第262話、乙女の決意
時間は少し巻き戻り────────。
『センセイの居場所を教えよう。ふふ、感謝したまえ』
ロキ博士がホルアクティをハッキングし、ブリュンヒルデたちの元へ連絡をした頃。
エンタープライズ号の空き部屋に集合した4人の戦乙女は、ホルアクティのカメラアイから投影される映像に釘付けだった。
若い男が、微笑を浮かべている。
『はじめまして。私の名はロキ……キミたちの父オーディンの、元助手だ』
「お父さんの……?」
『そうだよ、code06ジークルーネ。キミたちのことはよく知っている』
「おいコラテメェ……今、なんつった?」
『code02オルトリンデか。キミたちのことはよく知っていると』
「ちっげぇ! センセイの居場所を知ってるだと? 本当なのか!?」
『ああ。code01シグルドリーヴァにセンセイを連れてくるように命じたのは、他ならぬ私だからね』
「テメェ……「ストップ、お姉さま。ロキ様、それは事実なのですか?」
『code03ヴァルトラウテ。それは事実だよ。センセイにお願いしたいことがあったのでね、少々乱暴だったがそこは反省する。だが、センセイは頼み事を引き受けてくれたよ』
「センセイが……」
『ああ。センセイには、残り三つの遺産を捜索してもらっている。心配することはない、護衛にcode01シグルドリーヴァと、code05レギンレイブが付いている。案外、楽しんでいるんじゃないか?』
「ふっざけんな!! おいコラテメェ、センセイの居場所を教えろや!!」
『野蛮だなぁ……やれやれ』
ロキ博士は、苦笑しながら手をパタパタさせる。この舐めたような態度がオルトリンデをさらに逆上させるが、ニコニコしたヴァルトラウテによって抑えられた。
ヴァルトラウテは、オルトリンデの口を押えたまま言う。
「では質問を。センセイはどちらへ?」
「むっぐー!」
『冷静だねcode03ヴァルトラウテ。先ほども言ったが、センセイには遺産の捜索をお願いした。現在、二つは確保済み。残りは一つ……オストローデ王国さ』
「えっ……せ、センセイ、オストローデ王国に行ったの!?」
ジークルーネは絶句した。オストローデ王国は敵アンドロイドの総本山。いくら護衛に戦乙女型が二体いても、危険すぎる。
『そうだ。オストローデ王国には最後の遺産が眠っている。存在を気付かれる前に手に入れなければならない』
「そんな……」
『code06、センセイの向かった場所を転送する。ここに向かいたまえ』
ホルアクティの片目から別の映像が投影される。
それはオストローデ王国周辺の地図で、オストローデ王国から近い場所にある遺跡だった。これを見てブリュンヒルデはピクリと反応した。
『…………』
『code04ブリュンヒルデ。きみはここを知っているね?』
『はい。ここは、私とセンセイが初めて出会った場所です』
『そうだ。ここに最後の遺産が眠っている』
『…………』
ブリュンヒルデの表情は変わらない。
センセイの居場所を伝えたロキ博士は言う。
『さて、センセイの居場所に向かうにあたって気を付けなければならない』
「あん?」
『オストローデ王国、いや……アンドロイド軍の戦争準備は最終段階に入る。オストローデ王国に向かうなら覚悟を決めたまえ』
「……どういうことですの?」
『……ふふ』
ロキ博士は、アンドロイド軍が全戦力を世界中に解放しようとしていること。過去の技術であるビームライフルや装備で固めたオストローデ王国の住人や、センセイの生徒である生徒たちが脳にチップを埋め込まれ操られていること、ウロボロスやカラミティジャケットなどの兵器が量産されていることを話した。
『これらが解放されれば、この世界は終わる。アンドロイドだけの世界になるだろう。カラミティジャケット一体ですらまともに退けることができない現在の技術で、アンドロイドを倒せるはずがない』
戦乙女四人は黙る。
ユグドラシルに現れたカラミティジャケットは、ほぼ無敵だった。魔術や剣でどうにかなる相手ではない。
『鍵は、きみたち戦乙女と『戦乙女の遺産』、そしてセンセイだ。さて、話はこれまで。後は……キミたちで考え、行動したまえ』
「あ、おいコラっ!!」
オルトリンデの叫びもむなしく、映像は切れた。
調べたが、どこから送られた映像なのか、全く痕跡が残っていない。
四人の乙女たちは、決断を迫られる。
「どうする。あの胡散臭ぇ野郎の言うとおりにするか?」
「……たぶん、オストローデ王国に入ると私たちの存在が検知されると思う。もしロキって人の言う通りなら、私たちの存在に気付いた時点で、戦力を解放するかも」
「人間の世界の終わりが始まる、というわけですわね」
「うん。いくらわたしたちでも、遺産の力があっても対処しきれない。それに……操られてる人たちって……たぶん、前の戦争でアンドロイド軍が実験してた強化兵のことだと思う」
「ああ、アンドロイドを作るより、生身の人間捕まえて操ったほうが楽っつーやつか。でもあれ、失敗だったはずだろ?」
「でも、あれから何年も経過したし、実験の機会はいくらでもあったよ……」
オルトリンデ、ヴァルトラウテ、ジークルーネは悩む。
だが、ブリュンヒルデは立ち上がった。
「お、お姉ちゃん?」
『私は、センセイの元へ行きます』
「お、おい。さっきの話、信じるのか?」
『いいえ。ですが、他の情報がない以上、わずかな可能性があるならそれに縋ります』
「ブリュンヒルデちゃん……」
ブリュンヒルデは、姉妹たちに言う。
『私は、センセイに会いたい。センセイに……頭を、撫でてほしい』
「「「え?」」」
それだけ言うと、ブリュンヒルデは部屋を出た。
残された三人は顔を見合わせ……笑った。
「まさか、ブリュンヒルデがあんなこと言うなんてな」
「ふふ、可愛くなりましたわね」
「お姉ちゃん、センセイのこと大好きだもんね」
もう、議論の必要はない。
オストローデ王国に、向かう。
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