第266話、BOSS・SYSTEM-ARACNA①/アルヴィートの心

 吸い込まれるような感覚────────。


『っと……ここが、アルヴィートの精神中枢か』


 アルヴィートの中にある異物。オストローデ王国が植え付けた忠誠心プログラム……わかる。『接続アクセス』を使うと妙にはっきりと頭が冴えるんだよな。

 アクセスを使うと、俺の意識は機械の中に潜る。そこで直接プログラムを書き換えたり、プロテクトを構築することが可能になる。

 ライオットを改心させたり、開かない扉を開けたりもできる。


『それにしても、ここ……』


 アルヴィートの精神中枢……つまり、ヴァルキリーハーツだ。

 正確には、ヴァルキリーハーツに内包された『精神』が『ココロSYSTEM』を通して意志という形で表れ……ああもう、とにかくそういうことだ。

 誰もいないのに説明したってしょうがない。

 

 アルヴィートの精神中枢は、まるで教室のようだった。

 横長の椅子、黒板、教壇……なんだろう、どこか見覚えがある────────。


『寂しいな────────』

『え……』


 どこからか、声が聞こえた。

 教室のような場所には誰もいない。でも、この声って……。


『毎日毎日、身体を弄られて……わたし、もう嫌だよ……』


 アルヴィートの声だ。

 でも、誰もいない。声が響くだけだ。


『戦乙女型の秘密、アンドロイドのブラックボックス、戦乙女型を調べれば、アンドロイド軍の技術向上につながる……そんなことばかり。お姉ちゃんたちに会いたいよ……』

『…………』


 これは、アルヴィートの想いだ。

 アルヴィートは、オストローデシリーズに発掘され、身体を調べられたんだ。

 確かに、戦乙女型の技術は、他のアンドロイドと比較にならない。


『わたし、お姉ちゃんたちに会いたい────────』

『アルヴィート!!』


 俺は叫んだ。が、返事はない。

 すると、教室のドアが開いた。まるで来いと言ってるように。

 俺は迷わずドアの先に踏み込んだ。


『なっ……』


 ドアの先は、とんでもない光景だった。

 体育館のような広さの空間には、無数の蜘蛛の巣……ちがう、これは電気コード、回路のようなコード、電線のようなコード……無数のコードが部屋全体に張り巡らされている。


『なんだ、これ……!! あ、アルヴィート!!』

『…………』


 そして、部屋の天井付近に、透明な球体に包まれ、体育座りしているアルヴィートがいた。

 声をかけるが、全く反応がない。

 しかも、アルヴィートだけじゃない。


『な、んだ……こいつ、は』


 なにか、いる。

 天井に、巨大で真っ黒な、金属の塊……。


『キシキシキシ、キシキシキシ、キシキシキシ』


 キシキシキシと、動くたびに軋む音が響く。

 眼、だろうか。カメラアイが八つほどある。そして足はショベルカーのように折れ曲がった足が八本。ナマモノではない、無機質な機械のボディ……こいつ、機械の『蜘蛛』だ。

 わかった。こいつがアルヴィートの精神中枢に巣食ってるんだ。


『ん? ボディに名前……『SYSTEMシステム-ARACNAアラクネ』……ふざけやがって』


 これは、アルヴィートの心に巣食う蜘蛛だ。

 アルヴィートの心を、機械のコードで絡めとる。心を書き換え支配し、本当のアルヴィートを機械の糸で覆い隠す。

 こんなの、許されるはずがない。


『アルヴィート!! おい、アルヴィート!!』

『…………』

『くそ、聞こえてない……いや、こいつのせいか』


 機械の蜘蛛、システム・アラクネは、機械の足をガシャガシャ動かし、アルヴィートの周囲をコードで覆っていく。

 でも、アルヴィートを包む球体はツルツルしているのか、巻き付いたコードはするりと抜け落ちる。


『……そうか、アルヴィート』


 あれは、アルヴィートの最終防衛だ。

 たぶん、心のどこかで、オストローデ王国に従うことに疑問を持っていたんだ。だから、感情の奥の奥に最後の防衛障壁を設けて、守っていたんだ。

 アルヴィートの心を揺るがす事態に陥り、忠誠心プログラムが揺らいだ。その影響で、あそこにいるアルヴィートの心が表面に出た、ってところか。

 つまり、この蜘蛛野郎を倒してアルヴィートの心を起こせば、忠誠心プログラムは消えて元のアルヴィートに戻る。


『……やってやるよ』


 俺は、キルストレガとビームフェイズガンを抜く。

 この世界での俺は現実世界の俺じゃない。身体能力だって普通じゃないぜ?

 しかも、こう見えて俺……死線は潜ってるんだからな。


『おうらっ!! こっち見ろ蜘蛛野郎!!』

『キシキシキシ、キシキシキ…………』

『うっ……』


 めっちゃこっち見た。

 八つのカメラアイがキュィィィンと俺を見る。


『アルヴィート、聞こえてるか?』

『…………』

『これからお前を助ける。言いたいこととか、辛いこととか、吐き出したいなら全部吐き出せ!! 何に迷ってるかわからんけど、全部スッキリ吐き出して……目ぇ覚ませ!!』

『…………』

『キシキシキシ、キシキシキシ、キシキシキシ』


 蜘蛛野郎が、キシキシ音を立てて俺に迫ってくる。

 いいぜ、やってやる。戦乙女最後の妹を助けるんだ!!

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