第251話、BOSS・鯨魔獣ケートス③/乙女と熊

 俺は、小型艇の中からオルカさんに言う。


「オルカさん、みなさんを連れて集落に避難を。ここは俺たちに任せてください!」

「お、おい……」

「早くっ!」

「わ、わかった! おめーら、ここは引くぞっ!」


 オルカさんは、この場にいるシャチ魚人たちを率いて集落へ戻る。

 リグくんが、心配そうにシグルドリーヴァの傍で泳いでいた。


「安心しろ。ここは任せて行け」

『きゅぃぃぃ……』

「お前の家族も、家も、私たちが守ってやる。さぁ」

『きゅぃぃぃっ!』


 リグくんは、シグルドリーヴァと小型艇の傍で何度かクルクル回ると、オルカさんの後を追って消えていった。

 これでもう、引くことはできなくなった。

 目の前には、とんでもなくデカい、ジャンボジェットと豪華客船を合体させたような海の怪物ケートスがいる。


「で、デカい……おいシグルドリーヴァ、本当に戦えるのか?」

「問題ない」


 と、シグルドリーヴァが剣を構えた瞬間だった。


『ぶおぉぉぉぉぉぉぉぉ…………んんんん』


 ケートスが口を開けた。

 それだけで、超強烈な振動となり、俺たちと小型艇に直撃する。


「ぐっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? いっでぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 感電したような衝撃が俺の身体を包み、小型艇の液晶や船体にビシビシと亀裂が入る。それだけじゃない、シグルドリーヴァも動けなくなっていた。

 苦しむ俺、そして全身を振動させるレギンレイブ。


「セン、セ……っ、これやば……っ!! え、遠隔、起動……っ!!」


 小型艇の正面に、『乙女天翼フリーアイカロス』が展開した。同時に、振動が弱くなる。恐らく、同様の振動波を出してケートスの振動を中和したんだ。


「っく……り、『修理リペア』!!」


 俺はハンドルを握り、全力の『修理リペア』を発動させ小型艇を修理する。すると、動けなかったレギンレイブ、ついでにハイネヨハイネも一緒に直ったようだ。

 レギンレイブが言う。


「ヤバい、この振動、ウチら戦乙女型の身体にも流れてくるッス……防御が防御にならない、シグルド姉っ!!」

「っ!! シグルドリーヴァっ!!」


 シグルドリーヴァは動かない。

 俺は騎熊王に命令……よかった、こいつは壊れていない。こいつの装甲はモーガン以上、水圧だけじゃなく振動も防御してる。

 だが、シグルドリーヴァはモロに喰らった。


「ウルスス・アークトゥルス、シグルドリーヴァを船に密着させろ」


 熊騎士はシグルドリーヴァを小型艇にくっつける。俺は『修理リペア』を発動させ、船に密着させたシグルドリーヴァを修理した。俺が外に出るにはリスクが高いので勘弁してくれ。


「っく……とんでもない振動だ」

「大丈夫か!?」

「ああ。だが、この振動波は強力だ。こいつはともかく、私では防御出来ない」

「ウチのイカロスなら中和できるッスけど……センセのガードしないといけないし、小型艇からは離せないッスよ」

「……なら、答えは簡単だ」

「え」


 超・嫌な予感。


「センセイ、私に付いてこい。まずは視界を潰す!!」

「ちょ、マジか!?」

「付いてこい、ウルスス・アークトゥルス!!」


 シグルドリーヴァとウルスス・アークトゥルスは、ケートスに向かって飛び出す。


「センセ、シグルド姉に付いていかないと! また振動波がきたらヤバいッスよぉ!」

「あぁもう! あんなバケモノに向かって行くの怖いんだからな!!」

 

 俺はシグルドリーヴァを追い、アクセルを踏む。

 シグルドリーヴァは『乙女聖剣レーヴァスレイブ・アクセプト』を構え、ケートスの右側に回り込む。


「あの剣、ブリュンヒルデのにそっくりだな……」

「そりゃそうッスよ。シグルド姉の剣の発展型が、ブリュ姉の剣ですからねぇ」

「そうなのか?」

「ええ。シグルド姉は全体のスペックがウチらより高ッスけど、着装形態を持たないッス。剣も変形機構ないし」

「へぇ……」


 なんて言ってる間に、反対側に回り込んだ。

 レギンレイブのフリーアイカロスも小型艇に付いてくる。ケートスは未だに超音波を出しているが、フリーアイカロスが中和しているおかげでダメージはない。


「シグルドリーヴァ、どうするんだ!?」

「決まってる。外皮が硬いなら柔らかいところを狙えばいい! ウルスス・アークトゥルス、抜刀!!」


 シグルドリーヴァが命令すると、ウルスス・アークトゥルスが背負っている大剣が分離、そのまま装備した。


「いくぞ、アタック!!」


 そして、シグルドリーヴァとウルスス・アークトゥルスは、ケートスの眼に向かって突撃した。

 二本の剣が、ケートスの眼に突き刺さるけど……ケートスの眼はかなりデカい。バレーボールに爪楊枝を刺すようなモンだ。

 ケートスは眼を閉じ、思い切り鳴いた。


『おぉぉぉぉぉぉぉんんん……ッ!?』

「チィィッ!! 眼球もなかなかの硬さだ……ッ!!」

「シグルドリーヴァ、いったん離れるぞ!! 何か作戦を考えないとダメだ!!」

「くそ……」


 力押しじゃダメだ、何か手を考えないと……!!

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