第248話、ケートスの元へ

 ハイネヨハイネは本当に黙ったまま、俺の傍で待機していた。

 まぁ、邪魔しないならいい。大事なのはケートスを倒すこと、そして遺産への扉を開くことだ。

 オクトーさんが戻ってこないので、俺たち4……いや3人で話す。


「作戦は簡単。レギンレイブがケートスを引き付けて、シグルドリーヴァが攻撃する。俺は万が一のために待機している。もし攻撃を喰らって破損でもしたら、俺のところまで来てくれ」

「わかった」

「あいあ~い」


 完全に任せっきりになってしまい、心が痛い。

 でも、俺もできる限りのさサポートをするつもりだ。戦えなくても『修理』はできる。俺の戦いは修理である! なんてな。


「えーと……」

「…………」


 一応、ハイネヨハイネを見たが、何も言わない。

 本当にただいるだけ。超美人の置物だと思うしかない。


「よし、作戦は決まった。決行は明日にして、今日はゆっくり休もう」

「私は今からでもいいんだが」

「シグルド姉、相変わらずせっかちっスね」

「ふん。明日にする理由がないからな」

「まぁまぁ。何があるかわからないし、体力万全で行きたいんだよ。だから俺は寝る」

「好きにしろ……」


 オクトーさんが来たら起こしてもらうように伝え、俺は小型艇に入って眠ることにした。

 海底は明るいから、時間の感覚がない。身体的にはもう夜な気がするからな、しっかり睡眠をとって決戦に備えよう。


 というわけで、おやすみなさい。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シグルドリーヴァは、立ったまま動かないハイネヨハイネに言った。


「お前、本当に戦闘機能がないのか?」

「はい。私は見守るだけ」

「ッチ……センセイめ、なんでこんなやつを」

「まぁまぁ。センセには何か考え…………ないな、こりゃ」


 レギンレイブは、一瞬で思考を放棄し、ハイネヨハイネの元へ。


「おねーさん、オストローデ王国の情報なんかないの? センセの話じゃけっこう壊されてるみたいだけど」

「…………ハイドラ、セルケティヘトは滅ぶ運命にあり、ライオットは運命を変えられた。アシュクロフトとアナスタシアは運命に沿って進み、アリアドネは傍観を続け、ゴエモンは運命に抗おうとし、カサンドラとヴァンホーテンは私にも見えない」

「ほうほう、オストローデシリーズも終わりが近いってことっスね」

「……違います。まだ、始まってすらいない」

「へ?」

「…………」


 それっきり、ハイネヨハイネは口を閉じた。

 ほっぺをツンツンしても、胸を揉みしだいても変化がないので、レギンレイブはシグルドリーヴァの元へ。


「シグルド姉、どーするっスか?」

「何がだ」

「ロキ博士、これが終わったら別の遺産のところへセンセイを向かわせるっスよ? それに付いていくのはいいけど、ブリュ姉たちと合流したほうがいいと思うっス」

「…………」

「シグルド姉、ロキ博士の目的はアンドロイドの殲滅……たぶん、ウチらだけじゃやれないっす。やっぱり、姉妹全員で協力すべきっスよ。それに、センセがいればきっと……」

「…………私は、お父様に従うだけだ」

「シグルド姉……」


 シグルドリーヴァはそっぽ向く。

 レギンレイブは呆れながら言った。


「シグルド姉、変わったっスねぇ……昔は姉妹たちのまとめ役で、末っ子のアルちゃんを可愛がったり、乱暴なオル姉を宥めたりしてたのに」

「……私に昔の記憶データはない。今の私が全てであり、シグルドリーヴァだ」

「う~ん……なんかウチ、引っかかってるんっスよねぇ。シグルド姉って……」

「……なんだ」


 レギンレイブは、自分の考えを伝える。するとシグルドリーヴァは目を見開く。


「ふざけるな、そんなことあり得ない! お父様は……」

「あくまで可能性っス。でも……それじゃ悲しいっスよ」

「…………っくそ。お父様に確認すればいいだけだ、バカらしい」

「…………そうっスね」


 レギンレイブは、シグルドリーヴァにそっと抱き着く。


「シグルド姉、ウチはシグルド姉に会えて嬉しいっスよ? きっとみんなもそう言うはずっス」

「…………」


 ハイネヨハイネは、何も言わずに姉妹を見ていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 半日くらい寝てた気がする……。


「センセ、オクトーさんが来たっスよ。センセ!」

「んん~……ああ、わかった」


 レギンレイブに起こされて小型艇から出ると、オクトーさんがいた。


「ワシの部下数名を偵察に出してな、ケートスの現在位置と通過ポイントを調べた。幸いなことに、魚人の被害はまだ出ていないが、このままだとちと不味い」

「え……」

「ケートスの位置からして、狙われるのはシャチ魚人の集落だ。恐らくあと数日で集落に到着するだろう」

「……噓だろ」

「幸い、魚人たちの避難は始まっておる。だが、集落はあの巨体に潰されてしまうかもしれん……」

「すぐに出発します。そんなことはさせない」

「お、おい……?」

「シャチ魚人は、海底に来た俺らを優しく迎えてくれました。魚人たちはもちろん、集落だって守ってみせる」


 あそこにはリグくんもオルカさんもいるんだ。住処を破壊させるわけにはいかない。

 オクトーさんに、ケートスの位置を聞く。


「レギンレイブ、集落までのルートは?」

「問題ないっスよん」

「シグルドリーヴァ、戦闘準備は」

「問題ない」

「よし、小型艇の最大船速で行くぞ」

「お、おいおい、本気で行くのか……?」

「はい。オクトーさん、ありがとうございました」

「……やれやれ、人間っちゅうんはこうも熱いのかねぇ」


 ちなみに、魚人たちが戦いに手を貸すことは禁じられている。スクアーロ王からのお達しだそうだ。なので、今回は俺たち3人で戦わなければならない。

 

「全員、小型艇に乗れ。急ぐぞ!」


 全員で乗り込んだはいいが……せまい。


「貴様、もっと詰めろ!」

「申し訳ございません」

「センセ、膝の上に乗せてー♪」

「…………」


 俺、シグルドリーヴァ、レギンレイブ、そしてハイネヨハイネ。

 おいおい、運転席の後ろでほぼ裸の美女が絡み合ってるよ。というかシグルドリーヴァ、ハイネヨハイネと喧嘩するなって、うへへ。


「センセ、下半身が膨ちょ「それ以上言うなっての!」


 レギンレイブ、頼むから太ももの上で動かないでくれ。

 こいつのお尻柔らかい……ああ、俺ってやつは。


「い、いくぞ!」


 小型艇を発進させる。

 目的地はシャチ魚人の集落近く。そこでケートスと一騎打ちだ!

 

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