第263話、乙女の涙
「なに? オストローデ王国に行く……だと?」
ブリュンヒルデたちは、エンタープライズ号一階に集まっている仲間たちに言う。するとルーシアが怪訝な表情をした。
これまでの経緯を説明すると、ルーシアの眉間にしわが寄る。
「そのロキという男は信用できるのか?」
「できねぇ」「できませんわね」「で、できないかも」『…………』
戦乙女四人の返答は絶望的だ。
だが、ブリュンヒルデはそれでも行くという。
『センセイに繋がる道なら進みます。たとえオストローデ王国が総攻撃を仕掛けようと、私は敗北しません』
「ブリュンヒルデ……お前」
『私は行きます。あなた方に伝えたのは、センセイを共に心配する仲間だからです。もし行くのなら共に、行かないのならここでお別れです』
「行く」
三日月しおんが立ち上がり、ブリュンヒルデをまっすぐ見た。
「わたし、せんせに会いたい。だから、可能性があるならいく」
『わかりました。では行きましょう』
「ま、待った! アタシも行くっ!」
「ワシもじゃ。どうもジッとしてるのは性に合わん」
「あたしもいきますー! セージさんの魔術師匠として!」
三日月、アルシェ、ゼド、クトネは立ち上がる。
そして。
「私も行きます。今度こそ……斬る!」
ずっとへこんでいたキキョウも立ち上がる。
「……やれやれ、仕方ない」
ルーシアも立ち上がる。不満そうだが、その表情には笑みがあった。
これで、クラン『戦乙女』全員のオストローデ王国進出が決まる。
「エレオノール、おめーはどうする?」
「私は、セージさんって人のこと知りませんけど……みなさんに想われてるステキな人というのはわかりました。私も、この力が役に立てるなら、参加します」
「おし。じゃあ、これで全員だな」
『きゅっぴ!』
『もっきゅ!』
『もきゅう!』
『『『『『にゃぁご!』』』』』
ピーちゃん、ごま吉、ジュリエッタ、そして猫たちも参加するようだ。
特に、ごま吉とジュリエッタはヒレと尾をバタバタさせている。この二匹、セージがいなくなった日から、セージの部屋で寝るようになったのだ。まるで、いなくなった主を想うように。
「ここからオストローデ王国まで約30日……オメーら、気合入れろや!!」
「あの、なぜお姉さまが仕切るのでしょうか?」
ヴァルトラウテの的確なツッコミに、一同は笑った。
セージの元へ。それだけで、こんなにも違う。
もちろん、ブリュンヒルデたちは知らない。
ロキの言葉は真実だが、セージはまだオストローデ王国にはいない。レギンレイブとシグルドリーヴァと共に、海の底で沈没船や海底神殿を探索してるなんて、思ってすらいない。
ここまで、ロキの計画通りだとは、誰も知らない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三日月たちは、三十日の旅を経て、オストローデ王国の国境近くまでたどり着いた。
「…………また、戻ってきた」
「シオン、そういえばオストローデ王国にいたんだっけ?」
「うん。しろすけ、とらじろー……また会いたい」
三日月は、エンタープライズ号の屋根でアルシェと一緒に国境を眺めていた。
ネコのしろすけととらじろー。共に、三日月が能力で最初に友達になったネコで、今は行方不明である。
必ずまた会えると信じているが、やはり不安になる。
「あかね……」
ジークルーネの話では、生徒たちは皆、物言わぬ人形のようになったという。
魔道強化生徒という恐るべき実験。まさか、日本から呼び出された理由が、オストローデ王国の傀儡兵士となるためだったとは。
「ゆるせない」
「シオン、落ち着きなさいよ」
「うん。ごめん」
「やれやれ……えーと、セージはブリュンヒルデがいた遺跡にいるんだっけ? そこまであと少しだし、今のうちにお腹いっぱいにしときましょ!」
「……うん。ありがとう、アルシェ」
「いいわよ別に。ほら、行こう」
「うん」
アルシェは、三日月を気遣ってくれている。
自分が意外に激昂しやすい性格だと三日月は理解している。冷静にならないとまずいということもわかっている。だが、セージが絡むと冷静になれないかもしれない。
落ち着こう。三日月は深呼吸した。
そして、ブリュンヒルデと出会った遺跡に到着した。
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
ブリュンヒルデと出会った遺跡。
そこは、召喚されたばかりの生徒たちが訓練に使った遺跡。
今は、封鎖されている。
「…………え」
そう、今は封鎖されている。誰もいないはずなのだ。
「────────え?」
それは、誰の声だったか。
遺跡の入口に、女の子がへたり込んでいた。
エンタープライズ号の接近に気付かないほど不用心に。
「な……お、おめーは」
その少女は、小柄な銀髪の少女。
真紅の瞳を涙で濡らし、悲しみに暮れる少女だった。
『…………』
ジークルーネ、ヴァルトラウテ、オルトリンデ。
そして、ブリュンヒルデ。
「あ────────」
涙で濡れる少女……code07アルヴィートが、遺跡の入口で泣いていた。
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