第298話、MID BOSS オーバーロード・Type-INFINITY④/センセイ、決着

 乙女機神とINFINITY・OVERGEARの戦いは白熱していた。

 メイン操縦は俺、武器の出力や細かい部分はシグルドリーヴァたちに任せている。

 乙女機神の大槍と、INFINITY・OVERGEARの大剣がぶつかり、火花が散る。

 INFINITY・OVERGEARが空を飛ぶと、乙女機神も空を飛んで追いかける。互いに決定打のない状況で戦う。火力はやや不利だが……俺には絶対的な自信があった。

 INFINITY・OVERGEARの大剣が乙女機神の肩を傷付ける。


「ふふふ、『修理リペア』だ!!」


 そして、俺が修理。

 そう、この機神に俺が搭乗しているかぎり、破壊されることは絶対にない。自動修復機能は備わっているが、今は俺の『修理』で対応していた。


「センセイ、このままチマチマ削るのかよ!?」

「時間が経てば倒せるのは間違いない。けど……さっさと倒したい」

「じゃあ、どうしますの?」


 オルトリンデとヴァルトラウテの意見ももっともだ。

 ブリュンヒルデの様子も気になるし、さっさと片付けてオストローデ王城へ向かいたい。

 

「ジークルーネ。敵軍の残存数は?」

「はい。センセイの出した『遺産の軍勢』が圧倒的です。敵機全軍の七割が沈黙……あと少しで殲滅できます」

「よし。いい感じいい感じ。もうすぐ終わる」


 INFINITY・OVERGEARを倒せば、あとは消化試合だ。

 だけど、こいつは強い……負けないにしても時間はかかる。


「っとぉ!! ヴァルトラウテ、盾を!!」

「はいっ!!」


 クルーマ・アクパーラの盾でINFINITY・OVERGEARの大剣を受け止める。

 アシュクロフトのやつ、俺が『修理』を使う限り絶対に破壊できないって気付いてるはずだよな……。

 あいつにも意地があるのか。

 なら、俺はそれを叩き潰すだけだ。


「全部終わらせる……ブリュンヒルデを迎えに行って、この戦いを終わらせるんだ」


 剣と槍がぶつかり、盾で攻撃をガードし、不意打ちの前蹴りを食らわせ、シールドバッシュで体当たりする。

 徐々に、押してきたと思う。INFINITY・OVERGEARのボディが破損している。


「センセ、あいつの剣にヒビ入ってるっスよ!!」

「よし!! 武器破壊だ!!」

「任せろ!!」


 シグルドリーヴァが操縦桿を握る。

 INFINITY・OVERGEARの大剣が振り下ろされる。

 俺だったら盾で受ける……が、シグルドリーヴァは違う。ギリギリまで引き付けて、紙一重で躱した。

 そう、今まで俺が操縦していたのは、こういうチャンスが来た時に不意を付けるから。そして今、そのチャンスをものにした。


「やっちゃえーっ!!」

「はぁぁぁっ!!」


 アルヴィートは操縦席でバタバタし、シグルドリーヴァは槍の切っ先を大剣のヒビにぶつけ、INFINITY・OVERGEARの大剣を破壊した。

 そして、盾によるシールドバッシュでINFINITY・OVERGEARを地面に倒す。


「今だセンセイ!!」

「ああ、決めるぞ!!」


 乙女機神の背中から、サンズヴァローグとグリフィン・フリューゲルの合体した翼が広がり、ブースターを噴射して上昇した。

 そして、ヴィングスコルニルが変形した槍がさらに変形。振り回す槍ではなく、投擲用の槍に変形し、バチバチと紫電に包まれる。


「『乙女機神技ハイパー・ヴァルキリー・フィニッシュ』!!」


 狙いは、INFINITY・OVERGEAR。

 『戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー』最強最終最後の必殺技。

 七つの力を大槍に乗せて放つ、究極の乙女神技。


「終わりだアシュクロフトォォォッ!! 『乙女機神の神槍撃ロンギヌス・ヴァレンスティ』!!」


 神の槍による一撃が、INFINITY・OVERGEARに突き刺さり爆発した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇




 乙女機神から降り、爆発したINFINITY・OVERGEARを眺めていた。

 ジークルーネが、みんなに言う。


「センセイ、敵機全軍沈黙……アンドロイド軍は全滅しました」

「そうか」


 喜ぶべきだろうけど、今はその時じゃない。

 二百万近いアンドロイド軍は全滅した。戦乙女の遺産と、俺の能力に敗北した。

 でも、まだ終わりじゃない。

 

「…………やっぱりな」


 INFINITY・OVERGEARの残骸がガラガラと崩れ、一人のアンドロイドがこちらに来た。

 シグルドリーヴァとオルトリンデが武器を構えるが俺は手で制する。

 

「や、ぁ……どうやら、敗北、したようです、ね」

「ああ……お前たちの負けだ」


 アシュクロフトだった。

 左手を失い、全身がバチバチ帯電している。足や腹の人工皮膚が剥げ、機械部品が剥き出しになっていた。顔も半分が欠けて、イケメンが台無しになっていた。


「もう、お前たちの負けだよ。アシュクロフト」

「…………そのようですね。センセイ、あなたに恐怖した時点で、こうなるような気がしていました」

「…………」


 俺は、一歩前に出る。

 そして、背後にいる戦乙女六人に言った。


「絶対に手を出すな。いいな」

「「「「「「…………っ」」」」」」


 全員が息を呑んだ。

 これほど強い命令をしたのは初めてかもしれない。でも……こいつとの因縁は、俺がケリを付けないといけない。

 俺は、腰にある刀……キルストレガを抜く。


「ケリを付けよう」

「……く、はは、そうで、すね」


 アシュクロフトは、残された左手で剣を抜く。身体を動かすたびにミシミシバチバチと音がした。こんなの対等の勝負じゃないとか言う奴はいるだろうが、そんなの問題じゃない。決着をつけることが大事なんだ。


「……行くぞ」

「ええ……これが、最後です」


 アシュクロフトはフェンシングのように構え、俺は野球のバッターのように剣を構える。

 これが、最後。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」

「はぁぁぁぁッ!!」


 俺は剣を構えダッシュ、アシュクロフトも全身を軋ませながら走り、剣が交差した。

 俺の手には、しっかりとした手ごたえがあった。


「さすが、ですね……」


 ガシャンと、アシュクロフトの身体が右肩から左わき腹にかけて真っ二つになり、地面に落ちた。

 こんな状態のアシュクロフトに、負けるわけがなかった。

 でも、こいつには刻みたかった。俺が勝ち、お前が負けたという証を。

 俺は、アシュクロフトに近づく。


「俺の勝ちだ、アシュクロフト」

「……ええ、私の敗北です」


 どっかりと座る。

 思えば、こうやって話すのは初めてかもしれない。


「負けた感想は?」

「さぁ……なんとなく、あなたが出てきた時点で負けを感じていました。なので、あまり悔しいという気持ちはありません」

「悔しい? お前が?」

「ええ。あなたに恐怖して以来、私の中には様々な情報があふれてきた……きっとこれが感情なのでしょうね。不思議と、今は心地いい」

「…………感想は?」

「さぁ……秘密です」


 アシュクロフトは、欠けた顔で笑った。

 純粋な、人間のような笑顔に見えた。


「少し、意地悪な話を」

「あ?」

「センセイ、あなた方はもう、元の世界に帰ることはできません。異なる次元を繋ぐ技術は、こちらの世界だけでなく、あなた方の世界も大きく歪む。次に次元同士を繋ぎ、干渉させれば……互いの世界は衝突し、完全に消滅する」

「はぁ!?」

「今回、たまたま次元が安定していたので繋ぐことができましたが……次の安定期は数千年先でしょう。残念ですが、この世界で生き、死んでください」

「なんだそれ……ったく、むかつく奴だな」

「ははは……あぁ、それと、アルヴィートに謝っておいてください。彼女には迷惑をかけました……」

「……ああ。すぐそこにいるけど」

「いえ、あなたが伝えてください……お願いします」

「……わかった」


 アシュクロフトは静かにほほ笑む……こいつ、こんなに穏やかに笑うのか。


「残念ですが、私は何も語りませんよ。私はあなたに敗北した。アンドロイド軍の兵器として戦い、人間のあなたに負けた……それだけです」

「…………ああ」


 俺は、アシュクロフトに言わなきゃいけないことがある。

 こいつは、自分の意志でシャットダウンするつもりだ。だから、今しか言えない。


「アシュクロフト、最後にこれだけは言わせてくれ。お前はムカつく野郎だし好き勝手やってみんなを困らせた」

「…………」

「でも、どんな理由であれ、生徒たちを守ってくれたことは……感謝する」


 すぐ近くにある遺跡で、ミノタウロスに襲われた。

 どんな理由があろうと、アシュクロフトはみんなを、生徒を守ってくれた。

 それだけは、礼を言いたかった。


「…………センセイ」

「ん?」


 アシュクロフトは、欠けた顔で苦笑した。


「あなたは、やはり大馬鹿者だ」


 そして、プツンと停止した。



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