第241話、鮫肌王スクアーロ
タコ魚人のオクトーさんに付いて泳ぐ。
海底のクレバスに造られた王国は神秘的で、岩が発光しているのか、神秘的な光に包まれていた。これマジで世界遺産レベルだわ。
「美しいじゃろ? これは光苔っちゅうモンでな、見ての通り光るコケじゃ。こいつのおかげで海底王国は昼夜問わず明るい」
「へぇ……」
「それにしてもお前さん、変な服着とるのぉ」
俺のダイバースーツに付いたスクリューが回転しているのを見て、オクトーさんがそんなことを言う。仕方ないよ、これがないとまともに泳げないんだからさ。
「王城はここの最下層じゃ。昔の遺跡をそのまま城として使っちょる」
「遺跡、ですか?」
「おうさ。ようわからんが、海の底にあるくせに錆びつかない金属があったり、何をしても開かないドアがあったり……変なもんよ」
「……」
ズバリ、その開かない扉が俺たちの目的だ。
そいつを開ければ、新しい遺産に通じる道が開かれる。それに、この試練を終えればロキ博士がオストローデ王国や生徒たちの情報をくれる……。
「センセイ、聞け」
「ん?」
すると、泳ぐ俺の隣にシグルドリーヴァが並ぶ。
改めて見ても美しいスタイルだ。水着グラビア出せば引っ張りだこなのは間違いない。
「私とレギンレイブはお前の護衛だ。交渉事には一切関与しない。いいか、お前の力だけで扉を開けて見せろ」
「わかってるよ。それと、一つ教えてやる。人間ってのはな、誠心誠意お願いすることに長けた生き物なんだよ」
「そうか。期待してる。新しい遺産を見せてくれ」
「……お前、見たいだけだろ」
シグルドリーヴァは無言だった。
レギンレイブは、なぜかドリルみたいに回転しながら泳いでるし……少しは慣れてきたと思うけど、やっぱりブリュンヒルデとジークルーネが恋しい。それに三日月たちやネコたち、ごま吉やジュリエッタにも会いたい。
すると、オクトーさんが言う。
「スクアーロ王に挨拶したら宿に案内してやる。それと、宿賃だが」
「お、お金ならあります」
「違う違う。地上の話を聞かせてくれ。美味い酒も料理も出すし、仲間も大勢連れて行くからなぁ」
「…………」
今更だが、魚人たちは娯楽に飢えていた。
俺の武勇伝、今度は『ユグドラシル・接戦編』を披露してやるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「着いた。ここがスクアーロ王の城じゃ」
「へぇ~……遺跡ですね」
クレバスの底には、国会議事堂みたいな石造りの建物があった。
クレバスの壁に穴を空けた住居の中で、この建物だけが異彩を放っている。まるでクレバスの中に隠された施設みたいな、そんな気がした。
「……センセ、反応ありっス」
「マジか?」
「はいっス。金属反応と知ってる識別パターンの電気信号、間違いなく遺産の部屋と同じ識別コードっス」
「じゃあ、ここに【
「間違いないっスよ」
レギンレイブのセンサーにかかったようだ。
あとは、スクアーロ王に頼んでドアを開けるだけ。思ったより上手くいきそうだ。
城の前で、オクトーさんが言う。
「スクアーロ王は優しいお方じゃ。ワシらの親父みたいなもんじゃの」
「親父、ですか?」
「ああ。陸の王アルアサドと並ぶ海の王じゃ」
「……」
アルアサドねぇ……あの巨大ライオン獣人か。
あいつは話を聞こうとしなかったし、あんまりいい思い出ないんだけど……。
オクトーさんは城の門番らしきマグロ魚人に敬礼すると、ドアが開かれた。
さて、スクアーロ王に交渉開始だ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海の王、言い得て妙だ。
なんというか……強烈だった。
「親父。人間は海で呼吸し、ここまで来るようになったみたいですぜ」
オクトーさんが言うと、スクアーロ王は酒の目玉が入っている盃に手を突っ込み、いくつもの目玉を口の中に放り投げる。
「らしいな。つーか、ワシが王になって初めてかもしれんのぅ、人間の客人というのは」
鮫の魚人にして最強の魚人。海底王国ネプチューンの王スクアーロ。
全長は五メートルを越えた青い鮫肌を持っており、全身に無数の傷が刻まれた歴戦の戦士と言えばいいだろう。背中には巨大なフカヒレがあり、顔はジョーズそのもの。鋭利すぎてギラリと光る牙はあまりにも凶悪に見えた。
アルアサド・海中バージョンとでもいえばいいのか。とんでもない威圧感だ。
「…………」
俺は喋れなかった。
レギンレイブとシグルドリーヴァは全く喋らない。俺に全てを任せるということをしっかり守っている。
「おう人間。ワシはスクアーロじゃ! よろしゅう頼むぞおい!」
「ひゃい、わわ、わたしは、その……せ、セージと申します」
「セージか。後ろの娘っ子はお前のスケか?」
「えと、その、ご、護衛です」
「ほぉ……まぁいいわ。せっかく来たんだ、海の町を見ていけ! それと、この辺りは少し騒がしくなる。騒ぎが収まるまでここにいていいからな! シャッハッハ!」
わ、笑うと牙がガチガチ鳴る……こ、怖い。
俺は頭を下げると、オクトーさんが言った。
「さて、町を案内してやる。それとも酒でも飲むか? 海の酒は美味いぞぉ?」
「酒……じゃあ、お願いします」
「おうさ。じゃあスクアーロ王、また来ますんで」
「おう、悪いなオクトー、あとでジャッシュと一緒にオレんとこに来てくれ」
「ウィっス!」
オクトーさん、スクアーロ王に対して軽いというか……もしかして、敬語が苦手な王様なのかな? 怖いから何も聞けないけど。
とりあえず、ファーストアタックは何も聞けずに終わった……俺ってホントにビビりだよなぁ。
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