第283話、反撃開始

 オルトリンデたちは、非常にまずい状況だった。

 二百万のアンドロイドと人間の混合軍が放つビームフェイズライフルが、徐々に徐々に被弾していく。

 レギンレイブの上空援護も追いつかないほど、ビーム光弾の雨がオルトリンデとレギンレイブを襲う。

 そして、ついに『クルーマ・アクパーラ』の盾の限界を超えた。


「きゃあっ!?」


 数千発の光弾からオルトリンデとヴァルトラウテを守っていたクルーマ・アクパーラの盾八枚が、耐久限界を超えて砕け散った。

 オルトリンデはモーガン・ムインファウルを盾にヴァルトラウテを救出する……が、一度に数千発のビームフェイズライフルを受けたヴァルトラウテは、右腕と右足が消失していた。


「くっそ……おいヴァルトラウテ、大丈夫か!?」

「え、ええ……ですが、クルーマ・アクパーラが破壊されましたわ」

「ッチ、アリの一噛みもバカに出来ねぇ……強敵一体より雑魚二百万のほうがよっぽどヤベぇな」


 光弾がモーガン・ムインファウルを少しずつ削っていく。

 オルトリンデも、もう限界が近い。決して少なくない光弾を浴びていた。

 四肢こそ欠損していないが、腕の運動性が大幅にダウンしていた。


「…………どうする」

「それは…………最後の手段、ですわ」

「モーガン・ムインファウルもあと40秒しか保たねぇ。決断のときだ」

「…………」


 センセイは、最後の手段を残してくれた。

 毛髪による遠距離の『修理』は切り札。最後の手段は……。


「もう、殺すしかない」

「…………」


 最後の手段。

 人間を殺す。生きる為に、殺す。

 センセイは、オルトリンデとヴァルトラウテが『死ぬ』ことを望んでいない。二人を失うくらいなら、逃げるか……殺す。

 もちろん、逃げることもできる。だが、それではアンドロイドと人間の混合軍が、センセイの元に向かってしまう。

 切り札の『修理』は残っているが、この状況で使っても意味がない。大きな的で耐久限界まで耐えることしか出来ない。

 ジークルーネからの連絡もない。


「あと20秒……」


 モーガン・ムインファウルが、砕ける。

 無敵の硬度を誇る自慢の砲台が、数千発のビームフェイズライフルを受けてボロボロに朽ちていく。


『オル姉、ヴァル姉っ!!』

「……レギンレイブ、おめーは後退しろ。ここはアタシたちだけでいい」

「ふふ、そうですわね……やっぱり」

「ああ、ダメだわ……殺せない、逃げれない」

『ちょ、何言って……』

「悪いな、レギンレイブ……センセイに謝っとけ」

「さよなら、レギンちゃん。センセイたちによろしく」

『ばっ、バカ言わないで欲しいッス!! こんにゃろ、ウチが」

「止めろ!!」

『ひっ』


 残り10秒、モーガン・ムインファウルはもはや原型を留めていない。

 オルトリンデは、ヴァルトラウテの手を掴んだ。


「あとは任せた。あばよ、センセイ」

「さよなら、みなさん。楽しかったですわ」


 残り5秒――――。


 モーガン・ムインファウルが砕け、爆発した。

 盾はもうない。


 残り2秒――――。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「よし、ジークルーネ……やっちまえ!!」

「はい、センセイ!!」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……あら?」

「……お?」


 光弾が、止まった。

 破壊されたモーガン・ムインファウルから覗くと……Type-JACKと魔導強化兵士の動きが止まっていた。

 魔導強化兵士が、ビームフェイズライフルをガシャガシャとその場に落とす。そして、全員が回れ右をし、そのまま走り出した。


『姉さんたち、お待たせ!』

「ジークルーネ! やったのか!?」

『うん! 魔導強化兵士の脳内チップにアクセス成功! ビーハイヴ・ワスプを通じて新たな命令を送ったよ。命令は『家に帰れ』!」

「よくやった!!」


 この会話をしている最中でも、老若男女が短距離選手のような速度で戦場を離脱していく。腰の曲がった老人、三歳児、恰幅のいい商人が、みんな同じ動きで走っているのだ。

 

「あら? Type-JACKは何故動かないのかしら?」

『たぶん、魔導強化兵士の行動が予定外で、一時的にフリーズしてるんだと思う。すぐに動き出すと思うから 気を付けて!』

「そうかい……ジークルーネ、センセイに伝えろ、『切り札』を頼むってな」

『了解!』


 オルトリンデはモーガン・ムインファウルの残骸に、ヴァルトラウテはクルーマ・アクパーラの盾の一部を掴む。

 それから1分もしないうちに、戦乙女二人の身体は『修理』され、触れていた『遺産』も完全修復された。

 同時に、Type-JACKの攻撃が再開。無数の光弾が二人を襲う。


「く、ははは……あっはっはぁぁーーーっ!!」


 突如―――ガトリングガンとミサイルが発射され、Type-JACK数十体がまとめて吹き飛ばされた。

 光弾は全てクルーマ・アクパーラの盾八枚が防御、第二着装形態に変形したオルトリンデは、今までの鬱憤を吐きだすように武装を展開する。


「雑魚どもが!! アタシにケンカ売ったこと後悔すんじゃねぇぞゴルァァァッ!?」

『お、オル姉……』

「溜まってましたから……まぁ、わたくしもですけど」


 アンドロイドだけなら問題ない。

 全ての武装を展開し、駆逐するだけ。


『あ!! 大型熱源反応っす!! オル姉、ヴァル姉!!』

「上、等!!」


 量産型Type-LUKE、量産型カラミティジャケット、量産型ウロボロスの出現。

 だが、もう遠慮はしなくていい。

 ありったけの兵器をぶちかませる。


「レギンレイブ、てめーも遠慮すんな。その飛空挺の武装はレーザーだけじゃねぇだろ?」

『もちろんッス!!』

「ならぶちかませ!! ぶっ壊すぜ!!」

『はいッス!!』

「ふふ、わたくしも混ぜてくださいな」


 乙女三人の、破壊が始まった。

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