第268話、紅蓮破龍サンスヴァローグ
ゆっくりと眼を開けると、三日月と目が合った。
「せんせ!」
「ん、おお。三日月……」
「だいじょうぶ?」
「ああ。どれくらい時間経った?」
「三分くらい」
「え」
おいおい、短いな。いや短いのはいいけど。
ライオットの精神中枢をちょいと弄って起きたら30分くらい経過してたのとずいぶん違う。まぁいいか。
アルヴィートの頭から手を下ろして確認する。
「アルヴィート、覚えてるか?」
「うん。わたし、センセイに助けられたみたい」
「センセイ……それは、誰のことだ?」
「ん!」
アルヴィートは、俺を指差した。どうやら、アシュクロフトのことじゃない。オストローデ王国の呪縛は完全に解けたようだ。
ホッとするのも束の間。背後から視線が突き刺さる。
「……そいつ、敵だったのか?」
「おいセンセイ、どういうこった? アルヴィートは直ったのか?」
「アルちゃん、わたくしたちのこと、覚えてますの?」
『…………』
「ひぃ、ひぃ……ようやく解放されたッス……ぶへぇ」
「アルちゃん、ちょっと診せてもらっていい?」
う、おぉぉ……すげぇ、戦乙女全員集合だ。
銀髪赤目の美少女が、俺の後ろに全員並んでいる。こんな光景を見る日が来ようとは……うん。実に長かった。
シグルドリーヴァ、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ブリュンヒルデ、レギンレイブ、ジークルーネ。そしてアルヴィート。
オーディン博士の造った娘たち、戦乙女七姉妹が全員揃った。
すると、アルヴィートが立ち上がり、ブリュンヒルデに抱きついた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……」
『…………』
「センセイ、これって」
「心配するなジークルーネ。アルヴィートの悪いデータは破壊した。ようやく、戦乙女たちが揃ったな」
さて、あとは……遺跡内を調査して、戦乙女の遺産を手に入れるだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全員でゾロゾロ行くのもアレなので、遺跡内には俺とブリュンヒルデ。そしてアルヴィートの三人で入った。
ブリュンヒルデはともかく、アルヴィートはどうしても付いていきたいと言って聞かなかったのだ。
「センセイセンセイ、遺産ってなに? お姉ちゃんのお馬さんみたいなやつ?」
「ああ。形はそれぞれ違うけどな」
「そっかー。わたしも使えるの?」
「たぶん、ここの遺産はお前専用だと思うぞ」
「ほんと? やった!」
「っと……ははは」
なんか、猫みたいに甘えてくる。
俺の腕を取り、ぎゅーっと抱きついてくるんだよなぁ。
『……………………』
「…………え、えっと」
なんかブリュンヒルデが怖い気がする。久しぶりに一緒なのに、無表情で付いてくるんだよな。
アルヴィートを引き離そうとするとイヤイヤするし、アルヴィートって見た目通りの甘えん坊なのがわかった。こりゃ末っ子は可愛がられるわけだ。
遺跡内を進むと、見覚えのある部屋に到着した。
「あ、ここ……」
「センセイ、知ってるの?」
「ああ。ここでブリュンヒルデ……いや、ワルキューレのヴァルキリーハーツを見つけたんだ」
俺は、壁の一部が割れてくぼんだ場所に向かう。
そうそう、ここにポツンとあったんだよ。壁に触れたらパカッと割れて、この隠し場所が……。
「…………あ」
よく見ると、窪んだ壁に錆びたプレートがはめ込んである。
俺は『
「……『いつか、機神の手に渡ることを願う』」
たぶん、オーディン博士だろう……機神の手って、俺の事か?
偶然なのは違いない。でも、届いた。
ワルキューレであり、ブリュンヒルデ。
『…………』
「…………」
「センセイ、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
遺産はきっと、奥の部屋だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遺跡の最深部に到着した。
壊れたナノポッド、ミノタウルスを動けなくした電磁拘束具、そしてミノタウルスの骨……懐かしい。
ここで俺は、ブリュンヒルデと出会った。
「懐かしいな」
『センセイ、ナノポッドの下部に不自然な切れ込みがあります。地下へ通じる道と推測』
「…………あ、ああ」
ブリュンヒルデ、少しは懐かしもうぜ。俺たちの出会いの場所だぞ?
ブリュンヒルデとアルヴィートは、壊れたナノポッドをバキバキ壊して下の切れ込みを強引に引っぺがす。すると、地下への階段を発見した。
「こんなところに遺産が……」
『申し訳ありません。センセイとの初遭遇時に発見をしていれば』
「ああいいよ。どうせ『
「ねぇねぇ、下に行こうよ!」
「ああ」
下に降りると……ビンゴ。真っ白な通路だ。
奥へ進み、お馴染みの扉を開ける。するとそこは、グリフィン・フリューゲルと同じくらい広い部屋で、地面がカシャッと開くと、遺産が迫り上がってきた。
「おお……デカいな。これが最後の遺産か」
「わぁ~……」
『…………』
現れたのは、巨大な『赤い翼竜』、メカメカしい赤いドラゴンだ。
騎熊王ウルスス・アークトゥルスよりもデカく、グリフィン・フリューゲルと同サイズくらいか。二足歩行の前傾姿勢で、翼は折りたたみ式、首は長く立派な顔つきのドラゴンだ。イカスね。
俺は近付いて手を触れる。
『システムチェック完了。全システムオールグリーン。《ヴァルキリーハーツ》書き換え完了。これより相沢誠二を所有者とし、全機能権限を委ねます』
「きたきた。これで遺産コンプリートだ! ええと、『
「やったぁ!」
アルヴィートはピョンピョン跳ねる。おもちゃに喜ぶ子供みたいだ。
とにかく、これで遺産は揃ったな。
さて、ここから出ていろいろ話さないとな!
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