第260話、ロキ博士の話③

 そういえば、聞いてなかった。


「なぁ、最後の遺産はどこにあるんだ?」

「オストローデ王国さ」

「…………はい?」

「最後の遺産は、オストローデ王国にある。まぁ、幸運なことに、存在を気付かれてはいないようだ」

「…………」


 マジか……?

 最後の遺産。恐らく、アルヴィート専用の遺産だ。

 今は敵だけど、俺の『接続アクセス』で改心できないかと密かに考えている。だって、姉妹同士で破壊しあうなんてもう見たくないからな。

 

「安心したまえ。現在、きみの仲間がオストローデ王国に向かっている。間違いなく総力戦になるだろうからね、準備は入念にしなくては」

「…………おい、なんて言った?」

「きみの仲間さ。人間にエルフにドワーフ、吸血鬼にアンドロイドたち。よくもまぁ集めたものだ……私では、絶対に不可能だったろうね」

「まさか、三日月たちが……オストローデ王国に!?」

「ああ。私からコンタクトを取ってね。なんとか信用してもらったよ」

「お前……」


 改めて思う。こいつは……ロキ博士は、信じていいのか?

 胡散臭すぎる。こういうキャラは後で裏切るとか、メインコンピュータを乗っ取って、『私がこの世界の神だ!』とか言いそうだ。

 

「なにかな?」

「…………なぁ、お前を信じていいのか?」

「ほう、どういう意味かな?」

「ハッキリ言ってお前、胡散臭すぎる。いろいろ調べてたみたいだけど、それが全て真実かどうかわからないし、ここまで準備しておきながら、どうして自分で動かないんだよ……」

「…………」

「もう一度だけ聞かせてくれ。信じていいのか?」

「……ふふ、どうにも嫌われたようだ」


 嫌いとかじゃない。信用出来ないんだ。

 たぶん、俺はこいつのいう通りに動くだろう。オストローデ王国との総力戦になるのも間違いないと思う。でも、ロキ博士だけが信用出来ない……後ろから刺される可能性がある以上、きっと全力で戦えない。

 俺は、生徒たちを救いたくてここまで来た。だから……命を掛ける戦いに、後悔だけは残したくない。


「私を信用出来ない気持ちはわかる。自分でも、こんな胡散臭い奴を信用しようとは思わないからね」

「…………」

「だが、私は私だ。アンドロイドの父オーディン博士の助手で、彼の妻ワルキューレの幼馴染み」


 ロキ博士は、浮遊椅子から立ち上がる。


「人類軍最後の生き残りとして、アンドロイドたちを滅ぼす。それが私の最後の仕事であり……復讐なのだよ」

「復讐……?」

「ふふ、内緒だよ。これは、この想いは私だけの物だ。オーディン博士にも言えなかった、私だけのね」

「お前……」


 ロキ博士は笑った。

 胡散臭くない、子供のような……眩しい物を見たような笑顔だった。


「センセイ、きみが召喚されたことは、神の導きと私は考えている」

「え、いや、俺は巻き込まれただけで」

「違うよ。巻き込まれたのは生徒のほうだ。きみは、アンドロイドと人間の戦いに終止符を打つために召喚されたのだ。私はそう考える」

「…………えーと」

「証拠に、きみが召喚されてから、私の準備は一気に整った。戦乙女型の起動、遺産の解放、そして、きみが紡いだ絆……召喚されて一年も経過してないのに、私の数千年分の働きをしてくれた。おかげで私の準備も整った……これなら、アンドロイド軍を終わらせられる」

「…………」


 少しだけ、気にならないことがある。

 ロキ博士は、アンドロイドとの戦いを終わらせようとしている。でも……アンドロイドを滅ぼすということは、ブリュンヒルデたちの存在まで否定するということじゃないのか。

 ブリュンヒルデたちは、生きている。

 他のアンドロイドだってそうだ。メインコンピュータを閉じれば、全て終わるなら……破壊は必要ないかも、なんて考えている俺がいる。


「ロキ博士、あんたは胡散臭すぎる。でも……気持ちは伝わったよ」

「そうか。では、やってくれるのかい?」

「ああ。オストローデ王国に行って、メインコンピュータを閉じる。その前に、最後の遺産の在処と、ブリュンヒルデたちと合流する。いいな?」

「もちろんだ。シグルドリーヴァ、レギンレイブ、きみたちも一緒に行きなさい。間違いなく、オストローデ王国は歓迎してくれるだろう」

「……どういうことだ?」

「言っただろう、総力戦だと。きみの仲間が向かったのは、最後の遺産がある場所……code04が眠っていた場所だ」

「な、まさか、あの遺跡にか!?」

「ああ、そうだ」


 俺とブリュンヒルデが初めて出会った遺跡。

 あそこは、オストローデ王国の管理下にある。


「あそこに近付けば、オストローデ王国は気付く。戦いが始まるだろう」

「ふ、ざけんなぁっ!! ブリュンヒルデたちは今どこだ!!」

「向かっていると行っただろう? ラミュロス領土からオストローデ王国まで約30日……あと数日で、オストローデ王国までに入るだろう」

「お前……ッ!!」


 もし、オストローデ王国のアンドロイドに気付かれれば、戦乙女型が4体も集まれば、間違いなく派手な戦いになる。

 アンドロイドはともかく、レベル100のチート能力者相手だとどうなるかわからない。

 俺はレギンレイブに言う。


「レギンレイブ、ここからオストローデ王国までどれくらいかかる!?」

「ふぇっ、ええと……三日くらいッス」


 まずい、ブリュンヒルデたちがオストローデ王国に入っちまう。


「レギンレイブ、シグルドリーヴァ、ハイネヨハイネ、すぐにオストローデ王国まで行くぞ!! 時間がない!!」

「えっと、て、転移を使えばいいんじゃないッスか?」

「無理だ……そうだろ、ロキ博士」

「ああ。オストローデ王国の周辺は強力なジャミングがかかっていてね。

転移は使えない」


 こいつは、こういうやつだ。

 前言撤回。こいつは、ロキ博士は信用出来ない!



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