第275話、花蟲蜂ビーハイヴ・ワスプ

「ジークルーネ、大丈夫……って、聞こえてないか」

『…………』


 ジークルーネの瞳が、真紅に輝いていた。

 現在、ジークルーネは超高速演算による、Type-PAWNとのデータバトルを繰り広げている……と、思う。

 話しかけても何の反応もない。『接続アクセス』でジークルーネの頭の中を覗けば、とんでもないことになっているだろう。


 現在、ジークルーネは少し変わった『椅子』に座っている。

 機械的な王座に、金属製の『樹木』が生えている。そこに、黄金に輝く『ハチの巣』が8つぶら下がり、さらにジークルーネのメインウェポンの『乙女凜華ディアンケヒト・ユリウス』の華が咲いていた。


 これがジークルーネ専用の遺産・『花蟲蜂ビーハイヴ・ワスプ』。

 

 ナノマシン散布型の『華』と違い、黄金のハチの巣から放たれる蜂は強化されたナノマシン注入型。刺された人間の体内をナノマシンが駆け巡り、どんな重病も数秒で完治させ、条件が揃えば手足の欠損や、死んで間もない人間すら蘇生させることができる、とんでもチート蜂だ。

 

 だが、こいつの真骨頂はそこじゃない。

 強化型ナノマシンは、機械に干渉することができる。そこで、ジークルーネに頼んだ依頼は……生徒たちやオストローデ王国住人の解放だ。

 頭に埋め込まれたマイクロチップの制御を奪えば、生徒たちを元に戻すことが出来るかも知れない。ブリュンヒルデの前に現れた中津川で試した結果、肉体の操作を奪うことに成功した。


 だが、相手もそう簡単に制御を奪わせたりしない。肉体の制御権限を巡り、ジークルーネとデータバトルをしているらしい。

 ジークルーネの眼は真っ赤に輝き、俺では理解出来ない電子上の戦いが繰り広げられている。


 俺はジークルーネに言った。剣を振るうだけが戦いじゃないと。

 そして今、ジークルーネは戦っている。

 エンタープライズ号の前で、俺たちは見守っている。


「ジークルーネ、がんばれ」

「ジークルーネさん、ファイトです!」

「何も出来ないのが歯がゆいな……」

「本当に、大した娘っ子じゃな……」

「アタシ、ウズウズするんだけど!」

「…………何があろうと、守ります」


 三日月、クトネ、ルーシア、ゼドさん、アルシェ、キキョウ……みんな、ジークルーネを心配している。

 今、俺……いや、俺たちにできるのは、見守ること。

 まずは生徒を解放する。その後は……俺が、前線に出る。

 

「私たちは、私たちにできることを」

「うっす!」

「…………」


 エレオノール、ライオット、ハイネヨハイネも、ここにいる。

 仲間たちが、みんないる。それだけで、力が沸いてくる。


「頑張れジークルーネ……みんな付いてるぞ」


 俺は、ジークルーネの肩に手を置いた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇




「だぁーもう!! 数が多すぎる!!」


 オルトリンデは、ライフルを器用に操り、Type-JACKの電子頭脳だけを撃ち抜いて行動不能にしていた。

 派手な攻撃は、周囲の人間を巻き込む。人間とType-JACKが混ざり合う隊列に、オルトリンデは強力な攻撃ができないでいた。

 それだけじゃない。

 アンドロイドであるオルトリンデに疲労はない。レギンレイブとヴァルトラウテの援護もある。だが……たった三人で200万近い敵と戦うのは、やはり無謀だった。


「くっそ!! ヴァルトラウテ、ガード!!」

「はい!!」


 ビームフェイズガンの光弾が、雨のようにオルトリンデを襲う。もちろん、ヴァルトラウテにも。

 ヴァルトラウテの盾で光弾はガード可能だ。だが、一撃一撃は大したことがない威力でも、200万の力が合わされば、どんなに強固な盾も保たない。


「お姉さまッ!! 盾にも限界強度があります、攻撃はなるべく躱して!!」

「無茶言いやがる……ッ!!」


 Type-JACKを破壊するだけじゃない。

 200万の軍勢が進軍しないように、オルトリンデとヴァルトラウテは戦場を駆け回り、的となる必要があった。

 進軍を許せば、センセイの元へアンドロイドたちが向かってしまう。それだけじゃない、オストローデ王国から出てしまえば、何も知らない町や村も蹂躙されてしまう。

 つまり……このオストローデ王国から、出すわけにはいかない。そのために、的になりながら動き回り、Type-JACKと魔導強化兵の持つビームフェイズガンを破壊しなくてはならないのだ。


「クソ……わかっちゃいたが、キツいぜ」

「でも、やらないといけませんわ」

「わーってる!! おいレギンレイブ、援護しっかりやれ!!」


 オルトリンデは、モーガン・ムインファウルを第二着装形態へ移行させる。

 『駆動鎧ライドアーマー』に乗り、キャタピラが地面を削る。光弾はヴァルトラウテのクルーマ・アクパーラの盾が防御する。

 

『む、無理ッスよ~。ウチはオル姉みたいに精密射撃できないッスからぁ~』

「クッソ!! っぐあっ!?」

『オル姉!?』

「お姉さまッ!!」


 盾と盾の隙間から光弾が潜り混み、オルトリンデに直撃。

 数があると、こんなことも起きてしまう。光弾は脇腹に直撃し、人工皮膚がめくれ上がり、内部が僅かに見えていた。


「……はは、ぶっ壊れるのも時間の問題か。まぁ、壊れる瞬間まで撃ちまくってやるよ!!」

「お姉さまッ、わたくしが守ります……絶対に!!」

『う、ウチだって!!』


 上空からレーザー光線が降り注ぎ、Type-JACKに命中する。

 盾がレーザー光線の余波から人間を守り、オルトリンデは一体ずつアンドロイドを破壊する。


 圧倒的数は、少しずつオルトリンデたちを苦しめていく。

 

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