第261話、プロフェッサー・Type-KNIGHT/もう一人のンセイ

 オストローデ王国――――アシュクロフトの執務室。

 ここに、アナスタシアから報告が上がっていた。


 ******************

 ①ウロボロス。

 ロールアウト数5000。起動テスト問題なし。

 ②量産型Type-LUKE。

 ロールアウト数8000。起動テスト問題なし。

 ③カラミティジャケット。

 ロールアウト数500・起動テスト問題なし。

 ④魔導強化兵。

 総数250000体。強化処置問題なし。

 ⑤魔導強化生徒。

 総数30。起動テスト終了。

 ⑥Type-SUSANO

 修理完了。電子頭脳書き換え完了。アップグレード完了。

 ⑦Type-JACK。

 ロールアウト数1000000。起動テスト問題なし。

 ******************

 

 ここに、オストローデ王国全軍の準備が整った。

 アシュクロフトは、執務用の椅子にもたれ掛かり、目を閉じる。


「……長かった」


 人類軍との戦争が始まり、数千、数万年……資材が枯渇し、人類軍も滅び、戦争を知らない人類や、戦争の影響で突然変異した人類……獣人が現れ、機械生命体の存在は忘れられていった。

 だが、活動停止せず動いているアンドロイドたちは、人間たちを滅ぼす機会をずっとうかがっていた。

 人間だけではない。獣人もまた同じ……滅ぼすべき対象。

 アシュクロフトたちオストローデシリーズの根幹にあるのは、人間への復讐、そして滅び。これらはけっして覆ることはない。

 

「ようやく、全ての準備が整いました……これで、ようやく始まる。そして……」


 そして……。

 その先は、誰にも聞こえる事なく、アシュクロフトだけの言葉だ。

 異世界召喚によって呼ばれた強力なチート能力を持つ少年少女30人を木偶にして操り、かつて人類軍を苦しめた戦略兵器を現在の資源で量産し、自らの身体も改良をしながらここまで来た。

 ようやく、ようやく始められる。


「人間、人類軍……機械生命を道具としか見ていない、身勝手な人間」


 アシュクロフトは椅子から立ち上がり、窓際へ向かう。

 オストローデ城下町は、不気味なほど静まりかえっている。城門は全て閉まり、大人も子供も老人も獣人も、誰もいない。


 住人は全て、無言だった。

 直立不動で、呼吸しか行動を許可されていない。 

 眼は虚ろで、表情もない。完全に心を奪われた木偶人形として、城下町の街道や広場に並んでいた。


 静まりかえった城下町に、動く物体がある。

 デッサン人形のようなアンドロイド、Type-JACK。このアンドロイドたちは、住人に『武器』を配っていた。

 高出力エネルギーライフル。剣や槍ではない、強力な熱線銃である。


 オストローデ王国は、これから全ての兵力を解き放つ。

 睡眠も食事も必要としないアンドロイドと、思考能力を奪われた30人のチート能力者。これらを全世界に解き放ち、人間たちを滅ぼす。

 チート能力者たち、魔導強化兵たちは、用が済めば自害させる予定である。


「アンドロイド軍の勝利は確定……いかにイレギュラーでも、数の暴力には勝てまい」


 100万を超える大部隊だ。

 いかにアンノウンの兵器を持とうが、いかにイレギュラーな存在だろうが、決して覆すことは出来ない。

 アシュクロフトの策は単純。小細工より圧倒的数、物量で攻める。

 これだけの準備に数千年はかかった。ようやく、計画が始められる。


「プロジェクト『ヒューマンデッド・アライブロイド』……間もなく決行の時」

 

 そして―――執務室のドアが、ノックされた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あの、センセイ……」

「どうしたのですか? アルヴィート」

「うん……その、大きな戦いが始まるの?」

「ええ。ですが、すぐに終わります。あなたの姉妹にも、また会わせてあげますよ」

「……うん」


 アルヴィートは、俯いていた。

 どうにも最近、このような表情をするのだが、アシュクロフトにはその理由がわからなかった。

 アリアドネのメンテナンスでも問題はないのだが……。


「センセイ、あのね……ショウセイやアカネは」

「ええ、計画通りです。立派な戦力として、このオストローデ王国のために働いてくれますよ」

「…………」


 今や、生徒たちは物言わぬ存在となっていた。

 カロリーコントロールにより食事や排泄もすることなく、ここ20日ほど、直立不動で兵器倉庫にいる。話しかけても返答はない。

 あんなに楽しそうだった生徒たちは、ただの肉の塊と変わらない。


「センセイ、わたし……みんなとお話したいな」

「何故です?」

「ショウセイやアカネと、おしゃべりしたい……」

「……? ふむ、ですがもう不可能です。今やショウセイたちは兵器。人間ではありません、お喋りはもうできませんよ」

「…………っ」


 アルヴィートは、部屋を出た。

 アシュクロフトは首を傾げたが、特に気にしていない。

 アルヴィートの態度こそ疑問だったが、アリアドネのメンテナンスでは問題がなかったのだ。


 アルヴィートが『悲しんでいる』こともわからないアシュクロフト。

 人間の感情を持つ戦乙女と、『Atle・za・tureアトレ・ツァ・トゥーラO-VANオーヴァン』のデータしか知らないアンドロイドは、決して分かり合うことはできない。


 アルヴィートが一人で王国外に出たことを知ったのは、この数時間後だった。

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