第289話、地より目覚めし悪龍INFINITY・OVERLOAD③/ロキ博士とオリジン
「てめーは……」
『code02。あのアンノウン兵器はオストローデ王国の最終兵器だ。電子頭脳にはTypeKNIGHTが使用されている』
「お、おい。なんでそんなこと」
『決まっている。分析したからさ……こう見えて、アンドロイド関係のスペシャリストだからね』
声の主……ロキ博士は、いつもと変わらない胡散臭い陽気な声で言う。
「お父様、あの兵器の弱点をお願いします」
『シグルドリーヴァ、現状の兵器であれを破壊する手立てはない。だが、センセイなら……彼の力なら破壊できる』
「え……?」
『彼は間違いなく覚醒しているはずだ。『
「そ、それはどういう……」
『アンドロイド、いや……全ての機械にとって最悪の能力だ。触れるだけで機械を破壊することができる。私は一度だけ、オーディン博士に見せてもらった……今のセンセイなら使えるはず。センセイを呼ぶんだ』
「ですが、いくらセンセイを呼んでも、敵機の数が尋常ではありません。幸い、あの巨大兵器は沈黙していますが、このままでは」
『問題ない。
「え……?」
こうして話している間にも、Type-JACKの砲撃とカラミティジャケット、ウロボロスが迫ってくる。
数万体の数相手には、最強の戦乙女型でも対処できない。INFINITY・OVERLOADが動かないのは、圧倒的な物量のアンドロイドたちがいるからである。
INFINITY・OVERLOADが飛空艇だけを狙ったのは、上空に回避されるのを避けるためだ。それ以外に攻撃の兆しは見られなかった。
「うっひぃぃっ!? なんでもいいから何とかしてくれっスよぉぉぉっ!!」
「わわわっ、避けるの辛いぃぃ~っ!!」
レギンレイブとアルヴィートがビーム光弾を躱しながら叫ぶ。
このままでは破壊されるのは時間の問題。
シグルドリーヴァは、ロキ博士に語り掛ける。
「お父様、まずはこの状況を」
『ああ……』
「……お父様?」
『シグルドリーヴァ……私は君の父ではない。キミは……オーディン博士の娘だ』
「え?」
『だが、キミを起動させてから今日まで……楽しかった』
「お、お父様?」
『ふふ、娘か……今になってオーディン博士の気持ちがわかるなんて、ね……』
「お父様……お父様?」
『さぁ、これが私の最後の切り札……』
すると、周囲にいくつもの魔方陣が現れた。
この魔方陣パターンは知っている。これは魔術による力。そして……転送の魔術だ。
サイボーグのロキ博士が魔術を使用した。違う、これは魔術ではない、技術の力だ。
『くくく……この世界が滅びるか生き残るかの戦いだ。全ての命を背負うのが我々だけでは……駄目だろう? なら……この世界に生きる全ての者が力となって、世界の行く末を……』
魔方陣は、周囲一帯を覆いつくした。
そして、転送されてくる。
人が、獣人が、亜人が、エルフが、様々な種族たちが、このオストローデ王国の平原に現れた。
すると、シグルドリーヴァの耳に、若い女性の声が聞こえた。
『どうやら、間に合ったようじゃな』
「……誰だ?」
『わらわはオリジン。ユグドラシル王国の精霊王にして、人類軍の実験体だった者じゃ。魔科学調整体の生き残りと言えばわかるかの?』
「…………」
人類軍が作り出した、アンドロイドしか使えない魔術を人間が使うために開発された実験体だ。シグルドリーヴァのデータには全て死亡、または破棄されたとある。
『ロキと一緒に周辺国家に根回ししていたのよ。いつか大きな戦いが起こる、その時のために力を貸せとな……最近まではいい返事をもらえなかったが、くくくっ……セージの名を出したら面白いように喰いついたわ』
Type-JACKの砲撃を、マジカライズ王国の魔術師たちによる防御壁でガードされた。
ディザード王国のドワーフが作り出した武器を持つ、フォーヴ王国の獣人たちが雄叫びを上げ、ラミュロス領土の龍人、オーガ、ラミアたちもいた。
陸に上がった魚人たちや、吸血鬼、エルフたちもいる。
「なんだ、これは……」
『数には数、ということじゃな』
◇◇◇◇◇◇
フォーヴ国王アルアサドは、雄叫びを上げる。
「いいか!! 敵はあの金属兵士たちだ!! 野獣の力を見せつけてやれ!!」
「「「「「ウォォォォォーーーーーッ!!!」」」」」
エルフの王オリジンが言った、『オストローデ王国を倒すために力を貸せ』の意味はよくわからない。だが……『あの人間』が絡んでいるなら話は別だった。
不治の病の妻と息子を救い、何も言わずに去っていった。
借りができてしまった。
腹立たしかった。何もできずに人間に当たり散らす自分が情けなかった。
奴隷制を廃止し、盾着く奴を徹底的に黙らせた。
人間、人間、人間……アルアサドは、借りを返したかった。謝りたかった。礼を言いたかった。
「クソが……オレを、オレを……オレをこんな気にさせやがって!!」
アルアサドは、巨大な斧を担ぎ、Type-JACKに向かって突撃した。
◇◇◇◇◇◇
「カカカカカッ!! 獣人ども、いい仕事しやがる!!」
ドワーフの王ファヌーアは、オリジンの頼みを迷わず引き受けた。
オストローデ王国をぶちのめすチャンス、そして、セージに借りを返すチャンスだから。そして、どこかにいるであろう弟に、兄の強さを見せつけるためだ。
「オメーら!! 獣人どもに負けんじゃねぇぞ!! 武器を作るだけがドワーフじゃねぇ!!」
ファヌーアが叫ぶと、武器を持ったドワーフたちがType-JACKを薙ぎ払っていく。
ファヌーアも負けじと飛び出し、王の強さを見せつけた。
「カッカッカッカ!! さぁ祭りじゃぁぁぁぁっ!!」
◇◇◇◇◇◇
「弓士隊、前線へ出ずに後方から狙撃。魔術部隊も同様だ」
「はっ」
アルシェの兄アシュマーは、エルフの弓士と魔術師に指示を出していた。
自身も相当な腕前だが戦闘には参加しない。後方で指揮を執り、エルフの被害を最小限に抑えるつもりでいた。
「全く、こんな野蛮な戦い……オリジン様は一体、何を考えているのか」
ハンカチを取り出して口に当て、Type-JACK相手に暴れる獣人とドワーフを冷めた目で見ている。
閉鎖的な暮らしをしていたエルフ族にとって、この戦いに意味があるとは思えない。だが、彼らの神であるオリジンが言うので、仕方なく参加していた。
「いいか、被害を出すな。前線へ出ることなく、後方支援に徹しろ」
やはり、エルフはどこか冷たかった。
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