第237話、いざ海底王国ネプチューンへ

 オルカさんの家に泊まった翌日。

 朝食は生魚を豪快に齧るという、海底に住むワイルドな魚人らしい物だった。当然だが俺たちには不可能なので、持っていたパンやワインを小型艇の中で食べる。

 海底王国ネプチューンに行けば、普通の食事も取れるらしいけど……ぶっちゃけあまり期待していない。

 そして、ネプチューンまでの案内人をオルカさんは貸してくれた。

 

「ほれ、こいつに付いていきな。そうすりゃネプチューンまで案内してくれるぜ」

「これは……鯱、ですか?」

「ああ。人間で言う……ええと、番犬みてぇなもんだ」


 オルカさんの家の前に、三メートルほどのシャチがスイスイ泳いでこっちに来た。

 海のギャングと言われてるシャチだが、こうしてみると可愛いな。


「かわいいッスねぇ~♪ 名前はなんて言うんすか?」

「リグだ。おいリグ、セージたちをネプチューンまで案内してやりな」

『きゅぃぃ』


 シャチのリグは可愛い声で鳴いた。

 行きはいいが、帰りは大丈夫なのかな。


「あの、帰りは大丈夫なんですか? リグくん」

「問題ねぇ。シャチの群れはよくネプチューンまで行き来してるし、そいつらに混ざれば危険もねぇ。それにこの『バトルシャチ』は戦いに特化した戦闘用のシャチだ。そうそう遅れはとらねぇ」

「バトルシャチ……」

『きゅい!』


 リグくんは、満足そうにきゅいっと鳴いた。

 さて、これで準備も整った。海底王国に向けて出発できるな。

 俺はオルカさんと奥さんに頭を下げる。


「いろいろありがとうございます。リグくんをお借りします」

「ああ。地上の面白い話を聞いた礼だ。むしろこっちが礼を言いたいぜ」

「ふふ、また来てね」

「はいッス~」

「…………世話になった」


 レギンレイブとシグルドリーヴァも頭を下げ、俺たちは小型艇に乗り込み、オルカさんの家を後にした。

 シャチの村を出ると、小型艇の前をリグくんはゆっくり泳ぐ。


「よし、頼むぞリグくん」

『きゅぃぃぃっ!』


 リグくんは、頼もしい鳴き声をしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シャチのリグくんは、とても気持ちよさそうに泳いでいた。

 ヒマを持てあましたレギンレイブは、リグくんの背中に乗っていた。


「いやっふーっ! 気持ちいいッスーっ!」

「ったく、レギンレイブの奴め……」

「……お前も乗りたいのか?」

「…………」


 シグルドリーヴァは俺の問いを無視し、小型艇の中で瞑想している。

 俺はリグくんの背を追うだけだから楽でいい。運転にも慣れたし、このまま最初の経由地まで進もう。

 ネプチューンまでは2つの村を経由して進まないといけない。

 オルカさんに聞いた話だと、カツオ魚人の村とタツノオトシゴ魚人の村らしいけど……名前からしてなんだか面白そうだ。

 退屈なのか、シグルドリーヴァが言う。


「センセイ、目的はネプチューンの宝物庫ということは覚えているな?」

「ああ。宝物庫奥の開かずの間だろ、そこに遺産があるとか」

「どうやって開ける? 作戦は?」

「うーん……スクアーロってのがどんな奴かわからんし、とりあえず正攻法でいく」

「正攻法?」

「ああ。頭下げて頼むんだよ」

「……上手くいくのか?」

「さぁな。でも、頼まないと始まらない」


 スクアーロが何が好きかとかわかれば対策も出来る。でも、やっぱりまずは正攻法でお願いしよう。

 開かずの間を開けたいので、宝物庫に入れてください……いけるかな?


「センセ、カツオ魚人の村が見えたッスよーっ!」

「ん、おお」


 レギンレイブは、リグくんの背中から小型艇に通信を入れてきた。

 少し先に、シャチの村と似た岩のドームがたくさんあった。どうやらあそこがカツオ魚人の村らしい。

 さて、どうするか……と、リグくんが身体を揺らす。


「わわ、降りろってですか?」

『きゅぃぃぃっ! きゅぃぃぃっ!』

「ええと、村と交渉してくると?」

『きゅぃぃぃっ!』

「なるほど、センセ、リグくんはカツオ魚人の村でウチらのこと話してくるそうッスよ」

「そうか。って、よくわかるなお前……」


 リグくんはカツオ魚人の村にスイスイ~っと泳ぎ、十五分ほどで戻って来た。

 リグくんと一緒に来たのは、顔が魚に人間の身体を持ったカツオ魚人だ。絶対に言わないが、ちょっとだけキモい。


「おうおう、まさか地上の人間がこんな海底に来るとはなぁ。こいつから話は聞いた。まぁゆっくりしてけ」

「あ、ありがとうございます」


 いいカツオ魚人でした。

 村の中に案内してもらい、空き家の岩ドームを貸してもらった。リグくんと俺ら三人でパンパンだ。

 そういえば、リグくんの食事はどうすればいいんだ?


「リグくん、きみの食事はどうすればいい?」

『きゅぃぃぃっ!』

「そうか……」


 わからん。

 たぶん魚を食べるんだろうけど……。


「おーい、飯はどうする? 人間も魚は食うんだろ?」

「あ、俺たちは大丈夫です。その、この子の食事を」

「おお、バトルシャチな。自分で狩りはできると思うが、せっかくだしエサをやるか。ちょっと待ってろ」


 カツオ魚人さんはデカい魚をいくつか持ってくると、そのままリグくんに差し出した。


「ほれ、いっぱい喰え」

『きゅぃぃぃっ!』

「おお、食べてる」


 リグくんは魚をムシャムシャ食べ、満足したら寝てしまった。

 狭いが、このままこの部屋で寝させてやるか。


「とりあえず、俺たちも休むか」

「うむ。明日には出発だ。気を抜くなよ、センセイ」

「センセ、明日もリグくんに乗っていいッスか?」

「……待て、私も乗ろう。海底で戦闘があった際の騎乗動物として役に立ちそうだ」


 シグルドリーヴァ、乗りたいのかな……。

 とりあえず、食事を済ませて寝るか。

 俺は小型艇の中で食事を済ませ、思い切ってリグくんに寄りかかってみた。すると、けっこう柔らかくて気持ち良かった。


「おお、いいなこれ」

「センセ、乗り心地も最高ッスよ!」

「へぇ……じゃあ、今日はリグくんと寝るよ」

「そうか。見張りは任せろ」


 シグルドリーヴァは家の壁に寄りかかり、レギンレイブはなぜか俺の隣に寝そべった。

 寝る前に、俺はシグルドリーヴァに言う。


「あ、そうだ。リグくんを起こして夜に乗ってみようとか考えるなよ……おやすみ」

「っ!?」


 さて、明日はタツノオトシゴ魚人の集落まで進むか。

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