第272話、戦闘開始

 アンドロイド軍の展開。

 転移が不可能になったので、急遽徒歩での移動となった。

 時間はかかるが問題ない。Type-JACKと量産型ルークの耐久年数は120年。徒歩程度でガタが来るような造りではない。

 人間にしても問題ない。

 体内にナノマシンが仕込まれているので、多少の負傷ならすぐに治る。ナノマシンの耐久性は200日ほどだが、大陸間の移動程度なら問題ない。カロリーコントロールで空腹も排泄も調節できる。一度命令を出せば問題なく歩き出す。

 真の問題は、これからだ。


『敵勢力確認。これより任務開始』


バイクに跨ったブリュンヒルデは、オストローデ王国に向かって走り出す。

 迷いなく。センセイの指示を遂行するため。Type-KINGを破壊するためにヴィングスコルニルを駆り、敵アンドロイドや人間の軍隊に突っ込む。

 恐怖はない。なぜなら、センセイがいるから。


『目標Type-KING……』


 すると、地面で爆発が起きた。

 地雷を踏んだのか。それとも生徒の能力なのか。

 ブリュンヒルデは気付いていない。本来なら転移で各領土に向かう予定だったのだ。このオストローデ王国周辺に地雷を仕掛ける暇などない。

 これは、純粋な能力による攻撃だ。


『…………ッ!!』


 ブリュンヒルデは、ハンドルを巧みに操り爆破を回避する。

 大地に干渉する能力。生徒の一人であるのは間違いないが、ブリュンヒルデには関係ない。

 ブリュンヒルデの狙いはType-KING。


『敵生体確認。戦闘開始!!』


 だが、そうも言ってられない。

 ブリュンヒルデは、戦わずにいられない。相手の戦力値が不明。正真正銘の強敵が現れたのだ。

 ブリュンヒルデは、エクスカリヴァーンを展開。ヴィングスコルニルから飛び降りる。

 同時に、襲撃者の剣とエクスカリヴァーンがぶつかり、衝撃と火花が散った。


『ッ!!』

「…………」


 少年だった。

 キラキラ輝く剣に全身鎧を着て、一部の隙もなく剣を構えている。

 武器や鎧は美しいが……表情は死んでいた。

 まるで人形のように光彩を失った瞳で、ブリュンヒルデと対峙する少年。


『…………人間』


 中津川将星。

 セージの生徒の一人で、生徒最強の能力者だった。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ジークルーネ……頼む」

「はい、センセイ」






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 アリアドネは、これまでにない怒りを感じていた。

 

「っくしょう……コケにしやがって」


 液体燃料のドリンクをがぶ飲みし、固形燃料の飴玉をガリガリ嚙み砕く。

 ロキ博士の介入による転移の阻止は、アンドロイドにとって想定外の出来事だった。

 時間はかかるが徒歩で移動。それしか手の残っていないアンドロイドたちは、すぐにオストローデ王国を出発。

 それと同時に、戦乙女型が現れた……センセイという、究極のイレギュラーと共に。

 

「ふん、いくら戦力が高くても七匹しかいない……二百万近い軍勢にレベル100の能力者が相手に持つわけねー」


 アルヴィートが裏切ったことはすでに伝わった。

 SYSTEM-ARACHNEの停止、そしてセンセイにじゃれつくアルヴィートの姿をカメラは捉えたことで、アルヴィートの改変データは消去されたとの結論に至った。

 

「見てろ……能力者とゴエモンで戦乙女型を蹴散らしてやる。それですべて解決だ」


 アリアドネは、自身の演算能力をフルに使い、生徒たちを操る。

 住人たちをオート操作にして能力者29人を同時操作。オストローデ王国最高の演算能力を持つアリアドネにしかできない芸当だ。


「見つけた……code04!!」


 ブリュンヒルデが、バイクに乗って向かってくるのが見えた。


魔道強化生徒マギ・スチューデント№01先行。対象code04ブリュンヒルデ。対象を破壊せよ』


 最強の能力を持つ中津川将星を先行させ、ブリュンヒルデにぶつける。

 同時に、残りの28人も操作する。


魔道強化生徒マギ・スチューデント№02~29に命令。№01のアシスト及び戦乙女型の破壊。最優先殺害対象・センセイを捜索。始末せよ』


 生徒の能力の一つ、空間移動によって生徒全員がブリュンヒルデの元へ転移する。

 短距離、そして複数同時の転移は能力ならではの異能だ。

 29人の生徒が、ブリュンヒルデを囲む。


「一体ずつ、確実に破壊してやる……」


 アンドロイドならともかく、レベル100能力者29人を同時に相手できるか? いや……たとえアルヴィートでも、シグルドリーヴァでも不可能だ。

 ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを構える。


「破壊開始」


 アリアドネの無慈悲な声が響き、生徒たちはブリュンヒルデに殺到────────。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






『聞こえますか、Type-PAWN?』

「────────あ?」






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 生徒たちの動きが、止まった。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アリアドネは、混乱した。

 生徒が動かない。命令をしても動かない。洗脳電波は正常に送られているはず。それなのに、石化したように動かなくなったのだ。


『ふぅ、ジャミング成功。次は肉体の操作権限を掌握します』

「なっ、だ、誰だ!?」


 アリアドネの頭に直接響く声。

 誰だ。そんなことを聞いてしまうくらい、アリアドネは混乱していた。


『わたしはcode06ジークルーネ。少しずつやろうと思ってたけど、まさか29人が一斉にお姉ちゃんに向かってくるなんて……このチャンスを逃さないために、一斉に『刺した』わ』

「あ、あぁ? さ、さした?」

『ええ。あなたにとって、とびっきりの『毒』をね』

「…………」


 ここで、ようやく気が付いた。

 生徒たちの首筋に、『黄金の蜂』がいた。

 刺された。つまり、この蜂に生徒は刺されたのだ。


『これがわたしの遺産、『花蟲蜂ビーハイヴ・ワスプ』……ナノマシン注入型の蜂』

「…………」

『わたしの仕事は、生徒や人間の解放。あなたから操作権限を奪って無力化すること』

「お、まえ……」

『さぁ、戦いましょう。センセイは言ったわ。武器を振るうだけが戦いじゃないって』

「おま、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 アリアドネは、ようやく気が付いた。

 ブリュンヒルデが、すでにいないことに。

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