第239話、嫌な予感はしていたセンセイ
ドラゴンノベルス新世代ファンタジー投稿作品です!
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『きゅぃぃ』
「ん……ああ、おはよう、リグくん」
朝。
リグくんに起こされ、俺は背伸びした。
そうか、ここはカツオ魚人の村で、宿を借りてここで一泊したんだっけ。
今日はカツオ魚人の村を出て、タツノオトシゴ魚人の村を目指して進む。そこから先に進めば晴れて海底王国ネプチューンだ。
「おーい朝だぜ、メシ喰うか?」
「あ、ありがとうございます。この子に朝食を」
『きゅぃぃっ!』
カツオ魚人さんが生魚をたくさん持ってきてくれたので、リグくんにおなか一杯食べてもらう。
俺たちにも生魚が出されたが遠慮した。とりあえず、目玉のお茶だけもらい、小型艇の中でパンをかじる。
さて、メシを食べたら出発だ。今日中にタツノオトシゴ魚人の村に行かなくては。
「それじゃ、お世話になりました」
「おう、また来な。今度は面白い話でも聞かせてくれや」
「はい、ぜひ」
カツオ魚人さんに別れを告げ、俺たちはタツノオトシゴ魚人の村へ向かう。
余談だが、俺が去った後にここに来たシャチ魚人によって、俺の冒険物語が拡散されたそうだ……いつの間にか海底で有名人になりつつある俺。
リグくん、今日もよろしく頼むぞ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リグくんの背には、相変わらずレギンレイブが乗っていた。
リグくんも嫌がってないし、むしろどこか楽しそう……あ、デスロールみたいに回転し始めた。
「うっひゃーっ! リグくんすげーっス!」
『きゅぅぅぅぅいぃぃぃっ!』
小型艇の中で、俺とシグルドリーヴァは回転するリグくんを見る。
「楽しそうだなぁ……」
「…………」
「羨ましいか?」
「前を見て運転しろ」
「はいはい」
シグルドリーヴァは素直じゃない。本当は乗りたいんだろうけど、俺やレギンレイブの手前、あまり迂闊な姿は見せたくないのだろう。
リグくんの背に乗るシグルドリーヴァ……いいと思う。
「次はタツノオトシゴ魚人……カツオ魚人とはあまりしゃべれなかったけど、今回はどうかな?」
「知らん。さっさと遺産を回収して帰るぞ」
「はいはい。そうだな」
そして、リグくんに付いて進むこと半日。けっこうな速度で泳いでるが、リグくんは全く疲れを感じさせないスピードで泳いでいた。
「お、センセ、タツノオトシゴ魚人の村が見えたっスよー」
「マジか。じゃあリグくんに交渉をしてもらおう」
魚人は基本的に、年月の経過した魚の声を聴けるそうだ。
普段食べるような魚の声は聴けないが、リグくんやある程度知能の高い海洋生物とは会話できるらしい。便利ですな。
リグくんはタツノオトシゴ魚人の村へ向かい、十五分足らずで戻ってきた。
俺たちは小型艇から降りて待っている。
「おぉぉ、ホントに人間ですな。こんな何もないところへようこそ!」
「ど、どうも。はじめまして」
タツノオトシゴだよ……。
タツノオトシゴに手足が生えたようなスタイルで、服代わりに海藻を巻き付けている。口はラッパみたいだし、喋るたびに振動してる。
「さぁさぁ人間さん、滅多にない面白い客人です、歓迎の宴といきましょうか!」
「え、あの……」
「センセ、宴だって宴! 楽しそうっス!」
「あのな、楽しんでる場合じゃ」
「さぁさぁ、おいしいお酒もおいしい食事もあります! よろしければあなたの武勇伝をお聞かせください」
「……ま、まぁ少しくらいならいいか。『砂漠王国・激闘編』や『ユグドラシル・奮闘編』もあるし」
「……お前も意志が弱いな」
こうして、タツノオトシゴ魚人の村で宴会が執り行われた。
村の中心に住人が集まり、たくさんの海藻料理や魚の目玉酒が振舞われる。メインはもちろん俺の武勇伝。砂漠王国の戦いを中心に俺は熱く語る!
「そこで俺は召喚した! 戦乙女の遺産の一つである漆黒の水牛を! そして……砂漠王国を滅ぼさんと向かってくる巨大ミミズことウロボロスを対峙した! ウロボロス、あいつだけは許さない! この砂漠王国は俺が守ると叫ぶ俺!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」」」」」」」
サイッコーに気持ちよかった。
この『砂漠王国・激闘編』はカツオ魚人の村で語れなかった物語だ。
余談だが、この物語も海底中に広まることになる。
「やれやれ……」
「センセ、すっごくキラキラしてるっス!」
『きゅうう』
「む、な、なんだお前たちは?」
「わわわっ、囲まれたっス~」
「ねぇねぇ、地上のお話聞かせて!」
「おねえちゃんたち、なんかキラキラしてるね!」
シグルドリーヴァとレギンレイブは、リグくんに寄り掛かりながら聞いているが、子供タツノオトシゴ魚人たちに質問攻めにあっていた。
こうして、タツノオトシゴ魚人の村では、俺のステージが輝いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして翌日……。
タツノオトシゴ魚人の村にまた来ると誓い、俺たちは出発した。
村人総出での見送りなんて初めてだ。どうも村ができて以来、あんなに盛り上がったのは初めてだとか……。
「センセ、すっごい慕われてたっスねぇ~」
「ああ。めっちゃ楽しかった……人前であんなに話をしたのも初めてだったし、だいぶ気持ちよかった」
「……やれやれ、緊張感のない」
今日はレギンレイブも小型艇の中にいる。
シグルドリーヴァにリグくんに乗らないかと聞いたら睨まれた。なんで怒るんだよ……せっかく背中が空いてるのに。
「…………それより、次は海底王国だ。気を抜くな」
「わかってる。まずは「センセ、ストップ!」
急ブレーキで小型艇を止めると、リグくんが止まっていた。
そして、なぜか暗くなる……あれ? まだ朝の時間帯だけど。
「……なるほど、な」
「え? え? ちょ、なんだこれ?」
周囲が真っ暗になった。
リグくんの様子を確認すると……もしかして、震えてる?
「お、おいレギンレイブ」
「……こりゃすごいっスよ、センセ」
「な、なんだよ」
「上、上っすよ、うえ!」
「うえ?」
二重ハッチを開けて外へ出ると……ようやくわかった。
「な……なんだ、これ」
『きゅうぅぅぅ……』
恐怖からか、リグくんが小型艇の傍に来た。
原因は、俺たちの頭上。
「で、でっか……な、なんだ、これ」
とてつもなく巨大な『なにか』が、ゆっくりと通過していった。
デカい、デカすぎる。日の光を完全に遮り、ジャンボジェットクラスの何かが、俺たちのすぐ真上を通過していく。
「……たぶんこれ、クジラっスね」
「く、くじら? 鯨って、クジラか!?」
「ええ。スキャンした限りでは、身体的特徴から間違いないと思うっスけど……」
俺たちに気付いていないようで、真上を通過していく。
「うーん、ちょっとヤバいっスね、センセ」
「え……?」
「いや、あのクジラが向かった先って、ネプチューンっスよ?」
「…………」
どうやら、海底王国でも何かが起きそうな予感がした。
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