第240話、ネプチューン到着とリグくんとの別れ

 ジャンボジェットクジラとの遭遇から2日。俺たちは海底王国ネプチューンに到着し……驚いた。


「な、なんじゃこりゃ……」

「わぁ~、すごいッスね~」

「……自然の力、か」


 小型艇の中で驚く俺たち。

 リグくんはスイスイと迷うことなく泳ぎ、ある程度の位置で止まった。

 俺たちも小型艇から降り、リグくんの傍まで泳ぐ。


「リグくん、あそこが海底王国だよね?」

『きゅぃぃぃっ!』


 聞くまでもないが、リグくんはキュイっと鳴いた。

 改めて、目の前の光景を眺める。


「スゴいッスね~……まさか、海底のクレバスに王国を作るなんて」


 そう、海底王国ネプチューンは、海底にできた巨大な亀裂の中にあった。

 亀裂はとんでもなく幅広く、ジャンボジェットが楽々侵入出来そうなほどだ。そして亀裂の壁沿いに無数の穴が空き、恐らくそこに魚人たちが住んでいるのだろう。

 海底には海藻や珊瑚が揺らめき、水の透明度も高いので日の光も差し込んでくる。


「レギンレイブ、遺跡はどこだ?」

「ん~…………無理ッスね。ウチの索敵範囲外ッス。たぶん、クレバスの底じゃないッスか?」

「底って……冗談だろ?」

「…………行けばわかる。行くぞ」

「お、おい待てって!」

「今更だけど、シグルド姉ってせっかちッスね」


 シグルドリーヴァはスイスイ泳ぎ始めたので、俺とレギンレイブ、リグくんも跡を追う。

 俺とレギンレイブはリグくんの背ビレに掴まらせてもらうと、シグルドリーヴァとの距離を一気に縮められた。


「わっふーっ! リグくん速いッスーっ!」

「うおぉぉっ! これけっこう楽しいかもっ!」

「…………貴様ら」

「やばいっ! シグルド姉が怒ってるッス、リグくん逃げろーッス!」

『きゅぃぃぃっ!』

「うおっ!? ちょ、速っ!?」

「…………逃がさん!!」


 リグくんが逃げ、シグルドリーヴァが跡を追い、俺とレギンレイブはリグくんに掴まる。

 いつの間にか、シグルドリーヴァとリグくんの追いかけっこが始まり、振り落とされないように必死に掴まる俺だった。


 そして数分後、海底王国ネプチューンの入口らしきクレバスに到着した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「何者……まさか、人間か!?」


 まぁこうなるよな。

 門番というか衛兵のタコ魚人が、石の槍を俺たちに突き付けていた。

 数は二十、いや三十人くらい。見分けが付かないくらい立派なタコ魚人だ。

 タコの顔に八本の足が髭のように生え、身体はまんま人間だ。てっきり足が八本あるかと思ったら違っていた。

 すると、リグくんが前に出て鳴く。


『きゅぃぃぃっ! きゅい、きゅいぃ!』

「なに? 地上から来た人間で、海底を調査している? シャチ魚人が身元を保証してるから、どうか王国内に入れてやって欲しいだと?」


 すげぇ、きゅいきゅい鳴いてるだけなのに、そんな複雑な意味があったとは。

 リグくんは、タコ魚人数名と何か話し合いをしている。そして、リーダー格らしいタコ魚人が、俺たちの前に出てきた。


「ふぅむ……どうやって海中で呼吸を? 人間は陸でしか生活出来ない生き物だと聞いたが、不思議だのお」

「あ、あの」

「まぁよい。シャチ魚人のお墨付きということはわかった。警戒して悪かった」

「いえ、わかっていただけたようで何よりです」


 顔近いよタコさん……髭みたいな足がニョロニョロ動いてるし、小さな丸い目がギョロッとこっちを見てる。マジでタコさんですよ。


「くぁっくぁっくぁっ、警備隊がワシらでよかったの。サメの警備隊だったら、食い千切られていたかもな」

「は、はは……」


 怖い冗談はやめてくれ。サメの魚人とかマジで怖い。


「まぁいい。人間の客人なぞ初めてかもしれん。スクアーロ王に挨拶すべきじゃろうな」

「スクアーロ……」


 海の王、『鮫肌王パパ・シャークスクアーロ』か。

 けっこう前の話だけど、マジカライズ王国のナハティガル理事長が、協力要請の手紙を送ったらしいけど、突っ返されたんだよな。どうやって送ったか少し気になる。


「おっと、ワシはタコ魚人警備隊のオクトー。よろしくな」

「よろしくお願いします、俺はセージです。こっちがレギンレイブ、あっちがシグルドリーヴァです」

「うむ。ではさっそくスクアーロ王に挨拶するか。挨拶が終わったら国内を案内しよう」

「はい、よろしくお願いします」


 挨拶を終えると、リグくんが擦り寄ってきた……ああ、そっか。役目が終わったから帰るのか。

 俺はリグくんを撫でる。


「ここまでありがとう、リグくん。本当に助かったよ」

『きゅぃぃぃっ!』

「ほほ。『短い間だったが楽しかった、海に来ることがあれば、いつでも案内してやる』と言っておる」

「そっか。じゃあ今度はいっぱい人を連れて来る。その時は海底の案内をお願いするよ」

『きゅぃぃぃっ!』

「『任せろ!』と言っておる」


 うん、きゅぃぃぃっ! しか言ってないのに、込められる意味は違うんだな。

 すると、レギンレイブがリグくんの顔にキスをした。


「また背中に乗せて欲しいッス、リグくん」

『きゅぃぃぃっ!』

「ふふ、ありがとう。楽しみにしてるッスよ」


 レギンレイブ、リグくんと通じ合ってたから、通訳は必要ないようだ。


「…………感謝する」

『きゅぃぃぃっ!』


 シグルドリーヴァは、頬の辺りを優しく撫でて微笑んだ。

 リグくんも身体を擦りつけ、別れを惜しんでいるようだ。


『きゅぃぃぃっ! きゅぃぃぃっ!』


 そして、リグくんは鳴きながら行ってしまった。

 見えなくなるまで見送ろうと見ていると、大きなシャチの群れが現れ、リグくんは群れに合流、そのまま一緒に泳いで行ってしまった。


 ありがとうリグくん。また会えたら背中に乗せてくれよ!



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