第246話、作戦会議

 スクアーロ王との謁見を終え、拠点の穴蔵に戻って来た……あー怖かった。

 メンバーは四人。俺、レギンレイブ、シグルドリーヴァ、そしてタコ魚人のオクトーさんだ。

 オクトーさんは、ここに戻る間終始無言だったが、穴蔵に入るなり言った。


「おめぇさん、ほんっと~に馬鹿だな」

「……いやぁ、怖かったですよ」

「見りゃわかんだろ? スクアーロ王は全ての魚人の王にして、オレらの『パパ』なんだ。子供同然の魚人をケートスにやられてブチキレてんのに、なんも知らねぇ地上の人間が『ケートスは俺らで倒します』なんて言って頭にこないワケねぇ」

「っぐ……」


 確かにオクトーさんの言う通り。でも、もう言ってしまった。


「こんなこと言いたかねぇが、もし失敗したら喰い千切られるぞ、おめぇ」

「ひっ……だだ、大丈夫、その、ケートスをぶったおせばいいだけでで……」

「センセ、声震えてるッスよ?」

「情けない男だ」

「うう、うるさいな……とにかく、オクトーさん、ケートスの情報をください!」

「……まぁ、パパの言いつけだから協力するが」


 とにかく、ケートスの情報がないとどうしようもない。

 というか、海底に来て遺跡の扉を開けるミッションなのに、なんで海底最悪のモンスターと戦う事になってるんだろうか……。


「センセ、疲れてるッスか?」

「…………」


 レギンレイブの問いに、肯定も否定もできなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オクトーさんに『鯨魔獣ケートス』の話を聞く。


「ケートスは一言で言うなら、『異常進化したバケモノクジラ』だ」

「まんまッスねぇ」

「ああ。大昔、スクアーロ王が討伐しそこねた鯨のモンスター『ディオホエール』が、頭部に損傷を受けた際に成長するために必要な養分を異常分泌して、今の大きさになったんだ」

「へぇ……」


 ディオホエールは本来、大型トラックほどの大きさらしい。でも、頭部に攻撃を食らった1匹のディオホエールが逃げ、成長ホルモンが異常分泌してジャンボジェット機を越える大きさになったのだとか。

 その際、体質や表皮も変化し、脳の睡眠サイクルも変わったらしい。100年ほど睡眠を取り、100日ほど海底でエサを求めて暴れるという。

 

「以前、ケートスの住処を見つけて仕留めようとしたんだが……魚人の武器じゃ皮膚に傷一つ付けられねぇ……だから、被害の少ない場所で暴れさせて、眠りに落ちるのを待つしかねぇんだ」

「ふむ……」


 俺はシグルドリーヴァを見た。


「シグルドリーヴァ、お前のメインウェポンは、あのバケモノクジラに通るか?」

「愚問」


 はい愚問出ましたー。

 ええと、通るってことでいいんだよな?


「私の剣に斬れぬ物はない」

「どっかの武士みたいなやつだな……とにかく、斬れるんだな。じゃあレギンレイブ、お前はどうだ?」

「うーん、ウチの羽、水中じゃあんまり早く動けないからねぇ……超音波と衝撃砲で、シグルド姉の援護なら」

「それでいい。じゃあ聞くぞ、お前たちはあのバケモノクジラを倒せるか?」


 すると、答えは一瞬で返ってきた。


「「問題ない(ッスよ)」」


 なんとも頼もしい答えだった。


「あの巨体を刻むのに時間はかかるが、生物である以上、心の臓があるはずだ。そこを『乙女神技ヴァルキリー・フィニッシュ』で叩き斬る」

「それが確実ッスね。ウチは援護に徹するッスよ」

「……ほんと、戦乙女型って敵なしだな」

「ま、ウチらはアンドロイドを滅ぼすアンドロイドッスからね。人間やモンスター程度じゃ傷一つ付けられないッスよ」

「チート能力並だな……というか、俺役に立たねぇ」


 機械がないと俺は無力すぎる。

 最近『修理リペア』も使ってない。だって機械はないし、レギンレイブたちも壊れないから……。

 

「なぁ、よくわかんねーけど、結局戦うのか?」

「はい。なので、ケートスが現れる場所を教えてください」

「……わかった」


 オクトーさんはケートスが現れるポイントをいくつか教えてくれて、レギンレイブに位置をマークしてもらう。

 あとはそのポイントで待ち伏せして戦うだけ……。

 

「おーいオクトー、ちょいといいかぁ?」

「ん、なんだ?」


 と、オクトーさんの同僚のタコ魚人が来た。

 中に入らず、入口での~んびりした声で……。






「人間さん、あんたたちの仲間が、あんたに会いたいって来てるんだけどよ」






 そんな、仰天するようなセリフを言った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お、俺たちの仲間?」


 真っ先に思いつくのは、銀色の戦乙女ブリュンヒルデ。

 ここは海底。俺はロキ博士のダイバースーツを着ているから呼吸できるが、本来なら水圧で一瞬で潰れるほどの深海だ。

 来れるとしたら、ブリュンヒルデとジークルーネ、それかオルトリンデかヴァルトラウテ。


「やっべ……オル姉だったら壊されるかもぉぉぉっ!」

「お、落ち着け。それより、俺たちの仲間って!?」


 俺は入口でぷかぷか浮いてるタコ魚人に聞く。


「人間の客は珍しいからなぁ。あんたの仲間だと思ってすぐそこまで連れてきてるのよ、おーい」


 タコ魚人が呼ぶと、誰かが来た……。


「……? あの」

「…………」


 驚くしかない……よな?

 俺の知り合いに、全身をすっぽりローブで隠した人なんていない。というか、誰だこれ?

 すると、レギンレイブとシグルドリーヴァが立ち上がる。


「貴様、何者だ!」

「マジっすかぁ……こんなところまでぇ」

「お、おい?」

「目を逸らすな!! こいつはアンドロイドだ!!」

「え」


 オクトーさんはワケもわからず首を傾げているが、俺はすぐに立ち上がりシグルドリーヴァの後ろに回る。

 おいおい、おいおい、おいおい、なんでこんな海底にアンドロイドが来てるんだよ? いきなりすぎて驚いたぞ!?

 すると、ローブを着たアンドロイドは、静かにフードを外す。


「敵対するつもりはありません。機神の眷属よ」

「はい?」

「私の名はハイネヨハイネ、オストローデ王国の予言者。センセイ、いえ機神の眷属、いえ……運命を覆し者」

「…………」


 女性、そして黒髪ロング、そして20代半ばといったところだろうか。

 これはやばい……正直、ドストライクな容姿だ。めっちゃ俺好みなんだけど。


「ふん、私の前に出るとは愚かなアンドロイドだ……ここで剣の錆にしてくれる」

「私は、敵対の意志はありません。センセイ、あなたを見守りに来ました」

「シグルドリーヴァ、ちょいストップ。敵対の意志はない?」

「はい。私の目的はセンセイ、あなたを観察すること。死の運命を覆したあなたを、最後まで見守ること……」

「…………ええと」


 わけわからん、なんだこいつは?

 確かに、めっちゃ無防備だし武器らしい武器は展開してないけど……。


「シグルドリーヴァ、破壊は待った。よくわからんけど、このまま壊すのはさすがに可哀想だ」

「可哀想……? ふん、甘いやつだ。だが不穏な動きをすれば斬る」

「センセイ、私はただ見守るだけ。あなたの心の赴くままに」

「うーん、わけわかんないッス……」

「確かに……」


 とにかく、このアンドロイドの正体を確かめよう。

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