第299話、オストローデ王城に向かって

 アシュクロフトの機能停止、アンドロイド軍の全滅。これで残りは、アンドロイド軍の頭脳である『Atle・za・tureアトレ・ツァ・ツーラO-VANオーヴァン』だけ。

 こいつを機能停止すれば、この戦いは終わる。

 アンドロイド軍は完全に消滅し、この世界に平和が来る。

 だが、アシュクロフトの話でわかった真実が一つ……俺たちは、元の世界に、日本に帰ることができないということだ。

 なんとなくそんな気はしていたけど……はっきり言われるとけっこう凹む。


「…………はぁ」

「センセイ、どうした?」

「あ、いや……なんでもない」


 シグルドリーヴァが眉をひそめるが、言ってもしょうがない。

 今は置いておこう。あとで生徒たちにも話さないといけないし……とにかく、物理的な危機は完全に去ったと言ってもいい。

 俺はバンドからオリジンを呼び出した。


「オリジン、聞こえるか?」

『うむ……なんじゃ?』

「ああ、アンドロイドの兵器は全て沈黙した。物理的な危機は去ったから、そっちは任せていいか?」

『……わかった。怪我人の治療が済み次第、元の領土に転移させる』

「転移って、お前魔術使えるのか?」

『わらわではない。アンドロイドの……アナスタシアと言ったか。こやつが協力するというのでな』

「……わかった。あとは任せる」

『うむ。お前は……』

「ケリを付けてくる」


 通信を切った。

 残骸が多く転がるオストローデ王国の平原の向こうに、大きな城が見える。

 あそこに、アンドロイドの親玉が……ブリュンヒルデがいる。

 Type-KINGとType-QUEENはどうなったか、Type-PAWNもいる。でも、今の俺なら倒せる。


「みんな、行こう……これが最後だ」

「ああ。行くぞ」

「へっ、護衛は任せな」

「守りはわたくしが」

「じゃあウチは空~」

「あ、わたしは怪我を直します!」

「わ、私はぜんぶっ!」


 この姉妹たちとの戦いも、終わりが近かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オストローデ王城へ向かうのに、ヴィングスコルニルを使うことにした。

 バイクモードに変形させて乗る。今の俺なら、ブリュンヒルデ以外の戦乙女たちを乗せることができる。まぁ俺は運転できないけどね。

 さて、問題は……。


「仕方ないな……センセイ、私の後ろに乗れ」

「いやいや、アタシが乗せてやるよ」

「まぁまぁ、ここはわたくしの後ろに」

「あ、センセセンセ、ウチの後ろにどうぞっス!」

「わ、わたしもセンセイを乗せたいな……」

「はいはーい! 私の後ろにけってーい!」


 と、六人からのお誘いが来た。

 いやいや、ヴィングスコルのバイクに跨り、俺を乗せようと声をかける六人……モテ期到来なのは嬉しいけど、誰に乗るべきか。


「あ、えーと……」

「「「「「「早く!」」」」」」

「…………」


 これ、誰に乗ればいいんだ?

 ブリュンヒルデがいれば迷わず乗るんだけど……なんか、誰に乗っても後が怖い。

 よ、よし。決めた。


「お、俺、モーガンに乗っていくよ」

「「「「「「…………」」」」」」


 俺は黒牛モーガン・ムインファウルを造り、その背中に跨った。

 うん、この黒い牛は乗り心地がいい。ちょっとスピードが出ないけど、城に向かうくらいならいいだろう。

 すると、ヴィングスコルから飛び降りたレギンレイブがモーガンに飛び乗った。


「にっしし、ウチもこっち~」

「あ、お姉ちゃんずるいー! 私も!」

「おいテメェら! アタシのモーガンだぞ!」

「うふふ、お姉さまってば……でも、わたくしだってセンセイと一緒に!」

「わ、わたしだって!」

「…………ふん」

「お、おいお前ら!?」


 結局、六台のヴィングスコルは乗ることなく消した。

 黒い牛に七人が乗り、のっしのっしと王城を目指す……なんか締まらん。


 まぁいい。さっさとラスボス戦といきますか。


 ◇◇◇◇◇◇


 オストローデ王国の城下町は、恐ろしいほど静まり返っていた。

 人っ子一人いない……。


「住人は家にいますよ。あまりやりたくなかったけど、記憶も改竄したので、自分たちがオストローデ王国に操られていたことは覚えていないはずです」

「そっか……よかった」

 

 確認のため一軒の家を覗くと、父母と息子娘の四人家族が、直立不動で立っていた。軍人みたいに見えたが、呼吸もしているし心臓も動いていることを確認した。

 さっさと『Atle・za・tureアトレ・ツァ・ツーラO-VANオーヴァン』を止めようと進むと……二匹のネコが飛び出してきた。


「まま、待て待て、お前たち早いっ……って」


 そして、ネコを追いかけて飛び出してきたのは、白衣を着た中学生くらいの女の子だった。長いボサボサの髪が特徴で、俺たちを見て硬直……なるほど、アンドロイドか。


「センセイ、いいか?」

「待て待て!」


 オルトリンデが砲身を向けたのを見て慌てて止める。今更だが、こいつらアンドロイドに対して遠慮がなさすぎる。


「お前、アンドロイドか……何してる?」

「っひ……ああ、あの、こいつらを追って……えと、せ、センセイ、だよね」

「ああ。お前は?」

「た、Type-PAWN、アリアドネ……その、code04に救われて、ここに」

「え、ブリュンヒルデが?」

「う、うん……ほ、本当だよ! 会話のログと映像データもある! し、信じて!」

「……わかった。ジークルーネ」

「はい、センセイ」


 ジークルーネがモーガンから降り、アリアドネと名乗ったアンドロイド少女の元へ。


「code06……」

「ふふ。初めましてかな?」

「…………ふん」

「じゃ、ログを確認するね」


 何か情報を共有しているらしいが、よくわからん。

 ジークルーネが振り返ると、にっこり頷いた。どうやらアリアドネの言葉は真実らしい。

 事情を聞くと、Type-KINGとQUEENがオストローデ王城と一体化し、ブリュンヒルデは二体の電子頭脳を破壊するため、オストローデ王城の最深部に潜ったらしい。


「どうなったかはわかんない……でも、城の動きは止まったし、『バシレウスルーム』は停止したと思う。Code04がどうなったかはわからないけど」

「それで十分だ。ありがとう」


 アリアドネは、二匹のネコを抱いていた。

 トラ猫と白猫……はて、なんだか聞き覚えのあるフレーズだが……まぁいいか。


「とりあえず、アナスタシアたちのところへ合流するか? アナスタシアにゴエモン、ハイネヨハイネもいるぞ」

「え、まじで?」

「ああ。お前に言いたいことは山ほどあるけど、全部後でな」

「うっ……」

「……さて、地面を走るのと飛んで行くの、どっちがいい?」

「えっ」


 グリフィン・フリューゲルにアリアドネを掴ませると、すごい勢いで飛んで行った。

 オストローデ王城は、もう目の前だ!

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