第259話、ロキ博士の話②
脳にチップ? 意識を奪われた? タイプ、ポーン? ウロボロスにカラミティジャケット? 量産? …………なんだ、こいつ何を言ってる?
生徒たちの脳にチップ? なんだそれ、改造手術か?
「…………お前、何を言ってるんだ?」
「どうやら、情報量が多すぎて処理しきれないようだね。では、一つずつ説明して行こう」
「…………」
ロキ博士は浮遊椅子から立ち上がり、俺の傍に来た。
「一つ目、きみの生徒たちは、全員がレベル100になった」
「レベル、ひゃく……マジか」
「ああ。オストローデ王国が『召喚』という技法を使って異世界の住人を召喚したのは、解析不能なチート能力を持つ兵士を作るためだ。『召喚』の技法は、過去のチート能力から得たものらしいが、詳細は不明だ」
「…………」
「続ける。魔道強化兵士という言葉に聞き覚えはあるかね?」
「……知ってる」
魔道強化兵士。
この世界に来たばかりの頃、最初の町で聞いた。オストローデ王国は、魔道強化兵士を作っていると。住人たちは全員、その魔道強化兵士であると。
「魔道強化兵士とは、脳内にマイクロチップを埋め込み、特殊電波で思考や行動を操る術だ。人間は問題なく稼働できるが、チート能力者に処理を施す実験までは進んでいなかった。だが、異世界召喚によりサンプルが30人……いや、31人か。現れたからね、サンプル1号とサンプル2号と名付けられた個体が、code02とcode03が交戦している」
「……まさか」
「そう、きみの生徒たちとcode02、03は交戦した。もちろん、殺しはしていない」
「…………っ」
俺は、頭を抱えた。
生徒たちの脳に、チップが埋め込まれてるだって?
「この実験により、オストローデ王国はチート能力者30人を自在に使役できるようになった。これらを操作するのは、アンドロイド軍のスーパーコンピューター、Type-PAWNだ。情報処理能力にかけて、現在のコンピューターでは太刀打ちできまい」
「タイプ、ポーン……」
そいつは、だれだ。
そいつが、生徒たちを……。
「む?」
「…………」
ザワザワ、ざわざわする。
「待て、落ち着きたまえ」
「…………」
「刺激が強かったようだな……センセイ、絶望するにはまだ早い。手はある」
「…………」
「やめたまえ。
俺は反射的に右手を閉じた。
今、俺は何をしようとしていた……?
「ふぅ……やれやれ、きみは私たち全員を破壊する気か?」
「え……」
「話を続けよう。きみの生徒たちは改造された。これはもう覆らない事実だ」
「…………」
「だが、助ける手段はある」
「えっ……本当か!?」
「ああ。かなり難しいがな」
希望がある、それだけで十分だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ロキ博士は、再び浮遊椅子に座る。ほんと気取るよな、この人。
「きみの生徒たち、そしてオストローデ王国の住人の脳には、マイクロチップが埋め込まれている。それはオストローデ王国の頭脳であるスーパーコンピューターから発生する電波で操作される。その操作端末がType-PAWNというわけだ」
「コントローラーみたいなもんか?」
「そうだ。だが、コントローラーが破壊されたところで、新しいコントローラーに代わるだけ。Type-PAWNの破壊だけでは不完全だ。ならば……」
ロキ博士は、人差し指を立てる。いちいち面倒な野郎だ。
「大元、だろ」
「そう、スーパーコンピューター自信を完全に停止させるんだ」
「破壊は?」
「ダメだ。破壊してもサブコンがある。メインコンピューターが停止すれば、全てのデータが分割してサブに流れる仕組みだ。つまり、メインを完全に機能停止しなければ、コンピューターを破壊しても意味がない」
「どうやって止め……あっ」
「そう、きみにしかできない」
俺は察した。そして……自分の手を見た。
「センセイ、きみがスーパーコンピューターを停止させるんだ。機械に干渉するその能力なら、オストローデ王国の頭脳を破壊できる。頭脳を破壊すればもう、アンドロイド軍に勝ちはない。アンドロイドたちの今ある知識は全て、メインコンピューターからアクセスして得た知識だからね。戦乙女型と違い、彼らは自分で考え、思考する能力はないからな」
「…………」
俺は、ずっと黙っているハイネヨハイネを見た。
オストローデ王国の頭脳、スーパーコンピューターを破壊する話をしてるのに、こいつは何も言わない。
すると、俺の視線で察したのか、ハイネヨハイネが言う。
「確かに、我々の知識は全て、メインコンピューター……『
「ほう、名があるとは。調査不足だったかな?」
『
「だがセンセイ、そこまで行くのは苦難の道だぞ?」
「は?」
「メインコンピューター、『
「…………」
険しいなんてもんじゃないだろ。無理ゲーにもほどがある。
たぶん、俺が千人いても無理だろう……どうすりゃいいんだよ。
「だが、手はある。戦乙女と、その遺産の力だ」
「数が違いすぎる。いくらブリュンヒルデたちでも……」
「ふふふ、そこは安心したまえ。私を誰だと思っている? 何十、何千年と昔から、人類軍最後の人間としてアンドロイド軍を滅ぼす準備をしてきた男だぞ」
「…………」
「おやおや、なぜ黙る?」
「いまいち信用できないからだっつの」
「手厳しいねぇ」
とにかく、道は見えた。目的は、オストローデ王国のメインコンピューター完全停止。そうすればこの戦いは終わる。
やれるだけやろうじゃない。必ずやってみせる!
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勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す
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