第288話、地より目覚めし悪龍INFINITY・OVERLOAD②/強敵

「っく……」と、シグルドリーヴァが膝をつき。

「バケモンかよ……」と、オルトリンデがボロボロの状態で呟き。

「まずい、ですわね……」と、盾が全て砕け防御不能のヴァルトラウテ。

『ウチも、限界っス……』と、半壊した飛空艇からレギンレイブの通信が入り。

「みんな、こっち手伝ってよぉぉっ!!」と、数千のType-JACKとカラミティジャケット、ウロボロスに囲まれ、砲撃を浴びるアルヴィートが叫ぶ。


 そう、悪龍INFINITY・OVERLOADは、シグルドリーヴァたちの攻撃力を上回り、防御力も全ての攻撃を完全に防御した。

 頼みの綱であるモーガン・ムインファウルの『空間掘削砲』ですら防御した。空間を削り取るという常識から外れた砲撃すら、INFINITY・OVERLOADには通じなかったのである。

 それだけじゃない。カラミティジャケット、ウロボロス、Type-JACKはまだ数万単位でいる。

 いくらアルヴィートが全方位攻撃が可能で、優れた『遺産』があっても、数の暴力には敵わない。少しづつ蓄積されたダメージが、紅蓮覇龍サンスヴァローグを蝕み、いくつかの武装が使用不能になっていた。


 悪龍INFINITY・OVERLOADは、『戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー』を上回る性能であることは間違いない。

 個々の戦力が合わさっても、太刀打ちできない強さだった。


「シグルドお姉さま、何か手は……」

「…………」

「とにかく、あのバケモンを足止めするしかねぇ。周りの雑魚を破壊しながら、ありったけの火力で攻撃するんだ。あのミラーコートの耐久性能も無限じゃねぇ。いつかはぶっ壊れ……」

「私たちが朽ちるのが先、だろうな」

「…………ッチ」


 オルトリンデは、モーガン・ムインファウルを黒牛形態に戻し、盾のように影に隠れた。

 上空の飛空艇はINFINITY・OVERLOADの遠隔砲撃を上手く躱している……が、被弾が多くなってきた。間違いなく、あの悪龍INFINITY・OVERLOADは学習……いや、優秀な電子頭脳を搭載している。


「優秀な電子頭脳……まさか、Type-PAWNか」

「それはありえませんわ。Type-PAWNはジークルーネちゃんが対処しているはず。これだけの巨体を操作する余裕はないはずですわ」

「なら、答えは一つ。センセイの報告にあったTypeKNIGHTだろう」


 Type-JACKの砲撃がモーガン・ムインファウルを少しづつ削る。

 INFINITY・OVERLOADは上空の飛空艇を狙っているおかげで、シグルドリーヴァたちに注意を向けていない。だが、無数のType-JACKたちが代わりに襲い掛かってくる。

 アルヴィートの姿は、遥か遠方にあった。

 カラミティジャケット数体とウロボロス数体を同時に相手している。しかも、武装のいくつかは破壊されていた。


「ジリ貧だ……シグルド姉」

「…………」

「レギンちゃん、聞こえますか? レギンちゃん?」


 ヴァルトラウテはレギンレイブに通信を送る。すると、ノイズのかかった声が。


『わわわっ、ヴぁ、ヴァル姉っ!? うち、けっこうやばいっす!! あの化け物、ウチを狙ってぇぇっ!? わきゃああっ!?』

「レギンちゃんっ!?」


 上空を見ると、INFINITY・OVERLOADのミサイル攻撃が直撃し、半壊した飛空艇が墜落する瞬間だった。

 飛空艇からオルトリンデが離脱し、ハヤブサ形態に戻ったグリフィン・フリューゲルが墜落、落下して爆散した。

 レギンレイブは、慌ててモーガン・ムインファウルの盾に避難する。


「ややや、ヤバかったぁぁ~……ぶっ壊れるところだったっス」

「お前……ックソ、マジでヤバいな」

「これで、制空権はあちらに移りましたわね……」

「…………」


 モーガン・ムインファウルの盾は、もうもたない。

 クルーマ・アクパーラとグリフィン・フリューゲルはすでに破壊された。

 サンスヴァローグも半壊し、アルヴィートが砲撃に晒されている。

 残されたのは、シグルドリーヴァの大剣ベアー・オブ・カリストと、ここにはいないヴィングスコルニル、そしてジークルーネのビーハイヴ・ワスプだけ。

 そして、カラミティジャケットのレーザー光線が直撃したサンスヴァローグが爆散、アルヴィートが投げ出され、慌てて避難してきた。

 これで、戦乙女型は窮地に陥る。


「うぇぇんっ、私のサンスヴァローグがぁぁ……」

「アルちゃん……」

「ヴァルトラウテお姉ちゃぁぁん~……」


 ヴァルトラウテは、アルヴィートを抱きしめる。

 

「……………………」


 シグルドリーヴァは立ち上がる。

 モーガン・ムインファウルが砕ける一分前のことだった。




「逃げろ。ここは私に任せるんだ」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇




「な、何言ってんだ……シグルド姉」

「逃げろと言っている。ここは私が引き受けるから、センセイの元で修理を受けろ」

「そ、そんな……お姉さま一人で」

「そうだ。私の遺産は残っている。数十分……いや、数分は稼げるだろう」

「し、シグルド姉?……あれ、なんか、これ……へんっスね、前にこんなこと」

「…………シグルドお姉ちゃん」


 大剣ベアー・オブ・カリストを担ぎ、シグルドリーヴァの背中を見た四人は、全く同時に同じことがあったと思い出す。

 ロックが外れたような、メモリーの深淵。




『姉さん、ここは私に任せて退避を。数十……いえ、数分は稼いでみせます』

『バカなことを言わないで!! あなたが犠牲になることは……』

『いえ、こいつは『近接戦闘型』、私と相性がいい……』




 深淵から再生された映像は、ブリュンヒルデとシグルドリーヴァの顔だ。

 そうだ、これは……シグルドリーヴァとブリュンヒルデが、破壊された日。




『ブリュンヒルデ、ここは私に任せなさい。私は試作弐号型……総合スペックはあなたより上だけど、あなたと違って改良の余地はない。廃棄されても仕方ない存在なの』

『そんな、姉さんは私より強い!! やるなら私が』




 アンドロイド軍の兵器を相手に、七人で挑んでも倒せなかった敵。撤退すら難しい状況で、誰かが囮になるしかなかった……そこで、ブリュンヒルデが名乗りを上げ、シグルドリーヴァに止められたのだ。




『ごめんなさい姉さん……行きます!!』

『ブリュンヒルデ!!』




 そして、二人は……破壊された。

 シグルドリーヴァはほぼ全壊、ブリュンヒルデは半身が消失……ヴァルキリーハーツが破壊されたかに見えた。が……ブリュンヒルデの欠けた頭部から見えるヴァルキリーハーツは、砕けていなかった。




「ま、まさ、か……シグルド姉」と、オルトリンデ。

「そ、そんな……じゃあ」と、ヴァルトラウテ。

「……そんな気がしてたっス」と、レギンレイブ。

「お姉ちゃん……」と、アルヴィート。




 オルトリンデたちは、気が付いてしまった。

 ここにいるのは、シグルドリーヴァではない。


「シグルド姉……いや、お前……ブリュンヒルデなのか?」

「…………なに?」

「あの時、シグルドお姉さまのヴァルキリーハーツは砕け散った……そして、ブリュンヒルデちゃんのヴァルキリーハーツはcode00の物。つまり、あなたは……code04の、ブリュンヒルデちゃんのヴァルキリーハーツを……」

「…………シグルド姉、やっぱりブリュ姉だったっスね……なーんかブリュ姉っぽいところあるなぁって思ってたっすけど」

「……って、そんなことより!!」


 モーガン・ムインファウルが限界だった。

 五人はメインウェポンを展開して散開、モーガン・ムインファウルは爆散し、Type-JACKの砲撃とカラミティジャケットの砲撃の雨が襲い掛かる。


「ちっくしょぉぉっ!! わけわかんねぇっ!! とにかくこの状況を……」


 オルトリンデがポニーテールを揺らし、叫んだ時だった。






『お困りのようだね……力を、貸そう』






 そんな、聞き覚えのある声が頭に響いてきた。

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