第252話、BOSS・鯨魔獣ケートス④/シグルドリーヴァの神技

 ケートスから距離を取る。敵が硬すぎてまともに攻撃が通らない。

 まさかシグルドリーヴァの剣ですら、柔らかそうに見える眼球に刺さらないとは思わなかった。

 ケートスのやつ、俺たちが逃げたと思ったのか、旋回を始めた。


「やばい、あいつ……シャチの集落に向かう気だ」

「センセ、どうすんの? 陸ならまだしも、海中じゃウチらの戦闘力は大幅にダウンしちゃうッス」

「……くそ、ブリュンヒルデたちがいれば」

「…………」


 第二着装形態が使えれば、あんな野郎ぶっつぶせるのに。

 俺だけじゃ遺産の力は引き出せないし、モーガンのメルカヴァーなら効くと思うけど、第二着装形態は登録をした戦乙女しか使えない。オルトリンデがいないと無理だ。

 すると、シグルドリーヴァが言う。


「手はある。最初からな」

「は?」

「私の『乙女神技ヴァルキリー・フィニッシュ』なら、あの敵生態を完全に始末可能だ。それに、このウルスス・アークトゥルスの第二着装形態なら間違いない」

「…………じゃあなんで最初からやらないんだ?」

「決まっている。敵の外皮硬度や眼球硬度のデータを取得するためだ」

「ま、シグルド姉のことだから、強いのと戦ってみたいってだけだと思うッスけどね」

「……ふん」

「お、おい。本当に倒せるのか?」

「愚問」


 はい愚問きましたー!

 こいつの愚問って当てにならない気もするけどな……。


「正面に行くぞ。あのクジラを始末する」

「お、おい……」

「センセイ、私を信じろ」

「…………」


 俺は、こいつを信じることができるのか?

 敵か味方もわからない戦乙女型。壊れたはずのcode01シグルドリーヴァ。俺の知らない秘密も抱えているのは間違いない。

 この海中の旅で、シグルドリーヴァがどんなやつか少しわかった。

 意外と好奇心旺盛、ちょっと抜けてて、揚げ足を取るとめっちゃ怒る。なんというか、普通の少女と変わらない。

 もしかしたら、この子も……。


「わかった。シグルドリーヴァを信じる。あのクジラを倒して、遺産への扉を開くぞ!!」

「ふっ……そうだな」

「センセ、かっこいいッス!!」

「…………」


 俺は小型艇のハンドルを握り、シグルドリーヴァより先にケートスの正面に向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ケートスの正面、約500メートルってところか。

 小型艇、シグルドリーヴァ、ウルスス・アークトゥルスが並ぶ。

 

「シグルドリーヴァ、頼むぞ」

「任せろ」

「シグルド姉の神技は派手ッスよぉ~!」

「…………」


 ケートスは再び口を開け、超音波を発しながら近付いてきた。


『ぶぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……んんん』


 ビリビリと海水が振動する。だが、レギンレイブのフリーアイカロスが同様の振動波を出して中和する。

 シグルドリーヴァは、剣を突き出すように構える。


「『騎熊王ウルスス・アークトゥルス』、第二着装形態へ移行」


 ウルスス・アークトゥルスの眼がギュイィンと光り、騎士の熊の身体がバラバラに分解される。

 第二着装形態は遺産によって変化する。身に纏ったり、遺産そのものが変形したりするが、ウルスス・アークトゥルスは違う。分解したパーツ全てが、シグルドリーヴァの持つ『乙女聖剣レーヴァスレイブ・アクセプト』に集まり、合体、変形していく。


「お、おいおい……なんだこれ」

「で、でっかぁ~」


 シグルドリーヴァの大剣が、全長20メートルはありそうな巨大剣に変形した。

 ウルスス・アークトゥルスが、シグルドリーヴァの剣と合体した。剣と着装……すげぇ、でかい。


「『魔愚真マグマ神剣しんけんベアー・オブ・カリスト』へ移行。これより、『乙女神技ヴァルキリー・フィニッシュ』を使用する」


 シグルドリーヴァは、海中という理由を置いても、この大剣を容易く扱うだろう。

 剣をケートスの正面に向け、構えを取る。


「センセイ、この技を使うと私は機能停止寸前まで破損するだろう。後は頼む」

「わ、わかった」


 今さらだが、この『乙女神技ヴァルキリー・フィニッシュ』は使用すると身体が壊れかける。予想だが、オーディン博士の『修理リペア』あっての技なんじゃないかと、俺は考えた。

 俺はオーディン博士の変わりじゃない。でも、この世界で『修理』するのは俺の役目だ。


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん…………んんんん!!』


 ケートスが吠える。

 そして、シグルドリーヴァの眼が真紅に輝いた。


「乙女神技、『戦乙女の魔槍ミストルテイン』発動!!」


 次の瞬間、爆発が起きたように感じた。

 シグルドリーヴァの姿が消えた。そして、銀色の流星がケートスに向かって飛んで行くのがわかった。

 シグルドリーヴァの乙女神技は単純明快。剣を構え、剣から発せられるエネルギーを推進力にして突っ込むだけ。

 今は、ウルスス・アークトゥルスを加えた超推進力で突っ込む。

 本来は地上で放つ技で、防御不可能と言われた戦乙女型最強の攻撃力だ。


「センセ、衝撃にそなえてっ!!」

「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 シグルドリーヴァとケートスが正面衝突。

 ケートスの咆吼以上の衝撃が小型艇を叩き、衝撃で小型艇は吹っ飛ばされた。


 あまりの衝撃に、俺は意識を失った……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……センセ、センセ」

「う……」


レギンレイブに起こされ、顔を上げると……。


「センセ、だいじょぶ?」

「…………」

「いや、大丈夫だけど……レギンレイブはともかく、なんでお前も?」

「…………何故でしょう。わかりません」


 レギンレイブだけじゃなく、ハイネヨハイネまで俺をのぞき込んでいた。

 敵アンドロイドだけど、めっちゃ好みの顔なんだよなぁ……水着みたいな格好でのぞき込むと、立派なお乳の谷間が……って。


「シグルドリーヴァは!?」

「だいじょうぶッス。ボロボロだけど反応ありッスよ」

「ど、どこだ? ってかケートスは…………」


 俺は、言葉を失った。


「ぁ………………ぁれ、うそ」

「シグルド姉の勝利ッスね」


 ケートスと思われる物体が、縦に真っ二つに裂けていた。

 正面から包丁を入れて縦に割ったような、見事なまでに真っ二つ。言うまでもないが死んでいる。


「センセ、シグルド姉を回収するッス。えーと……うわ、すっご、これほどの衝撃でも遺産は無傷ッス。でもシグルド姉はボロボロ、両腕は吹っ飛んで足もオシャカっす。早く直してあげないと」

「…………」


 俺は、現実離れした光景に、暫く呆然としていた。

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