第282話、みんなわちゃわちゃ

 チート能力の消失という代償を支払い、生徒たちは元に戻った。

 今まで鍛えてきた物が無くなったショックはあるだろうが、今は命があるだけで何より嬉しい。安心した者、悲しむ者と生徒たちの表情でわかる。

 能力を失っていないのは、俺と三日月だけだ。


「センセイ、ビーハイヴ・ワスプ定着率68%。あと8分で戦場にいる人間たちにナノマシンを注入完了です。その後、一斉に命令を送ります」

「あ、ああ。オルトリンデたちは大丈夫か?」

「…………劣勢です。個人の実力は大したことがないですけど、二百万の軍勢は伊達じゃありません。姉さんたちの損傷率が上昇中……」

「っくそ……ブリュンヒルデは?」

「……現在、オストローデ市街地を走行中。不気味なほど静まり返っています」

「…………」


 やっぱり、オルトリンデたちがきついか。

 そりゃそうか……二百万の軍勢だけで圧倒的なのに、人間を傷付けずにアンドロイドだけ破壊しろって命令を出したんだ。大掛かりな武装は使えないし、ちまちま倒すしかない。

 すると、中津川と篠原が言う。


「相沢先生、オレたち、どうすれば……」

「能力も魔術も消えた……もう、戦えない」

「戦う必要はない。ここからは俺の仕事だ」


 俺は、生徒たちを見渡して言う。


「みんな、もうすぐこの戦いは終わる。全部終わらせて、みんなで帰ろう」


 生徒たちは、俯いたまま頷く。まだ能力を失ったことが尾を引いてるようだ……まぁ、この年代の子供に特殊能力が宿ってたんだ。嬉しいに決まってる。それがいきなり消えたなら、悲しみもあるだろう。

 だが、今はそれどころじゃない。


「おーいセンセー!!」

「ん?……あ、アルヴィート!?」

「やっほー!! あ、みんな!!」


 アルヴィートが戻ってきた……が、おいおい、あれって。


「あ、アナスタシア!! Type-WIZARDか!!」

「待って待って! センセイ、アナスタシアはもう大丈夫。私たちの味方してくれるって!!」

「……は?」

「あ、ショウセイ、アカネ!! みんなぁぁっ!!」

「アルヴィート!?」「アルヴィート!!」


 アルヴィートは、中津川と篠原に飛びつき、生徒たちみんなに抱き着いて喜んでいた。

 アナスタシアの登場、アルヴィートの興奮、もう何が何やら。

 生徒たちはアルヴィートを迎え、俺はアナスタシアと対峙した。


「目的はなんだ」

「私はあの子に……あなたに負けた。もう疲れたのよ、アンドロイドとか、人間とか、私たちの目的のために生きるのが……」

「それが、なんで裏切る理由になる」

「簡単よ。私……先生って呼ばれるの、けっこう気に入ってたの」


 アナスタシアは、大きな三角帽子をクイッと上げ、笑顔で答えた。

 なんとなくだが、嘘をついている顔じゃない。人間らしい、すがすがしい笑顔だった。


「わかった。信用してやる」

「ありがとう……」

「ちょ、いいんですかセージさん!?」

「セージ、アタシもうわけわかんない……」


 クトネもアルシェもパンク寸前だ。確かに、もうわけわからん。

 生徒たちが戻ってきて、チート能力が消えて、敵だったアナスタシアが裏切ってここにいるんだからな。


「戻ったぞ、センセイ」

「むぅ? なぜアナスタシアがいる?」

「…………頼む、もうこれ以上混乱させないでくれ」


 シグルドリーヴァが戻ってきた……ぶっ壊れたアンドロイドの半身を抱えて。

 

「ゴエモン……負けたのね」

「ああ、負けたわ。だがこうして生きちょる。儂はまだまだ強くなれるってこった。がっはっは!!」

「…………」


 ゴエモン……Type-SUSANOだよな。シグルドリーヴァ、なんでこいつをここに?


「こいつはもうアンドロイドではない。人間の心を持ったアンドロイドだ」

「……そ、そうか」

「おい、そこのお前。こいつの躯体データはあるか。こんな躯体ではない、人間用の躯体があったはずだ」

「ええ。一応、私のデータバンクの中にあるわ」

「よし、いいだろう」


 シグルドリーヴァ、頼むから勝手に話を進めないでくれ。


『きゅうう』『もっきゅ?』

「か、可愛いーっ!!」「アザラシ?」「もっふもふ~」

『にゃあ』『にゃあご』『うなー』『ごろごろ』『にゃお?』

「ね、猫がいっぱい!」「抱っこしたい!」「触っていい?」

「いいよ。みんな喜ぶ」

「あ、ペンギンもいる!」

『きゅっぴー!』

「ふふ、ピーちゃんです。よろしくね」

「…………こっちはなにやってんだ」


 生徒たち(主に女子)は、三日月が外に出したネコやごま吉、ジュリエッタやピーちゃんを撫でていた。

 沈んでいた女子たちはごま吉とジュリエッタのモフモフに癒され、代わる代わる抱っこしてモフっている。女子たちは元気が出たようだ。一部の男子も。


「あなた……『無剣』のゴエモンですね」

「おお、お前さんは『夜笠』じゃな? 情けない姿を見せちまったのぉ」

「いえ、生きててよかった。私に刺さった棘を抜くのに、あなたに死んでもらっては困りますから」

「おお、いいのぉ……生きててよかったと実感するわい」


 ゴエモンとキキョウが話している……ああ、決闘の話か。

 ゼドさんはエンタープライズ号の解説を男子にしてるし、アルシェも女子に混ざってごま吉を抱っこしてる。クトネも三日月もネコを抱っこしてるし……なんだかカオスだわ。


「ハイネヨハイネ……」

「アナスタシア。私には視えていました、こうなることが……」

「ふふ、居なくなったと思ったら、センセイのところにいたなんてね」

「センセイ、彼は運命を覆す者……私は、見守るだけ」

「そう……」

「おいアルヴィート、ジークルーネの仕事が終わったら加勢に行くぞ」

「にゃんにゃ~ん、猫にゃ~ん……ん? なんかいった?」

「ネコを置け。加勢に行くんだ」

「はーい。ショウセイ、アカネ、これが終わったらいっぱい遊んでね!」

「……ああ、そうだね」

「ええ……」


 俺は、この空間に可能性を感じていた。

 人間とアンドロイド。相容れないなんてことはない。きっと、これからの未来、人とアンドロイドは共存していける。

 そのために、この戦いを終わらせる。


「……センセイ! ビーハイヴ・ワスプ定着率100%! いつでもいけます!」


 ジークルーネが叫ぶと、全員が注目した。

 そう、この時を待っていた。

 

「よし、ジークルーネ……やっちまえ!!」

「はい、センセイ!!」


 今、この時をもって……反撃開始だ!!



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