置されている。とりあえず、戦乙女型たちが『遺産』を使って一か所にまとめ、スクラップの山として放置してある。


 戦いが終わってハイ終わりじゃない。

 むしろ、これからが本番だ。

 この国の王、アンドロイドたち、これからのこと……俺たちも、協力しなくては。

 

「センセイ、他国の王たちはお前を待っているフシがある。今も会議中だ」

「わかった。じゃあ行ってくる……と、ブリュンヒルデ」

『はい、センセイ』


 俺は『Atle・za・ture・O-VAN』を見上げた。

 そして、ブリュンヒルデに頼む。


「第三着装形態を使って、こいつを完全に消してくれ」

『…………わかりました』


 第三着装形態『CODE00ワルキューレINVOKEドライブ』は、あらゆる物を分解することができるメインウェポン、『光輝剣コールブランド・インヴォーク』がある。これなら、『Atle・za・ture・O-VAN』を完全に消去できるはずだ。


「これからは、人間とアンドロイドの時代だ。お前たちがお嫁に行けるような、そんな世界を作っていこう……だから、アンドロイドの思考じゃなく、自分の意志で進めるように……こいつとは、ここでお別れだ」


 ブリュンヒルデは第三着装形態へ移行。コールブランドを構え、『Atle・za・ture・O-VAN』を一刀両断した。

 そして、『Atle・za・ture・O-VAN』は、溶けるように消滅した。


「よし、行くか」


 アンドロイド軍の最後を見届け─────俺は歩きだした。

 戦乙女七人も、その後ろから付いてくる。

 あとで、みんなともしっかり話そう。


 オーディン博士最後の『遺産』を、彼女たちに託さないと。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オストローデ王国・大会議室。

 アホみたいに豪華な装飾の施されたドアの前に、俺は立っていた。


『だから!! 違うっつってんだろ!!』

『なんだとこの毛むくじゃらライオンが!!』

『だまれこのチビドワーフ!!』

『んだとぉ~!!』


 一瞬で帰りたくなった。

 アルアサド王、ファヌーア王、鬼王ダイモンの怒声と罵声がめっちゃ聞こえてくる。

 他にも、あははと笑うような声や、やれやれとため息を吐く声も聞こえた。


「…………」


 俺は超控えめにドアをノックした。

 すると、声がピタっと止まる……いやいや、聞こえてたのかよ。

 ええい、行くしかない。


「し、失礼しま~す……」

「「「「「「「「「「「「センセイ!!!!!!」」」」」」」」」」」」

「うぉぉっ!?」


 センセイって、他にも『セージ!!』とか『おめぇ!!』とか呼ばれたけど、センセイって呼ぶ声が圧倒的に多かったのでそう聞こえた。


「あ、相沢先生!!」

「中津川、よかった。無事だったのか……」

「いや、どう考えてもオレのセリフですよ!!」


 そりゃそうか。

 とにかく、大会議室のメンツを確認する。

 中津川に篠原。おお……ナハティガル理事長、あと背後にルーシア。アルアサド王と側近数名。ファヌーア王と側近数名。えっと、吸血鬼か? オルトリンデとヴァルトラウテに手を振ってる人と側近。鬼王ダイモン、毒蛇女王エキドゥナ、黄龍王ヴァルトアンデルス……エルフはいないな。タブレットみたいな端末にオリジンが映っている。魚人もいないな……こうしてみるとけっこういる。

 アナスタシアとハイネヨハイネ、ゴエモン、アリアドネ、こいつらもいたか。


「……っ」

「ルーシア……」


 ルーシアが、俺を見てグッと唇を引き締めたのがわかった。

 よしよし、あとで酒でも飲もう。仲間で祝おうじゃないか。


「いいところに来た。さっそくだが、この国のこれからについて話をしたい」

「あ、それですが、俺から提案があります」


 自分で言うのもなんだが、この場で俺の発言が最も重要な気がした。

 

「いろいろありましたけど、戦いは終わりました。このオストローデ王国がしてきたことは、悪いことなのは間違いないです。その責任は取らないといけません」


 静寂だった。

 全員、俺の話を聞いている。


「この国の王ヴァンホーテン……Type-KINGは破壊しました。サブコンのType-QUEENはまだ残っていますが、ボディがないと動くこともできません。国王の命を持って、まずは謝罪とさせていただきたい」


 部外者の俺がこんなことを言うのは間違っている。

 でも、この戦いで死んだ人もいた。そのけじめは取らないといけない。


「死亡した人や家族に対して、見舞金も支払います。今回の一件、他国に掛けた迷惑はそれで清算させていただけますでしょうか」

「待て。見舞金だと? この国の金庫はおめーのもんじゃねぇだろうが」


 と、ファヌーア王が言う。

 もちろん、そんなことはしない。俺の財布から出すつもりだ。


「シグルドリーヴァ、例の沈没船の白金貨を」

「……なるほどな」


 シグルドリーヴァは異空間にアクセスし、海底の沈没船で見つけた宝箱のいくつかをこの場に召喚した。

 宝箱には白金貨がギッチギチに詰まっている。国家予算レベルの金額だ。しかも宝箱はまだ数百個ある。


「海底で見つけたものです。支払いはここからします」

「ほ、やるじゃねぇか」


 他の王たちも納得してくれたようだ。

 下手に言葉を繕うより、誠意とけじめのつけ方を見せた方がいい。こういう場合は特にそうだ。どうやら成功したみたいで安心だ。


「それと、国の運営ですが……このままアナスタシアが女王になり、統治をお願いしようと思っています」

「……センセイ、私は」

「アナスタシア、お前ならできる。もちろん、俺も、みんなも協力する」

「…………」


 ヴァンホーテン王は病気で死亡。王座をアナスタシアに渡すと遺言を残したと国民に伝えればいい。アシュクロフトやカサンドラのことは後々考えよう。


「俺が、俺たちがこの国の復興と発展に協力する。それじゃダメかな……?」

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 人とアンドロイドが生きる世界を、この手で─────。


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