第285話、MID BOSS バシレウス・Type-KING②/怪奇王城
ブリュンヒルデは、オストローデ王城を慎重に進んでいた。
センサーフル稼働、生体反応を検索……だが、それらしき反応は一つもない。町中では感じられた小動物や昆虫並の希薄な生体反応ですら感じなかった。
そう、オストローデ王城は、虫1匹いない。これはこれで異常な空間だった。
『…………』
ブリュンヒルデは、最大の警戒をしながら進む。
エクスカリヴァーンを手に、前方後方、上下左右に気を配り……。
『ッ!!』
窓を突き破ってきた砲弾を切り払い、飾ってあった壺が不自然な勢いでブリュンヒルデの顔面を狙って飛んできたの素手で砕いた。
ポルターガイストなんてものじゃない。コレは明らかに『操作』された動きだ。
ブリュンヒルデは割れた窓に近付き、堂々と身を晒す。だが、追撃は来なかった。
『……敵はどこに』
謁見の間か、最上階。
最初に向かっている謁見の間は現在位置より数百メートル。ブリュンヒルデのセンサーでも捉えられる位置だが、生体反応はない。
この状況は、Type-KINGが起こしている現象で間違いない。なら、大元を叩けばそれで終わりだ。
『…………』
だが、急がない。
どんな罠があるかわからない。
戦乙女型といえども、無敵ではない。破損もするし、ヴァルキリーハーツが砕かれればおしまいだ。
急ぎつつ慎重にと行きたいが、センサーに何の反応も無いので対処に困る。
ブリュンヒルデは、敵の本拠地……腹の中で戦っているのだ。
『…………倒す』
だけど、破壊する。
絶対に負けない。それがセンセイとの約束だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
通路を進むと、一つのアンドロイド反応を感知した。
エクスカリヴァーンを構え近付くと……。
「お待ちしていました。戦乙女型アンドロイドcode04ブリュンヒルデ」
『……データ照合。敵機Type-QUEEN確認。戦闘開始』
「お待ちください。私に戦闘能力はありません」
エクスカリヴァーンを構えた手がピタッと止まる。
昔のブリュンヒルデなら迷わずType-QUEENを破壊していただろうが、今のブリュンヒルデは違う。敵機といえ、話を聞くくらいは成長していた。
『…………』
「感謝します」
『警告は一度です。投降せよ。受け入れられない場合は即刻破壊します』
Type-QUEEN……この国の王女カサンドラは首を振る。
投降拒否、つまりブリュンヒルデと敵対する道を選んだということだ。
「私の役目は『人間との対話』です。来たるべき日に備え、異世界より来た人間の心を掌握すること。それが終わった今、私の存在価値はありません。破壊しても無駄ということをお伝えします」
『…………』
「センセイならともかく、あなた相手では対話も無駄でしょう……Type-KINGを破壊しに来たのですね?」
『はい』
対話に特化したカサンドラは、感情の希薄なブリュンヒルデを口説くことは不可能だと感じた。迷いのない行動、全てはセンセイの指令を完遂するため。
カサンドラが打てる手はない。だが、質問することはできる。
「いくつかお聞きしたいことがあります」
『…………』
「code04ブリュンヒルデ、あなたは……一体何者ですか?」
『私はcode04ブリュンヒルデです』
「いえ、違います。あなたはcode04ブリュンヒルデではない。躯体こそcode04ブリュンヒルデの物ですが、貴女は違う」
『躯体はcode04ブリュンヒルデの物。ヴァルキリーハーツはcode00ワルキューレのい物です。そして、ここにいる私はcode04ブリュンヒルデです』
「複雑ですね……でも、敢えて言います。あなたはcode04ブリュンヒルデではない」
『…………』
このType-QUEENは、何が言いたいのだろうか。
時間稼ぎにしても不自然すぎる。それより、自分の存在を真っ正面から否定され、ブリュンヒルデの中に苛立ちという感情が浮かぶ。
『話は終わりです。投降の拒否を確認。破壊します』
「……どうやら、時間のようです」
『?』
次の瞬間、オストローデ王城が揺れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何が起きたのか、ブリュンヒルデにはわからなかった。
カサンドラを見ると……なんと、床と一体化していた。
「オストローデ王城特殊形態・『バシレウスルーム』起動。これであなたはもう、この城から抜け出すことはできない」
『…………』
ブリュンヒルデは、カサンドラ目掛けてエクスカリヴァーンを振り下ろすが、壁から無数のコードが伸びて絡みついた。
『これは……』
「ふふ、オストローデ王城そのものがType-KINGの制御下にある。貴女はもうここから出ることも、逃げる事もできない。そして……外ではアシュクロフトが、オストローデ王国の最終兵器を起動準備中です」
『最終兵器……?』
「ええ。人類軍も、貴女の生みの親オーディン博士も知らない、アンドロイド軍最強最後の兵器……『
ブリュンヒルデのデータにはない兵器の名前だ。
通信回線を開こうとしたが、電波妨害が酷くセンセイと連絡が取れない。
「では、さようなら」
『ッ!!』
エクスカリヴァーンに巻き付いたコードを引き千切るが、すぐに別のコードが伸びて絡みつく。その間に、カサンドラは床に溶けるように消えてしまった。
『ああ、最後に教えてあげましょう。先程、ロキと名乗る男が我々に接触を図りまして……向こうは気付いていないようですが、ロキの持つデータの一部をハックしましてね。面白い事がわかりました」
『…………』
カサンドラの声が、通路に響く。
『code01、そしてcode04は、アンドロイド軍の攻撃で破壊されたとの情報でしたが、正確には破壊されたのはcode01のヴァルキリーハーツのみで、code04のヴァルキリーハーツは無事だったようです」
『…………』
ブリュンヒルデは、絡みつくコードを切断する。だが、切断する度に別なコードが伸び、ブリュンヒルデの身体に巻き付いていく。
『ロキ博士はcode01シグルドリーヴァの躯体を修復。そして、砕け散ったcode01のヴァルキリーハーツの代わりに、
『…………』
『そう、今のcode01シグルドリーヴァは、本来のcode04ブリュンヒルデ……では、貴女は誰なのかしら? code00とやらなのかしら? それとも……』
『…………』
ブリュンヒルデの身体に、コードが――――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます