第296話、MID BOSS オーバーロード・Type-INFINITY②/真の姿

 目の前には、無数の軍勢。後方には巨大兵器たち。

 対してこっちは、ひょろい人間に戦乙女型アンドロイドが五体……うん、楽勝だ。

 俺たちの勝ちは揺るがない。そうだ、今の俺は負けない。


「センセイ、どうする。これだけの数」

「ってかセンセイ、この空はなんだ? アタシたちに影響はねーのか?」

「この歯車の雨? 不思議ですわね……触れることができませんわ。身体を通り抜けてしまいます」

「キラキラッスねぇ……ま、センセイのことだから、とんでもないことするんでしょうねぇ」

「なんかキラキラしてお菓子みたい!」


 五人は個々に喋りまくる。というか現在、ヴァルトラウテの盾の陰に隠れ、TypeーJACKのビームフェイズライフルから身を守っている。

 カラミティジャケットとウロボロス、量産型TypeーLUKEも動き出した……今まで見なかった量産型LUKEが動き出したってことは、アシュクロフトの野郎は全戦力を投入したと考えていいだろう。


「…………だけど、無駄だ。くふふふふ」

「センセイ、キモいッスよー」

「うるさいっての」

「あう」


 レギンレイブを小突き、俺は指をコキコキ鳴らす。

 なぜ、俺がこんなに余裕なのか。なぜ、俺が全軍を下げたのか。なぜ、俺が自信満々に前に出てきたのか。

 全ての答えはこの空、そして……落ちてくる歯車にある。


「お前ら、今からすごい光景を見せてやる。機械の神の力、驚くなよ?」

「「「「「?」」」」」


 俺は手をかざし、『機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナヤルダバオト』に命じる。




「『模造工場イミテーション・ファクトリー』・皇牛モーガン・ムインファウル×1000、スタンバイ」




 俺は、ヤルダバオトの能力を発動させる。

 大地と同化した透き通る歯車、『機神の欠片ゴッド・ピース』が、俺が今まで触れた機械を一瞬で造り上げる。

 俺たちの目の前に、1000体のモーガン・ムインファウルが……黒牛ブラックバイソンの群れが現れた。


「「「「「  」」」」」

 

 シグルドリーヴァたちは、言葉を失っていた。

 そりゃそうだ。いきなり目の前に、1000体のモーガン・ムインファウルが現れたんだからな。


「行け」


 横一列に並んだ1000頭の黒牛ブラックバイソンが、TypeーJACK目掛けて走り出した。


 そう、これが俺のチート覚醒。


 天空から落ちる透き通る歯車こと『機神の欠片ゴッド・ピース』が地面と同化、あらゆる機械を一瞬で複製し造り上げることができる能力。

 今の俺なら、数百万、数千万の軍勢だって作れる。

 モーガン・ムインファウルの群れがTypeーJACKを蹂躙する。ただ横一列に並んで走るだけで、数千数万のTypeーJACKが破壊されていく。

 まだまだ、こんなもんじゃない。


「『模造工場イミテーション・ファクトリー』・紅蓮破龍サンスヴァローグ・隼帝グリフィン・フリューゲル・亀翁クルーマ・アクパーラ・熊騎王ウルスス・アークトゥルス×1000、スタンバイ」


 『機神の欠片ゴッド・ピース』が空、大地から集まり、あっという間に5000の軍勢が完成した。

 しかも、一体一体が破格の力を持つバケモノだ。全軍を突撃させ、敵アンドロイド軍を蹴散らしている。


「…………アタシら、いらなくね?」

「センセイ、お前……とんでもないバケモノだな」

「確かに、自分でもそう思う。チートにもほどがあるぞ……」

「でもでも、これで形勢逆転じゃないッスか?」

「ほんとだ!」

「いや……まだ、あの巨大兵器が残っている」


 アシュクロフトの乗る、アンドロイド軍の最終兵器だ。

 モーガン・ムインファウルがTypeーJACKを蹴散らし、サンスヴァローグがカラミティジャケットを破壊し、ウルスス・アークトゥルスがウロボロスを叩き壊し、グリフィン・フリューゲルが上空からレーザーやミサイルを撃ちまくり、クルーマ・アクパーラが爆風から俺たちを守っている。

 こんな状況なのに、アシュクロフトの最終兵器は……あれ?


「センセイ、なんか動き出したよ!」

「ああ。敵も……いや、アシュクロフトも本気のようだな」


 巨大兵器の黒いドラゴンが、ゆっくり動き出した。

 でも、様子がおかしい……?


「…………ま、まさか」

「なんだ、挙動がおかしいぞ?」


 シグルドリーヴァと他のみんなが首を傾げるが、俺にはわかった。

 巨大兵器が、ゆっくり上昇している。そして、ガチャガチャと身体の部品が動き始めた。

 そうか、巨大兵器……そしてドラゴンの形。そう来たか!!


「あれは……変形だ!!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 巨大ドラゴンロボのパーツが分離し、必要ないパーツが落下していく。

 最終的に残ったのは、頭部とボディの僅かな部分だ。それらが変形し、手足が形成され、ドラゴンの翼が背後へ。そして、背中に二対の砲身と、手には大剣が握られ、ドラゴンの顔から人間のような顔が現れた。

 全長約50メートルほどの、戦隊モノに出てきそうな人型ロボットが降臨した。


「くっ……や、やるじゃねぇか」

「センセイ、なに言ってるんすか?」


 黒いドラゴンロボは背中の翼にあるブースターを噴かして飛んだ。

 そして、一瞬でモーガン・ムインファウルを一刀両断した。あまりの速さに俺たちはかなり驚いた。


「こっちに来るぞ!!」


 シグルドリーヴァが叫び、大剣を構える。

 黒いドラゴンロボは俺たちから少し離れた場所で止まった。


『お久しぶりですね、センセイ……』

「アシュクロフト……!!」

『この現象、あなたの仕業ですね? くくく、本当にあなたは恐ろしい……あなたをこの世界に喚んだことで、全てが狂い始めた』

「そりゃあどうも……で、もう諦めたらどうだ? この状況、そのカッコいいロボットだけじゃひっくり返せないだろ」

『それはどうでしょう? この『INFINITYインフィニティOVERGEARオーバーギア』はあなたたちを始末するための形態。あなたたちを始末した後、ゆっくりと元の姿で世界を終わらせますよ』

「それはどうかな? 言っておくが、俺はまだ本気じゃないぜ」

『ほう……』


 俺は背後に七つの『戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー』を作り出す。

 そして、転送装置を作り、ジークルーネをこの場に転移させた。


「あ、あれ? なんで? センセイ?」

「治療は自動設定にした。ビーハイヴ・ワスプも動いてるから問題ない」

「……は、はい」


 ジークルーネ、疑問は後にしてくれ。

 今は……こいつを倒すのが先だ。

 俺は、6人の戦乙女たちに向かって高らかに叫ぶ。




「みんな、合体だ!!」

「「「「「「は?」」」」」」




 あの、ショックなんで「は?」って顔やめて。恥ずかしいだろ!!

 と、とにかく、合体だ。


「オーディン博士が残した『戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー』最強の力を見せてやる!! 乙女合神!!」


 俺は手をかざし、ポーズを決めて叫んだ。

 乙女合神。それは、『戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー』の所有者が叫ぶことで発動する最強最後の力。

 七つの遺産の合体。それが、遺産の真の姿だ。


『な、これは……!!』


 【天馬ヴィングスコルニル】 

 【隼帝グリフィン・フリューゲル】 

 【皇牛モーガン・ムインファウル】 

 【亀翁クルーマ・アクパーラ】

 【花蟲蜂ビーハイヴ・ワスプ】

 【騎熊王ウルスス・アークトゥルス】 

 【蓮破龍サンスヴァローグ】 


 七つの遺産が分離し、それぞれが合体する。

 サンスヴァローグがボディに、モーガン・ムインファウルが手足に、グリフィン・フリューゲルが背中に合体し、ウルスス・アークトゥルスが鎧のようになり、クルーマ・アクパーラが盾となり、ビーハイヴ・ワスプが体内へ。そしてヴィングスコルニルが槍となり、最後にサンスヴァローグの頭部が顔に変形。女性型の顔になった。


「な、なんだ!?」

「うぉぉっ!?」

「きゃあっ!?」

「へっ!?」

「わわわっ!?」

「うわっはぁ!!」

「よっしゃぁ!!」


 シグルドリーヴァ、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、レギンレイブ、ジークルーネ、アルヴィート。そしてブリュンヒルデの代わりに俺が、合体した遺産の中に転送される。

 転送先はグリフィン・フリューゲルの中。コックピットのように、七つの席があり、そこに姉妹たちが搭乗した。

 全長約50メートル。盾と槍を持った、翼ある戦乙女の合体兵器が完成した。




「完成!! 乙女機神ヴァルハラー・メイデン!!」

「「「「「「…………なにこれ」」」」」」




 さぁ、こいつでアシュクロフトをぶっ倒してやる!!

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