第284話、MID BOSS バシレウス・Type-KING①/白猫・虎猫

 ブリュンヒルデは、オストローデ王国の市街地を、ヴィングスコルニル(バイク)で走っていた。時間が止まったかのように静かな町は、ゴーストタウンよりも寂しく見える。


『…………』


 周囲を見渡すが、誰もいない。

 細々とした生体反応はある。だが、人間の反応はゼロ。アンドロイドの反応もゼロ。本当に、全ての人間が操られ、兵士として使われている。

 これらの原因は一つ。Type-PAWNと、オストローデ王国のスパコンだ。

 ブリュンヒルデの任務。それは、オストローデ王国の支配者にして、オストローデシリーズ最強の『Type-KING』の破壊。センセイの指令を完遂すること。


『いいか、必ず勝て。でも……危なくなったら逃げていい』。


 センセイは、そう言った。 

 でも、ブリュンヒルデは負ける気がしない。新しくインストールされた『CODE00ワルキューレINVOKEドライブ』と、センセイの切り札がある。だが、code00ワルキューレの力を解放する新システムは解析不能な部分が多く、ジークルーネも長時間の使用は控えたほうがいいと言っていた。


『……負けない』


 勝つ。必ず勝ち、センセイに……。


『頭を、撫でてもらう』


 クスリと、ブリュンヒルデは微笑む。

 センセイに撫でてもらう。たったそれだけがブリュンヒルデの望み。

 急ぎ、Type-KINGを破壊する。そう思いアクセルを捻ろうとするが、ブリュンヒルデはヴィングスコルニルを急停止させる。


『…………?』

『にゃあ』『なぁご』

『…………』


 進路を塞ぐように、二匹の猫が路地から飛び出してきた。

 一匹は真っ白なネコ、もう一匹はトラネコだ。ブリュンヒルデはバイクから降りると、二匹のネコの元へしゃがむ。


『にゃあ』『にゃあご』

『…………』

『ごろごろ……』『ごろごろ……』


 のどを撫でるとゴロゴロ鳴く。こんなことをしている場合ではないが、飛び出してきたネコを轢くわけにもいかない。それに……。


『猫……』


 ブリュンヒルデは、猫に興味があった。

 エンタープライズ号の中で三日月が飼っている猫に餌をやったりしたこともある。基本的に、戦乙女型は動物に好かれる傾向があるとブリュンヒルデは分析している。

 スタリオンとスプマドール。この戦いが終わったら、広い大地で思いきり走らせてやりたいと思うブリュンヒルデ。


『もうすぐ、この戦いは終わります。あなたたちが幸せに暮らせるようにしますので、もうしばらくお待ちください』

『にゃあ~ご』『なぁーん』


 ブリュンヒルデは二匹を脇にどかして、再びバイクで走り出す。

 当たり前だが、気付くことはなかった。

 この二匹が、三日月の飼っていた『とらじろー』と『しろすけ』だということに。この二匹が、ブリュンヒルデから三日月の匂いを感じたから飛び出したということに。


『にゃあご』

『にゃあう』


 二匹は互いに頷き、オストローデ王城を目指して走り出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オストローデ王城。

 ブリュンヒルデは、王城入口の前でバイクを止め異空間へ収納。エクスカリヴァーンを転送し、大剣モードのまま持って歩き出す。

 王城の門は開いており、まるで『入って来い』と言わんばかりだ。

 罠があるのは間違いない。ブリュンヒルデは、センサーをフル稼働しながら城の中へ踏み込む。


『…………』


 城に入ると、豪華絢爛なホールがブリュンヒルデを出迎える。

 だが、装飾に全く関心のないブリュンヒルデは、罠だけを警戒していた。

 銀細工のシャンデリアや燭台、高価な壺、レースのカーテン、職人がオストローデ王城のために編んだ絨毯。全ての物を調べながら進む。

 そう、注意しすぎということはない。ここはオストローデ王城、敵のアジトなのだから。


 ──────ガシャン!


『…………ッ!?』


 触れてもいないのに、壺が落ちて割れた。

 ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを構え、センサーを全開にする。だが……生体反応、アンドロイド反応共にゼロ。

 壺が落ちて割れたのは偶然─────そうとしか考えられない。


『…………』


 妙な気配だった。

 見られているような。だが、生体反応もアンドロイド反応もない。 

 ブリュンヒルデは、ホールを進み─────。


『─────ッ!!』


 ホールの中央付近で、思いきりバックに飛びのく。

 すると、天井のシャンデリアが、狙いすましたようにブリュンヒルデの頭上に落ちてきた。

 それだけじゃない。バックステップで着地した場所を狙って燭台が倒れ、絨毯が意志を持つかのように滑り、バランスを崩したところで燭台がブリュンヒルデを狙って倒れてきた。


『ハァッ!!』


 だが、その程度でブリュンヒルデは負けない。

 あり得ない体勢のままエクスカリヴァーンを振り、燭台を破壊した。

 そして、すぐに体勢を整えエクスカリヴァーンを構え、センサーをフル稼働させる。


『生体反応、アンドロイド反応…………ゼロ』


 あり得ない。

 こんな偶然、いつまでも続くはずがない。

 城を崩壊させることも考えたが、センセイが『不必要な破壊行為はなしで、オストローデ王国の住人の迷惑になるからな』と言っていたので、派手に暴れることはできない。

 なら、答えは一つ。


『マップ展開。目的地設定……』


 センセイのアドバイスを思い出す。

 『いいか、こういうとき、ボスキャラは大抵高い位置か、王様キャラなら謁見の間にいることが多い。城に到着したら最上階か、謁見の間を目指せ』と、言っていた。

 位置的に、謁見の間が最も近い。


『目的地設定完了。これより、Type-KING討伐のため、謁見の間に向かいます』


 Type-KING。オストローデ王。『不死王ノスフェラトゥ・キングヴァンホーテン』。

 ブリュンヒルデ最後の戦いが、幕を上げた。


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