第290話、地より目覚めし悪龍INFINITY・OVERLOAD④/ぼくの生きた証

 鬼王ダイモン、毒蛇女王エキドゥナ、黄龍王ヴァルトアンデルス。

 ラミュロス領土に存在する三人の亜人の王は、精霊王オリジンの呼びかけに答え、オストローデ王国のアンドロイドたちと戦っていた。


 表向きは精霊王オリジンの願いを聞いたということだが、現実は違う。

 人間の教師、センセイがここにいる。その話がきっかけだったのは間違いないだろう。

 センセイ。三種族を繋ぐ架け橋となった、全く関係のない人間。オストローデ王国の刺客と戦い、そのまま拉致されたと聞いていた。


 だが、今はこうしてオストローデ王国と戦っている。

 長い争いに終止符を打った人間の頼みを聞くために、この場に参上した亜人たち。

 鬼王ダイモンは、巨大な棍棒でType-JACKを粉砕した。


「怯むなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」

「「「「「ウオォォォォォォッーーーーーッ!!」」」」」


 先陣を切り、Type-JACKのビームフェイズガンをものともせずに突っ込む。

 恐怖を感じないType-JACKは幸せだったかもしれない。まともな人間だったら、この鬼たちを見ただけで震えあがってしまうだろう。

 

「借りを返しますぞ、セージ殿!!」


 鬼の大群は、Type-JACKを粉砕しまくった。


 ◇◇◇◇◇◇


「みんな~……オーガさんとドラゴンさんの援護ね~」


 毒蛇女王エキドゥナは、眠そうな目を擦りながら、Type-JACKの群れに対処していた。

 ラミアは魔術が得意だ。なので、近接戦闘でType-JACKを破壊しているオーガと龍人の援護に徹している。もちろん、近接戦闘が苦手というわけではない。


「ふぃぃ~……センセイだっけ、すごいなぁ」


 こんな、アンドロイドの大群と戦っているなんて。

 三種族の諍いが子供の遊びのように思えた。

 

「あ、ヴァルトアンデルスじゃん」


 上空に、巨大なドラゴンが飛んでいる。大きな口から炎のブレスを吐き出し、Type-JACKが融解していた。


「おっきいねぇ……ほんと、みんな強い」


 エキドゥナは、戦いが嫌いだ。

 みんな仲良くしろと声高に言うつもりもないが、それでも争いごとは面倒だから嫌いだった。だから、この戦いも嫌いだ。


「さっさと終わらせてぇ~……お昼寝したい」


 そう言って、本気で戦う決意をした。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヴァルトアンデルスは、龍人だ。

 人間の姿は借りで、本来は漆黒のドラゴンである。今はドラゴンの姿で、仲間を率いて上空からカラミティジャケットとウロボロスを相手にしていた。

 部下のドラゴンも善戦しているが、カラミティジャケットとウロボロスは非常に硬かった。


「ったく、厄介厄介!!」


 ウロボロスに噛み付き、金属の装甲を容易く食いちぎる。

 ウロボロスを破壊したが、このミミズのような鉄の怪物はまだまだいる。大地をニョロニョロと動き回る姿は、気持ち悪いとしか言いようがない。


「けっ……」


 戦いは好きだが、これは戦いじゃない。

 こんなバケモノに意志があるとは思えない。誇り高き龍人が相手にするのに、相応しい相手じゃない。

 ヴァルトアンデルスは、くだらなそうに言った。


「さっさと終わらせて、酒盛りといこうかの!!」


 ◇◇◇◇◇◇


「…………これが、力。お父様の、切り札」


 シグルドリーヴァが、ポツリと言う。

 いつの間にか、戦乙女型が五人そろっていた。Type-JACK・カラミティジャケット・ウロボロスと戦う、人間・亜人・獣人たち。

 守るために、戦うために作られた戦乙女型が、守られていた。


『よし、分析完了……ミラーコートの展開位置を特定。よく聞きなさい』

「お父様!!」


 戦乙女たちの頭に、ロキ博士の声が響く。

 

『ミラーコートを破壊するためには、コート展開部を破壊しなくてはならない。あのアンノウン兵器のミラーコート展開部はダミーを含め9999の展開部がある。そのうち一つを破壊すれば、ミラーコートは張れないはずだ』

「だ、ダミーが9999っスか……」

「それだけの数を破壊するのは不可能ですわ……ミラーコートが展開されれば、ダミーすら破壊不能ですわね」

『そうだ。だから一撃、一撃で本物を破壊する。ミラーコートを破壊して、あとはセンセイに任せるんだ……直接触れることができれば、あれは破壊できる』

「…………おい」


 オルトリンデは、気が付いた。

 

「ロキ博士、あんた……怪我でもしてんのか?」

『…………ふ、心配ない。少し脳を酷使しただけだ。休めば治る』

「お父様……」

『シグルドリーヴァ、私は父ではない……お前を復讐に利用しようとした、ただの研究者にすぎないよ』


 突き放すような声だった。

 そして、シグルドリーヴァたちの頭の中に、ミラーコート発生部分の正確な情報が伝わってくる。


『チャンスは一度、シグルドリーヴァ……できるな?』

「はい……!!」

『ふ、そうか……あとは、任せる。乙女たち』


 通信が切れた。

 INFINITY・OVERLOADは沈黙している。ミラーコートを過信している今しか、チャンスはない。

 五人の乙女たちは互いに頷き、メインウエポンを展開した。


「シグルド姉、アシストはアタシらに任せろ……いいか、ぜってーに決めろ」

「言われるまでもない」

「シグルド姉、頼むっすよ!」

「シグルドお姉さま、お願いしますわ」

「お姉ちゃん、よろしく!」

「……ああ!!」


 乙女聖剣レーヴァスレイブ・アクセプトを構えたシグルドリーヴァ。

 乙女激砲カルヴァテイン・タスラムを担ぐオルトリンデ。

 乙女絶甲アイギス・アルマティアを装備するヴァルトラウテ。

 乙女天翼フリーアイカロスを背負うレギンレイブ。

 乙女武装ブリテン・ザ・ウェポンズの全武装を展開するアルヴィート。


「行くぞ……【乙女神技ヴァルキリー・フィニッシュ】だ」

「おう!」

「はい!」

「ういっス!」

「はーいっ!」


 戦乙女五人の力が、一つになる。

 シグルドリーヴァがINFINITY・OVERLOADに向かって飛び出した。

 同時に、四人の乙女の最強技が煌めく。


オルトリンデの最強技・【戦乙女の大炎華レーヴァテイン】が発射。

ヴァルトラウテの最強障壁【戦乙女の城砦壁パラス・アテナ】が獣人や亜人を守る。

レギンレイブの翼そのものを発射する【戦乙女の飛翔撃フレスヴェルグ】が空を舞い。

アルヴィートの全武装を投擲する【戦乙女の終焉武ラグナロク】がINFINITY・OVERLOADに向かって飛ぶ。


 INFINITY・OVERLOADは、圧倒的熱量から身を守ろうと、ミラーコートを展開……だが、最初に飛び出したシグルドリーヴァが、ミラーコート展開部に向けて突っ込んだ。


「はぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」


 シグルドリーヴァの最強剣【戦乙女の紫電突グングニール】。

 ミラーコート展開、同時にシグルドリーヴァの乙女聖剣が突き刺さる。

 

「─────ッッ!!」


 ガギギ、ガギギギと、剣が突き刺さり、ミラーコート展開部が爆発した。

 INFINITY・OVERLOADの防護壁を、完全に突破した瞬間だった。


 あとはセンセイに託す。それが戦乙女たちの総意だった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇


 ◇




 ロキ博士は一人、浮遊椅子に座りながらシグルドリーヴァたちの活躍を見ていた。

 INFINITY・OVERLOADのミラーコートが破壊された瞬間を見て、モニターを切る。

 

「…………ふぅ」


 やれることは全てやった。

 長い間、他国に根回しをしたり、オリジンの正体を突き詰め生命維持に協力したり、オストローデ王国の決戦時に兵士を派遣するように根回しもした。


「……センセイがいなければ、間に合わなかったかもな」


 センセイ。

 彼が歩んだ道があったからこそ、他国に協力を取り付けることができた。

 ヴァンピーア王国だけはセンセイの協力ではなく、自分の意志で協力してくれたが、そんなことはもはや、どうでもいい。

 ロキ博士は、やり遂げた。


「……はぁ。間に合って、よかった」


 瞼が重くなる。

 猛烈な眠気を感じるロキ博士……もう、限界だった。

 

「転移、そして分析……腐りかけの脳では、負担が大きいようだ」


 ロキ博士の脳。これだけは生身のままだった。

 電子頭脳に人格をコピーして置き換えることももちろん可能だが、ロキ博士はそれをしない。最後の最後まで、人間であることを選択し、生身の部分である脳は残そうと決めていたのだ。

 特殊な薬液で頭の中を満たし、脳の腐敗を妨げていたが、やはり限界は近かった。

 転移の魔術を解析し自ら使用、INFINITY・OVERLOADを分析するために脳を酷使した結果、脳の限界を迎えてしまった。

 もう、助からない。人間である以上、死は絶対だ。


「…………ぁ」


 重くなる瞼。

 ロキは、昔のことを思い出した。




『ロキ、おいで』

『待ってよ、ワルキューレおねえちゃん』




 小さな、五歳ほどの少年が、十歳ほどの少女を追いかけている。

 長い銀髪の、赤い瞳の少女。ロキの家の隣に住む、幼馴染の少女。




『ロキ』




 彼女にとって自分は、弟のような存在だったのだろう。

 自分はそうじゃなかった……初恋、だった。




『私、結婚するの』

『え……』




 そう言って、彼女は結婚した。

 相手は、年上。しかもけっこうなおじさんだ。

 それでも、互いに愛し合っていた……。




「おねえちゃん……ぼく、おねえちゃんのこと……」




 誰にも言えなかった想い。

 ずっと好きだった。愛していた。だから─────。




『ロキ─────』

「あ……」




 ロキは、手を伸ばす。

 その先にいたのは、銀髪の─────。

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