第270話、裏方の「人間」

 さて、作戦は決まった……が。

 俺はジークルーネと外に出た。ちなみに他のメンバーは、戦闘準備をしている。


「なぁ、外の様子は?」

「うーん……何も変化なしですね」


 ジークルーネが言う。

 てっきり、タイミングよくオストローデ王国から出てくると思ったんだけど、やっぱりそうはいかない。

 というか、なんか忘れているような。


「……あ!! そういえば、転送装置とかで一気に他の領土に転送とか」

「あ、それは大丈夫。転送装置は大質量の物や、大量の個を転移させることはできないの。できても数個だけだし、一度転移させると再調整が必要になるから」

「そ、そうか……よかった。城に行ってもぬけの殻とか、勘弁してくれ」

「ふふ。大丈夫だよ。ここにはオストローデのスパコンがあるんだし」

「そ、そうだよな」


 カッコつけすぎた手前、あんまりみっともない姿は見せたくない。

 情けない姿や態度を見せないようにしないと……よし。


「ジークルーネ。みんなのメンテはしっかり頼むぞ」

「はい、センセイ。今は『華』がやってくれてますので、大丈夫です」

「よし。ふぅ……もうすぐ終わる。気を引き締めないと」

「センセイ……」


 俺は、アシュクロフトをこの手で倒す。

 戦乙女姉妹だけじゃない。みんな、みんなの戦いがある。コンティニューできない、決して引くことのできない戦いだ。

 

「それにしても……」


 けっこう派手なスピード出して飛んできたのに、オストローデ王国は気付いていないのかな。

 てっきり、何かしらアクションがあると思ってたのに……。


「どうする。偵察でも出すか?」

「オストローデ王国周辺にホルアクティを飛ばしてますけど、周囲は不気味なくらい静まり返ってます。なんだろうこれ……まさか」

「ん?」

「いえ、気になることがあって」


 ジークルーネは首を傾げながら言う。


「まさか、何かトラブルでもあったのかな?」




 ◇◇◇◇◇◇

 

 ◇◇◇◇


 ◇◇




 アシュクロフトは、怪訝な表情でアナスタシアに言う。


「どういうことですか?」

「……わからないわ」

「わからない? チェックはしたはずですよね? アナスタシア、アリアドネ、どうして『拡大転移装置』が起動しないのですか?」


 ここは、オストローデ王国地下にあるアリアドネの部屋。

 ここからメインコンピューターにアクセスし、アリアドネはオストローデ王国最高のスパコンを操ることができる。

 ジークルーネの言った『転送装置は大質量の物や、大量の個を転移させることはできない』という話はすでに過去の話。改良を重ねた転移装置は、大質量も無数の個も自在に転移できるはずだ。

 その装置を使い、オストローデ全軍を全ての領土に解放する予定だったのだが……。


「くっそ、なんだこれ……装置が起動しない」

「アリアドネ」

「うっさいな、わーってるよ!」


 アリアドネは、液体燃料をがぶ飲みし、固形燃料の飴をガリっと噛み砕く。

 何が起きているかアリアドネにもわからない。

 ほんの少し前まで稼働していた装置が、全く動かないのだ。


「くっそ、わけわかんない。ハードは問題ない、ソフトのせいなのはわかるんだけど……ああもう、最初の最初で」


 アシュクロフトとアナスタシアでは手が出せない。

 アリアドネの作業を見守るだけだった。

 

「急ぎなさい。作戦はもう始まっている」

「うっせーな……ったく」


 アナスタシアの叱責に舌打ちし、アリアドネはコンソールを叩く。

 指定した座標にオストローデ全軍を転送し、この世界中で大暴れさせる計画だ。最初の最初、転移の段階でしくじるわけには────────。




『ふふふ。転移装置が動かないようだね』




 ふと、そんな声が聞こえた。


「…………」

「…………」

「…………」


 アシュクロフト、アナスタシア、アリアドネの動きが止まる。

 声の主は、愉快でたまらないと言った風な声色だった。


『はっはっは! 理解できない状況に思考がフリーズしている。どこまでもわかりやすい機械だね、きみたちは。そして再起動。『Atlezatureアトレ・ツァ・トゥーラ-O-VANオーヴァン』はなんと言っていた?』

「……どなたでしょうか?」

『ああ、やはりやはり。くくっ、正体不明のハッカーの正体を調べろということか』


 小馬鹿にしたような声だった。

 だが、怒りは湧かない。原因の究明が先である。

 まさか、通信回線をハックされ、直接頭に声が響くとは想定外だった。


『私はロキ。と言えばわかるかな? きみたちの生みの親であるオーディン博士の助手さ。きみたちを創造した者として、きみたちの横暴を止める』

「んだと……ふざけんな! あたしらは」

『あーあー、きみの意見は聞いていない。どうせ『Atlezatureアトレ・ツァ・トゥーラ-O-VANオーヴァン』からの指令みたいな言葉しか出てこないのだから。くく、それより今の話をしよう。きみたちの改良した転移装置のノウハウは見事だった。データを解析し妨害するのは苦労したよ』

「じゃあ、これはあなたが……?」

『そうさ、Type-WIZARD。悪いが、アンドロイドや魔道強化兵士を転送させるわけにはいかない。そんなことをすれば、この世界は終わってしまうからね』

「……問題ありません。転移が不可能なら地上進行させるだけ。時間はかかるでしょうが殲滅戦に変わりはない」


 アシュクロフトはアナスタシアに言う。すると、またもや声が。


『愚か。実に愚かだよ……そんな、三流軍師でも思いつきそうなことに私が何の対策もしていないと? 転移が駄目なら地上を歩かせるなんて子供の発想だ』

「…………」

『Type-KNIGHT、私はずっと準備をしてきた。きみたちに怯えながら、たった一人できみたちを滅ぼす準備をね……私は宣言する。今日は、きみたちオストローデシリーズ最後の日だ』


 アシュクロフトたちの前に、空中投影ディスプレイが浮かび上がる。


「…………」

「…………」

「…………」


 三人の思考は、またしてもフリーズした。

 画面に映っていたのは、七人の銀髪の乙女。そして………。


『センセイ、あとは任せたよ』


 一人の、どこにでもいそうな冴えない教師だった。

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