第276話、BOSS・『Type-SUSANO・八岐大蛇』①/ゴエモンの意志

 シグルドリーヴァ対「Type-SUSANO・八岐大蛇」。

 シグルドリーヴァは、空中を自在に駆け巡る無数の剣を躱しながら、Type-SUSANOと剣戟を繰り広げていた。


 八本の腕から振るわれる剣。

 刀、ショートソード、ロングロード、バスターソード、ククリ刀、レイピア、蛇腹剣、そしてレーザーブレイド。間合いも長さも違う剣を躱すのは人間では不可能。だが、戦乙女型最高の身体能力を持つシグルドリーヴァは、全ての剣の間合いを瞬時に計算し、行動予測、そして適切な動きで回避か切り払いで剣を弾く。


 問題は、飛来する剣。

 亜空間から召喚した無数の剣。これらはもともと『無剣』バンショウという冒険者四強の一人が使っていた武器で、かつて戦いを挑み勝利したゴエモンが受け継いだものだ。

 亜空間収納、そして解放を繰り返し、剣を自在に空中で操る絶技。バンショウやゴエモンですら回避は困難で、シグルドリーヴァが回避を続けるのも限界があった。


「……ッチ」


 Type-SUSANOと距離を取ると、異空間から発射・収納を繰り返す『飛空剣』の勢いが増す。しかも高度な計算を繰り返しているので、電子頭脳がオーバーヒート寸前だった。

 戦乙女型は、心を司るヴァルキリーハーツとは別に、電子頭脳を持つ。予測や計算をする電子頭脳は高性能だが、過酷な使用はオーバーヒートを誘発する。

 長くはもたない。シグルドリーヴァはそう考える。


「…………来い」


 『飛空剣』を躱しながらシグルドリーヴァは呟く。

 すると、背後から巨大な『白熊』が現れ、シグルドリーヴァに覆いかぶさるように守ったのだ。

 すると、『飛空剣』が白熊……『騎熊王ウルスス・アークトゥルス』に全て弾かれる。

 ウルスス・アークトゥルスの硬度は並じゃない。異空間転移して飛んでくる現代の剣程度、容易く弾くことができる。


「これで貴様の飛ぶ剣は封じた……小細工はやめて剣で勝負しようじゃないか」

『…………』


 シグルドリーヴァは、『乙女聖剣レーヴァスレイブ・アクセプト』を『Type-SUSANO・八岐大蛇』に突き付ける。

 すると…………。


『ガ、ガ、ガガ……』

「……?」

『ガガガ、ガガガガガ』


 Type-SUSANO・八岐大蛇が、ガクガク痙攣していた。

 シグルドリーヴァは剣を構え警戒するが、どうも様子がおかしい。

 

『わわ、わしははは、わしは、ごえももも……がが、むげ、んんん……つよいけんし、ししs……sしssがが』

「…………まさか」


 シグルドリーヴァは、共有したデータを確認する。

 Type-SUSANOは、夜笠キキョウを殺さず見逃した。だが、豹変してセンセイの仲間に攻撃を始め、最終的にはブリュンヒルデに破壊された。だが、電子頭脳は持ち去られた。

 何かしらのシステムが作用し豹変したのではないかと推測される。


「……まさか、意志が?」


 ゴエモンの意識が、消えずに残っているのか。

 そんなはずはない。オストローデシリーズに意志などない。スーパーコンピューターからの情報で物事を判断しているだけのはず。

 

「……ふん、くだらん」


 シグルドリーヴァは、無防備なType-SUSANOに剣を向け、叫ぶ。




「真の剣士なら、己の剣で私に挑め!!」

『…………』




 Type-SUSANO・八岐大蛇の動きがピタっと止まる。

 先ほどの痙攣が噓のようだ。そして、八本腕の一つが、鎧の兜を摑み……無理やりはぎ取った。

 バキバキと、兜が音を立ててはぎ取られる。もともと外れるように設計されていなかったのだろう。機械部品が剥き出しの頭部が見え、顔は……。


「あぁぁ~……さっぱりすっきり。すまんなぁ、どうやら……頭ん中イジられてたようじゃ」

「……ふん」


 兜の内側には、ゴエモンの顔があった。

 だが、兜と一体化していた顔の人工皮膚は捲れ、半分以上機械部分が露出している。それに、長い毛髪はなくなり、機械部品剥き出しの頭部が見えていた。


「アシュクロフトの野郎。儂の中に妙なデータを入れてたようじゃ……アシュクロフト、そしてあのクソ餓鬼……この落とし前は必ず。それと、この状況……まぁいい。お前さんが敵で、儂と戦ってるっちゅうことだけでいい」


 クソ餓鬼。それを差すのはアリアドネだが、シグルドリーヴァは知らない。

 ゴエモンは意識を取り戻し、自分の身体を見て驚く。


「な、なんじゃこりゃあ!? おうおう、妙ちくりんな姿になっちまった……ったく、腕はこんなにいらん! それと鎧……っち、脱げん」

「…………」


 なんと、ゴエモンは八本腕のうち六本を、自らねじ切った。

 バキガキガッシャンと機械部品が散乱し、残った二本の腕をグルグル回し、亜空間から二本の剣を呼び出す。


「これこれ。儂の剣……いやはや申し訳ない、待たせたな」

「構わん」

「それと、おぬしの言った言葉、ログにのこっちょる……いくら剣を出そうが、真なる一本には敵わん、だったかの?」

「…………そんなところだ」

「うむ。だが、そりゃ違う。おぬしのいうことも一理ある。じゃがな、この無剣は、一人の剣士が命と誇りを賭けて戦った証なんじゃ。何千何万という戦いの果てに辿り着いた境地の証……教えてやろう、真なる無限の剣を」

「…………」


 ゴエモンは二刀を構え、背後に何万本あるかわからない剣を召喚、全ての切っ先をシグルドリーヴァに向ける。


「無剣流奥義────────『千荊万棘せんけいばんきょく』」

「第二着装形態へ移行。『魔愚真マグマ神剣しんけんベアー・オブ・カリスト』」


 究極の一本と、無限の剣。

 

「最後に、もう一度だけ言わせてくれ。儂を取り戻してくれて、感謝する」

「…………ふっ」


 シグルドリーヴァが笑い────────決着の時が来た。

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