第269話、最後の作戦会議
遺跡から出て、久しぶりに居住車の中へ。
すると、真っ白とクリーム色の塊が、ボッテンボッテンと跳ねながら俺のところへやってきた。そう、ごま吉とジュリエッタだ。
『もっきゅー!』
『きゅぅぅ~!』
「ごま吉、ジュリエッタ! はは、久しぶりだな!」
仲間たちは全員集まり、俺とごま吉たちの再会に頬を緩めている。
まず、俺はごま吉を抱きしめた。
「ごま吉、心配かけた。ったくこのアザラシめ、でかくなりやがって」
『もっきゅう!』
「ジュリエッタ、お前も大きくなったな。クリーム色の身体は相変わらずもっふもふだ」
『きゅぅぅ~』
「ペンギン、お前も相変わらず可愛いな!」
『きゅっぴぃ!』
「はは、このペンギ………………あれ? ペンギン?」
ごま吉たちと一緒に俺のところに来たから、つい抱き上げてしまった。
なんだこのペンギン? ペンギンの赤ちゃんみたいにモフモフしてるけど……あれ、アザラシだけじゃなくてペンギンもいたんだっけか?
「あの、その子は私の友達で、ピーちゃんです」
「ピーちゃん。ああ、そうですか。あの……」
「はじめまして。エレオノールです」
「あ、どうも。セージです」
「あ!! これ以上近づかないで!!」
「え?」
目の前にいるアルビノっぽい少女は、俺の握手からパパっと離れた。なにこれ、地味にショックなんですけど……。
「えと、私に近付くと『眠』っちゃうので……」
「は、はぁ」
「センセイ、エレオノールに悪気はねぇんだ。勘弁してやってくれ」
オルトリンデの説明によると、エレオノールは冒険者四強の一人『
人や生物を問答無用で眠らせる能力のせいで、人と話すことができなかったが、アンドロイドであるオルトリンデたちには眠りの力が効かなかったので、そのまま仲間になったのだとか。
よし、挨拶もしたし、これからのことを話そう。
「ジークルーネ。周囲の状況は?」
「はい。半径5キロ以内に不審な反応はありません。というか、生物反応がない……」
「……よし。みんな、情報を共有しよう。たぶん、これが最後の戦いになると思う」
オストローデ王国との決戦。
相手の戦力や生徒たちの情報。そして、この戦いの勝利条件。
オストローデ王城へ向かい、アンドロイドのスパコンを停止させる。そうすれば、敵アンドロイドは全ての情報を失い、スパコン自体から発生している電波も止まる。生徒も、オストローデ王国の住人も解放される。
「ま、待てセージ。お前……オストローデ王城へ向かうのか!?」
「ああ。スパコンは俺しか止められない。機械を操る俺じゃないと、この戦いは止められない」
「な、なんかセージさん、変わりましたー?」
「ま、ようやく道が見えたからな」
ルーシアとクトネ。
最初に仲間になった二人は、俺の変化をよく知っている。
「センセイよぉ、オストローデ王城にはやばいアンドロイドがわんさといるんだろ?」
「ああ。ロキ博士が言うには、全ての戦力を解放してこの世界を総攻撃するらしい。カラミティジャケットやウロボロス一体にすら手を焼く今の状況じゃ、絶対に勝てない」
「だから、わたくしたち。そして」
「遺産、っスね」
オルトリンデ、ヴァルトラウテ、レギンレイブ。
戦乙女姉妹はよくわかってる。そう、俺が彼女たちに望むのは、兵器やアンドロイドの破壊だ。
「センセイ、わたしは……戦いでは役に立てない」
「そんなことない。ジークルーネ、お前には重要な役割がある。たぶん、お前がこの戦いのカギだ」
「え……?」
「お前と、お前専用の遺産で、やってほしいことがある」
「わ、わたし専用の遺産?」
「ああ。くっそ熱くて寒い雪山で見つけた遺産だ」
ジークルーネ、戦いは武器を振るうだけじゃない。お前にはお前の戦いがあるんだ。
「…………私は、斬るだけだ」
「あ、わたしも!」
「シグルドリーヴァ、アルヴィート、お前たちはアンドロイド軍の主力を叩いてほしい。間違いなく出てくる存在がいる」
「…………ほう」
「あとシグルドリーヴァ、いちいち溜め込まないでいいよ」
「…………」
やべ、ちょっと怒らせたかな。
まぁいい。それより、シグルドリーヴァとアルヴィートには、敵主力を叩いてほしい。
オルトリンデ、ヴァルトラウテ、レギンレイブは雑魚掃除を担当してもらう。
「Type-
「いいだろう」
「アナスタシア……わたしがやっつける」
ここまで、ロキ博士から得た情報で組み立てた戦術だ。
どこまで信用していいのかわからない。だけど、他に情報がない。情報を集める時間もない。戦力が解放されれば戦争になる。
「ブリュンヒルデ」
俺は、ブリュンヒルデを見た。
いつもと同じ、俺をまっすぐと見る真紅の瞳。
「お前はオストローデ王国に先行、Type-
彼女は、きっとこう答える。
久しぶりに聞く声に、俺は笑みを浮かべた。
『はい、センセイ』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれ、ちょっと待ってセンセイ。他のオストローデシリーズはどうするの?」
アルヴィートの質問だ。
他のオストローデシリーズ。Type-PAWN、Type-QUEEN、Type-KNIGHTの三人だ。
アリアドネとかいう奴はいい。Type-QUEENカサンドラも特性上放っておいて構わない。
俺は、ずっと前から決めていた。
「Type-
生徒を守るのは先生の仕事。
アシュクロフトは先生じゃない。あいつは、あの野郎だけは俺が倒す。
「……セージ、私たちは」
ルーシアが言う。
たぶん、なんとなく察していると思う。だから俺ははっきり言う。
「みんなは、ここでエンタープライズ号と馬を守ってほしい。いざという時の待避所になるし、ジークルーネはここで重要な仕事がある。どうか守ってほしい」
「…………せんせ、わたしも?」
「……ああ」
「ちょ、アタシは嫌よ!! アタシは「わかった。おめーの判断に従うぜ」……ちょっ」
アルシェを黙らせたゼドさんが言う。
「ったく、いつの間にか男の顔になっちょる。大したもんだぜ」
「ゼドさん……」
「ワシにとってこのエンタープライズ号は、家みたいなもんじゃ。セージ、お前の帰る家はワシが守ろう」
「ありがとうございます……!!」
すると、ずっと黙っていたキキョウ、他のメンバーも言った。
「私はあなたに借りを返す。正直、理解できないことばかりですが……斬れというなら斬りましょう」
「わ、私もです! 吸血鬼の力がお役に立てるなら」
「はぁ~……あたしもここにいますー、ごま吉たちを守ります」
「うっす! 自分、みんなを守るっす!」
キキョウ、エレオノール、クトネ、ライオット。
「わーったわよ、アタシもここを守ればいいんでしょ……その代わり、ヤバくなったら行くからね!」
「……せんせ、わたし」
「三日月、頼む」
「……わかった」
三日月の頭をなでると、コクコク頷いた。
最後に、ルーシアが俺を見て言う。
「わかった。私も、お前に全てを託そう」
「ああ。ありがとう……ナハティガル理事長は、ジークルーネに捜索してもらうから」
「うむ……」
たぶん、魔道強化兵士にマジカライズ王国の魔術師も入ってるはずだ。
これで、全ての準備が整った。
数では圧倒的に不利だ。けど、アンドロイドを一掃するのが目的じゃない。
スパコンを止める。それだけだ。
もうすぐ、最後の戦いが始まる。
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