第255話、隼帝グリフィン・フリューゲル

 ケートスを倒し、スクアーロ王に報告した翌日……。


「あぃつつつ……調子に乗りすぎたか」


 海底王国ネプチューンは大宴会だった。

 海を荒らす太古の魔獣ケートスを倒した人間として崇められた俺は、つい調子に乗ってこれまでの武勇伝を誇張して語ってしまった。

 スクアーロ王も魚人たちも興奮して俺の話を聞くし、おだてられて調子に乗ってしまったと自覚がある……というか。


「…………なんでお前が俺の隣に?」

「…………」


 ここは、海底王国の遺跡の一室。宴会が終わったあと、酔い潰れた俺はここに運ばれた。そして、床の上に置かれたらしいが……なぜかハイネヨハイネが隣で寝ていた。


「センセ、おはよッス」

「ん、ああ、レギンレイブか」

『きゅいっ!』

「リグくんも一緒に泊まったのか。あれ、シグルドリーヴァは?」

「ここだ」

「あ、おはよう」


 部屋には、レギンレイブとシグルドリーヴァ、なぜか俺の隣にいるハイネヨハイネ、そしてリグくんがいた。

 俺は起き上がり、背伸びする。ハイネヨハイネは何も言わないので気にしないことにする。


「昨夜ははしゃいでたッスねぇ」

「う……まぁ、自覚はある」

「うひひ、センセ、すっごく興奮してたッスね。楽しそーに喋ってましたよ」

「悪かった。もう言わないでくれ……」

『きゅい』

「リグくんまで……というか、なんでリグくんが?」

「オルカさんが、ウチらに懐いてるから一緒にいてやってくれって言ったッス」

「そっか。よしよし」


 リグくんを一撫でし、俺は言った。


「よし、スクアーロ王のところに行くぞ。遺産への扉を開けるんだ」


 約束、守ってもらわないとな!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「扉? シャハハハハッ! そんなの好きにしろ。というかセージ、おめーに礼がしたいんだが、何か望みはあるか?」


 いや、その扉が何よりの報酬……あ、そうだ。


「では、扉の中にある物をいただければ」

「別にいいぜ。他には?」

「えーと、あとは大丈夫です。では、さっそく扉の道を……」

「オイオイオイ、海底に住む魚人たちを救った英雄への報酬が、チンケな扉の先にあるワケ分かんねーモンだけでいいってのか?」

「い、いや、その」


 あの、スクアーロ王……怖いんで牙をガチガチ鳴らさないで欲しいんですけど。

 じゃあ、そうだな……。


「では、また海底に来たときに、パーティーでも開いてもらえれば」

「シャッハハ! そんなの当然だろ? なぁオメーら!」

「「「「「ウィッス!!」」」」」


 サメの魚人たちが牙をガチガチ鳴らす。だから怖いって!!


「わーったよ。人間は欲深いっつー話を聞いたんだが、おめーは違うみてーだな」

「あ、あはは……」


 まぁ、沈没船の白金貨見てゲスな笑みを浮かべるくらいは欲深いですけどね。

 

「よしわかった! オメーはこの『鮫肌王パパ・シャークスクアーロ』の兄弟分だ! どうだ、嬉しいだろ?」

「は、はい。あ、ありがとうございます!」

「おう! シャッハハハハハハハ!」


 えーと……これ、喜ばないと喰われるパターンだよね?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ……怖かった」

「センセ、相手はめっちゃ友好的だったじゃないッスか」

「怖いのは怖いんだよ。あの牙で噛まれたら死ぬぞ」

「情けない奴め」

「ほっとけ」

「…………」

「お前は何か言え」

『きゅいっ!』


 四人と一匹で遺跡の最下層へ向かう。

 遺産への扉は、遺跡最下層にある。そこからデカい石の扉を開けて通路を進むとトンネルがあり、そこを泳いで行くと、空気のある場所に繋がってるのだとか。

 四人で通路を進み、最下層に降りてトンネルを進み……。


「見ろ、あそこ、明るいぞ」

「ほんとだ。どうやらあそこが遺産への扉みたいッスね」

「ああ。リグくん、きみはここまでだ」

『きゅぃぃ……』


 遺産を手に入れたら、別れなくてはならない。

 海底王国の旅も終わり、地上に戻らなくてはならない。ここで別れたほうがいいだろう。

 俺はリグくんを一撫でする。


「本当に、ありがとな。また海底に来たら案内してくれ」

「リグくん、ウチも楽しかったッス!」

「単身でケートスに向かった勇気を大事にしろ。おまえはきっと素晴らしいシャチになる」


 リグくんは、俺たちの周りをグルグル泳ぎ、何度も鳴いた。ちょっとだけウルッときたが、笑顔で別れる。


「今度は、生徒たちと一緒に来るよ。その時は背中に乗せてくれ!」

『きゅぃぃぃぃぃっ!』


 リグくんと再び別れ、俺たちは遺産に続く通路へと進んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 通路を進むと、酸素のある部屋に浮上することができた。

 純白の、壁が発光しているような通路……間違いない、戦乙女の遺産がある通路。

 

「あり? ここ、メインウェポンにアクセスできないッス」

「……確かに」

「そういう作りなんだよ。オーディン博士が作った、な」

「ほぇ~……」


 通路の奥は、見覚えのある白い扉だった。

 俺は扉に手を触れ、『接続アクセス』を使って命じる。すると、扉はゆっくりと開いた。

 中は広く、見事なまでに純白の部屋だ。そして……。


「来た」


 純白の床が開き、何かがせり上がっ……ちょ、オイオイオイ、なんか床の開きがハンパなく広い。なにこれ?

 せり上がってきたのは、ウルスス・アークトゥルスやモーガン・ムインファウルより2倍以上もデカい、巨大な『蒼いハヤブサ』だった。


「か、かっちょいいッスぅぅぅぅっ!」

「で、でかいな……蒼いハヤブサか?」

「素晴らしい……」

「これが、運命をねじ曲げる戦乙女の遺産……」


 俺は蒼いハヤブサに近付いて触れる。


『システムチェック完了。全システムオールグリーン。《ヴァルキリーハーツ》書き換え完了。これより相沢誠二を所有者とし、全機能権限を委ねます』

「お、できた」


 これで、五つ目の遺産を手に入れた。

 触れたことで、俺の中にこいつの情報が入ってくる。ふと思い出したような感覚……まるで、脳に直接書き込まれているようだ。


「なになに、『隼帝しゅんていグリフィン・フリューゲル』……喜べレギンレイブ、こいつはお前向きだ」

「やったッス! センセ、大好きっ!!」

「うわっ!?」


 レギンレイブが背中に飛びつき、そのまま手を伸ばしてグリフィン・フリューゲルに触れた。


『マニュアルインストール完了。【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】No.05《グリフィン・フリューゲル》完全同期』

「お、おい!?」


 こいつ、勝手にデータをインストールしやがった。


『アップデート。データインストール完了。【乙女天翼フリーアイカロス』】第二着装形態獲得』


 レギンレイブの眼が真紅に輝き、ニンマァ~っと笑みが浮かぶ。


「くひひひっ、父ちゃんってやっぱ天才ッスよ。センセ、シグルド姉、ハイネっち、もう海底王国で用事は済ませたッスよね?」

「ああ。この遺産が私たちの目的だ。手に入れたなら、速やかにお父様に報告するべきだろう」

「だったら、さっそくこいつで行くッスよ!」

「おい、お前何する気だ!?」


 レギンレイブは、俺の背中に密着したまま言った。


「決まってるッス。海の底からおさらばするッスよ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 遺跡の上部が開くと同時に、大量の海水が流れ込んできた。

 シグルドリーヴァが俺を掴み、ついでにハイネヨハイネもひっつかむ。レギンレイブはというと、笑みを崩していない。


「うひひ、ウチのための遺産ちゃん♪ 第二着装形態になりまっしょい!」


 レギンレイブがグリフィン・フリューゲルに命じると同時に、レギンレイブのフリーアイカロスが展開され、グリフィン・フリューゲルに組み込まれていく。

 グリフィン・フリューゲルは大型のハヤブサ。翼を広げ胴体が変形し、クチバシの付いた顔も変形していく……お、おい、これってまさか。


「シグルド姉、こっちッス!」

「……なるほどなっ!」


 俺とハイネヨハイネを抱えたシグルドリーヴァが、変形しているグリフィン・フリューゲルに向かい、そのまま変形に組み込まれた。いや、違う。

 これは組み込まれたんじゃない、『室内に入ったんだ』!!

 変形が完了し、俺は全てを理解した。

 こいつを表す言葉は、一つしかない。




「ひ……飛空挺ひくうていか!!」




 翼が飛行機の羽に、胴体がコックピットに、背部には推進装置があり、乗り降りするための入口まである。まさかこれ、乗り物だったのか!?


「にゃっはっはー!! 第二着装形態『飛空挺アルビオンハイウィンド』完成!! えー、ウチは機長のレギンレイブ、よろしくッス!!」


 レギンレイブは、変形したフリーアイカロスの上に座っていた。ステルス戦闘機みたいだったメインウェポンが、椅子みたいになっている。


「では、海底よさらば! これより地上……いや、空の旅を始めるッス!!」

「お、おい?」

「さらば海底王国ネプチューン!! 飛空挺はっしーん!!」


 こうして、海底の冒険は終わった。

 残りの遺産は二つ。その前にロキ博士に連絡か。

 っていうか、飛空挺って……マジなのか?


**************

お父さん、異世界でバイクに乗る〜妻を訪ねて娘と一緒に〜

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890372073


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