第242話、そのころのクラン『戦乙女』たち
セージたちが海底王国ネプチューンにいる頃……。
「はぁ~……ヒマですー」
「仕方ない。情報がないと動けない」
『にゃあ』『なーご』
クトネと三日月は、ラミュロス領土にある三種族対談を行った遺跡にいた。
というか、セージに関する情報が全くなかったため、動きようがなかったのである。
クトネは遺跡にある部屋の一つに毛布を敷き、そこに寝転がって読書。三日月はみけことくろこを抱っこしながらなでている。
「シオンさん、これからどうなると思いますー?」
「……三つの種族は協力関係を築いた。せんせのおかげで」
「ですねー……まさか、セージさんの存在があんなに大きくなってたとは」
オーガ、ラミア、龍人たちは、配下を使ってセージの行方をラミュロス領土中を探している。闇雲に動いても仕方ないので、クトネたちは遺跡に待機しているという寸法だ。
「ルーシアさんは鍛錬、ゼドさんは鍛冶場を作ってなんか作って、キキョウさんはずっと落ち込んで……はぁ」
「せんせ、いないだけでみんなバラバラ……」
「ですねー」
遺跡の外には、二台の居住車が止まっている。
エンタープライズ号と、オルトリンデが買った居住車だ。
「早く動きたいですねー……」
「うん。せんせ、探したい……」
みけことくろこが、にゃあと鳴いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「大丈夫か?」
「……はい、ありがとうございます」
ルーシアとキキョウは、模擬戦を繰り返していた。
キキョウは未だにゴエモンとの戦いで敗北したことを引きずっていたおかげで、動きに精細さが感じられない。ルーシアの一撃ですら掠るようになっていた。
「今日は終わりにしよう。汗を流しに行かないか?」
「…………はい」
ルーシアとキキョウは、遺跡近くに流れている川に向かう。
服を脱ぎ、汗で火照った身体を冷ましていると、ルーシアが言う。
「セージ、まだ見つからないそうだ……」
「ええ。ラミュロス領土内にいるかどうかわかりませんが、三種族の情報収集に任せるしかありません」
「……キキョウ、お前はどうするんだ?」
「……?」
「依頼は果たされた。もう、私たちに付きあう義理はない」
ルーシアは大きな乳房を揺らしながらキキョウに振り向く。
つまり、もうここにいる必要はないと言っている。
「ふふ……申し訳ありません、私の依頼はまだ終わっていませんよ」
「……なに?」
「私の依頼はクラン『戦乙女』の団長から受けた依頼です。なら、依頼完了の指示は依頼主から聞かねばなりません」
キキョウは川の水を掬い、腕や胸を濡らしていく。
引き締まった身体は均整がとれ、女性としてもかなり魅力的だった。
「やれやれ……」
「ルーシアさん、申し訳ありませんが、まだ付き合ってもらいます。私は自分の敗北が許せない……まだまだ精進しなくては」
「……ふっ、そうか」
美女たちの水浴びは、どこまでも美しかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……なーにしてんの?」
「見てわからんか? 鉄の細工を作っちょる」
ゼドは、エンタープライズ号に寄り掛かり、金属の加工をしていた。
それに興味を持ったのはアルシェで、指定席となったエンタープライズ号の屋根から覗き込むようにして見ている。
「楽しい?」
「楽しいとか楽しくないとかじゃない。腕が鈍らんように、指先を鍛えるのよ」
「ふーん、暇つぶしにしか見えないけどね」
「…………」
ゼドは、針金をねじって何かを作っている。
セージより大きなごつい手で、クトネの掌よりも小さな針金細工を完成させた。
「ほれ、やるわい」
「ん……ありがと」
ゼドが投げ渡したのは、蝶の針金細工だった。
アルシェはそれを胸に付け、晴れ渡る空を仰ぐ。
「退屈だね……」
「仕方なかろう。セージの情報がない以上、迂闊には動けんからの」
「確か、ラミュロス領土中を探してるんだっけ?」
「おお。あのブリュンヒルデの同型が飛び去った方向を調べ、どこへ向かったか見ていた者を探しちょるらしい……望み薄だが、僅かでも手がかりがあればそこへ向かえる」
「そだね……ったく、せっかく里を出たのに、こんなとこで冒険がストップするなんてまっぴらごめんよ」
「そうじゃな……あいつも、まだやるべきことがある」
エルフとドワーフは、澄み渡る青空を見上げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ~……」
「お嬢ちゃん、どうしたっスか?」
「あ、ライオットさん」
白い吸血鬼エレオノールは、タンクトップハゲことライオットに気が付いた。
ライオットはニカッと笑うと、エレオノールの隣に移動する。
「ささ、悩みなら聞くっすよ」
「え、その……ありがとうございます」
巨体に似合わず繊細で、仲間を大事に思うアンドロイド。このライオットの優しさはエレオノールにとっても嬉しかった。
「その、わたし……いろんな人がいるのに、誰ともお喋りできなくて。わたしが近づくとみんな眠っちゃうし、もしかしたらいけるかも、なんて考えて……」
エレオノールは、何気なくクトネに挨拶して倒れさせたことを思い出す。
オルトリンデとヴァルトラウテが一緒だったし、ライオットも倒れることはなかったので油断していた。触れれば『眠る』という効果は切れることがない。
「はぁ~……ピーちゃんにはお友達ができたのに」
「うむむ……そういえば、お嬢ちゃんの力って吸血鬼の力っスよね? それってチート能力みたいに制御できないっすか?」
「これでも制御してるんです……でも、半径一メートルくらいが限界で」
「ふぅぅむ……なら、もっと訓練あるのみっスね!」
「え?」
「がんばれば、能力のオンオフを切り替えられるようになるっスよ! だから修行あるのみっす!」
「…………」
確かに、自分の限界だと思い、半径一メートルまでの制御を可能にしてから、能力の修行なんてしていなかった。
そもそも、限界などあるのだろうか?
ライオットの言う通り、訓練すればオンオフの切り替えも可能なのではないか。
「……確かに、やる前から諦めちゃダメですよね」
「そうっす!」
「ありがとうございます、がんばってみます!」
エレオノールは、両手を握りしめライオットに応えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
「…………」
「…………」
『…………』
四人の戦乙女は、エンタープライズ号の二階空き部屋で押し黙っていた。
それぞれの膝の上には、小さな動物たちがいる。
『もきゅう』
『きゅうう』
『きゅっぴ!』
『にゃあご』
ごま吉、ジュリエッタ、ピーちゃん、猫のはだおが、乙女たちの膝の上でくつろいでいた。
ジークルーネは、もう何度もした質問をする。
「センセイ、どこに行ったのかな……」
『その質問は67回目です』
「何度でもするよ……センセイ、レギン姉とシグルド姉さんに連れて行かれちゃった」
「ッチ、レギンレイブのやつ。今度会ったらぶちのめしてやる!」
「お姉さま、レギンちゃんは何か考えが……なんでもありませんわ」
姉妹の中でもアホに分類されるレギンレイブに、深い考えなどありえなかった。
その答えは当たっている。レギンレイブは目覚めてシグルドリーヴァに拉致された。他に行くところもないのでシグルドリーヴァと一緒にいる。きっとそれだけ。
『もきゅう』
「よしよし、ごま吉、もっふもふだねぇ」
「おいジークルーネ、本当に手がかりはねぇのかよ?」
『その質問は58回目です』
「やかましいブリュンヒルデ。で、どうなんだ?」
「……ない。空中のレギン姉に付いていけるわけないし、仮に故障してなくても追跡は不可能。さすが、逃げに回ったレギン姉は姉妹最強だよね」
「ジークルーネちゃん、けっこう毒舌ですわね……」
『…………センセイ』
オルトリンデは、ブリュンヒルデに質問する。
「ブリュンヒルデ、おめーの中にいるcode00とやらに聞けないのか? アタシらの母親とやらによぉ」
『不可能です。ヴァルキリーハーツに解析不能のcodeが刻まれましたが、私の解析能力ではどうにもなりません』
「……ちっ」
『きゅっぴーっ!』
舌打ちをし、ピーちゃんをワシワシなでるオルトリンデ。
こんな、無駄な時間がずっと流れていた。
情報がない。それだけで、彼女たちの動きは制限されてしまう。センセイというマスターがいないと、戦乙女たちは動くこともできない。
そんなときだった。
『…………ア、あー……聞こえるかね? 戦乙女たち』
どこからか、声が聞こえてきた。
ブリュンヒルデたちは一斉に声の方を向く。そこには、セージが『修理』した機械のフクロウ、ホルアクティがいた。
『ようやくハッキング成功だ。ふふ、code06、なかなか強固なプログラムを構築したね……さて、さっそく本題に入ろうか』
質問すらできず、四人の乙女は人間のように驚く。
ホルアクティのカメラアイから立体映像が浮かび、若い男性が微笑を浮かべていた。
『センセイの居場所を教えよう。ふふ、感謝したまえ』
戦乙女たちは、未だに硬直していた。
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