第295話、MID BOSS オーバーロード・Type-INFINITY①/機械仕掛けの神ヤルダバオト

 透き通る歯車の空。

 黄金、白銀、青銅、赤銅の歯車が空を埋め尽くしている。

 カッチリ嵌った歯車は音もなく周り、大陸全土を覆う規模に広がっていた。そして、空から───小さな、透き通った手のひらサイズの歯車が、キラキラ輝きながら落ちてきた。


「こ、れは、なん、だ?」


 アシュクロフトは、理解できない現象にパンク寸前だった。

 きらきらとした光の雨……小さな歯車が、雨のように降り、地獄のようなアンドロイドと人類の戦場を、場違いなまでに彩ったのだ。


 全てが、停止していた。

 人間も、獣人も、アンドロイドも、エルフも、吸血鬼も、ドワーフも、亜人も、魚人も……この場にいる全ての生命が動きを止め、幻想的な光景に魅入っていた。


「…………あ、れは」


 そんな、光の歯車の雨の中、一人の人間が歩いてくる。

 拳を握り、手のひらに打ち付け、自信満々に笑いながら。

 今までとは違う、おどおどした雰囲気は消え、やるべきことをしっかり見据えた。大事な物を取り返し、この戦いに終止符を打つ存在だ。

 

「さぁて……いっちょやりますか!!」


 『機神の御手ゴッドハンド』と呼ばれる機神の手を持つ教師、センセイことセージは、光の歯車の雨の中、堂々とやってきた。


 全てを終わらせる。ただ、それだけのために。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、かっこよく登場した俺の前に、シグルドリーヴァたち戦乙女五人が一瞬で集まってきた。この状況で俺を見つけてくるとは、忠犬みたいなやつらだ。


「せ、センセ、これ……センセの仕業っスか?」

「まぁな。オーディン博士も到達できなかった『機神の御手ゴッドハンド』のチート覚醒、その名も【機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナヤルダバオト】だ」

「えぇ~……じゃあセンセ、父ちゃんよりスゴイんすかぁ?」

「なんだよその不満そうな顔……」


 レギンレイブの頭を軽く小突き、ついでに『修理』する。

 ついでに、オルトリンデとヴァルトラウテ、シグルドリーヴァとアルヴィートの頭にポンポン触れて『修理』をし、この状況を確認した。

 俺は、シグルドリーヴァに向けて言う。


「アンドロイド軍の総戦力、そして……ロキ博士の切り札か」

「そうだ。お父様は、この世界の行く末を決めるのは私たちだけでなく、この世界の人間であると言っていた。オリジンと協力し、この世界に生きる全てに協力の準備をしていたようだ」


 オリジン……そうか、あいつも人類軍みたいなもんだしな。それに、一国の王でもある。

 オリジンの協力があれば、他国に協力要請できるかもしれない。その結果がこれ……たいしたもんだよ、本当に。

 すると、光の歯車の雨のなか、見覚えのある連中がゾロゾロやってきた。


「アルアサド王……」

「……借りは返す。それだけだ」


 ツンデレみたいなセリフを吐く獅子の獣人はそっぽ向く。よかった、奥さんと息子の件で後味悪い別れをしたけど、どうやら結果的によかったらしい。


「よぉ、ひっさしぶりじゃねぇか。元気だったか?」

「ファヌーア王! お久しぶりです」

「ところで、ゼファールドの奴はどこじゃ? くたばったか?」

「後方で待機しています。元気ですよ」

「そうかそうか! 全て終わったら酒でも飲もうや!」


 もじゃもじゃ鬚のドワーフで、ゼドさんの弟だ。

 この人も元気そうだ。というか、来てくれたんだ……。


「…………ふん」

「…………ど、どうも」


 エルフ族のアシュマーさん。

 あんまり友好的じゃないけど……たぶん、オリジンが行けって言ったから仕方なく来た、って感じかも……まぁいいや。アルシェと会ったら喧嘩始まるかもな。


「セージ殿! ご無事で!」

「生きてたのねぇ……」

「かっかっか! ド派手な登場じゃな!」

「皆さん! お久しぶりです!」


 オーガ族のダイモンさん、ラミア族のエキドゥナさん、龍人のヴァルトアンデルスさんだ。そういえば、俺はこの人たちとちゃんと別れを言えてない。行方不明扱いだったし、ずいぶんと心配をかけたようだ。

 このオストローデ王国の平原に、これだけの種族が集まって戦っている。

 全て、この戦いを終わらせるために。


『聞こえるか、センセイよ』

「オリジン! そうか、お前が集めたのか」


 手のバンドから、オリジンの声が。

 みんなは首を傾げているが置いておく。通信回線って言ってもわからんしな。


「ありがとう、オリジン。お前のおかげだ」

『いや、わらわよりロキをねぎらえ。ほとんどあいつのおかげじゃな』

「そっか……じゃあ、全部終わったら挨拶に行くよ」

『うむ。だが、数ではこちらが負けている……まだまだ油断するな』

「ああ、それなら大丈夫」


 俺は、みんなに聞こえるように言った。


「あとは俺が戦う。みんなは下がってくれ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 歯車の雨は未だに降っている中……みんなは仰天していた。


「せ、センセ、あの……俺が戦うってのは?」

「言葉の通りだ。あとは俺がやる。今はこの歯車で動きが止まっているけど、アンドロイドはすぐに再起動する。全軍を下げてくれ」

「……冗談、ではないのだな?」


 レギンレイブが仰天し、シグルドリーヴァが眉を顰める。

 だけど俺は言う。当たり前の事実だ。


「ああ。今なら言える。今の俺は間違いなく、この世界で最強だ」


 これは、事実だ。

 この今の俺は、アンドロイドの軍勢相手でも決して負けない。

 

「アンドロイドの再起動まで数分、全軍を撤退させてくれ。後方に遺跡があるから、そこまで下がって怪我人の治療を」


 すると、アルアサド王が前線に戻る。


「…………全軍撤退させる。あとはお前の好きにしろ」

「アルアサド王……」

「ふん、借りは返す。お前の言うことも聞いてやる」


 そう言って、前線に戻った。

 なにあのツンデレ、マジでアルアサド王か?


「しゃーねぇな、おい、ワシらも撤退じゃ!」


 ファヌーア王の声で、他の王たちも頷いた。

 全員が盾や魔術で障壁を張りながら撤退を始める。アンドロイドたちはまだ再起動していない。予想外の現象に電子頭脳がフリーズし、再起動に時間がかかっているようだ。

 俺は戦乙女たちに言う。


「俺はあのアンドロイドを蹴散らして、ブリュンヒルデの元へ向かう」

「「「「「…………」」」」」

「一緒に行くか?」

「……当然だ」

「あたりめーだ!」

「はい!」

「うっひひ、行くっスよぉ!」

「いっきまーす!」


 五人はメインウェポンを展開し、俺の左右に並ぶ。

 光の歯車の雨の中、俺は一歩前に出た。


「さぁ、最後の戦い……派手に行くか!!」


 アンドロイド軍が再起動、Type-JACK、カラミティジャケット、ウロボロスが動き出す。

 こちらの戦力は戦乙女が五人、そして俺。

 

 これが、この世界最後の戦い。

 オストローデ王国、最終決戦だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る