第235話、シャチの魚人たち

 翌朝。

 簡単な朝食を済ませて小型艇の外へ。外はすでに明るく、太陽の光が差し込みキラキラと輝いていた。

 太陽の光が届くということは、けっこう海面と近いのかもしれない。それに、この海水の透明度のせいかでもある。プランクトンが少ないと透明だって言うけど……。


「さぁ、さっそく調査をするぞ。何か面白いものがあればいいのだが」

「ちょ、だから待てっての!」

「シグルド姉、昨日からずっとウズウズしてたっスよ」


 小型艇を亜空間に収納し、海底を練り歩くシグルドリーヴァ。

 水着姿は背後も美しい。お尻がぷりぷりして、歩くたびに胸も揺れている。グラビアデビューしたら即表紙を飾りそうな美貌とスタイルだ。


「センセ、シグルド姉に見とれてるっスかぁ~?」

「……いや、別に」

「センセ、ウチも見て下さいよぉ~」

「はいはい、かわいいかわいい」

「むぅぅ……なんか適当っスねぇ」


 そんなことない。レギンレイブも相当に可愛い。

 というか、戦乙女型は総じて美少女揃いだ。こんな七姉妹が日本にいたらテレビ取材とか来るぞ。


「おい、さっさと来い。入口を見つけたぞ」


 シグルドリーヴァは、神殿の入口らしき石扉の前に立っている。

 俺とレギンレイブは、そのあとを追いかけようと歩くのではなく泳いでいった。


 とにかく、さっさと調査して海底王国ネプチューンに行かないとな!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 海底神殿。

 確かに、外見は大昔の神殿っぽい。パルテノン的な。

 石扉はすっかりひび割れ、シグルドリーヴァが軽く叩くとガラガラ崩れ去った。もう何十何百年と人の手に触れていないのは間違いない。

 シグルドリーヴァは、砕けた石扉を無視して中へ踏み込む。

 俺は、小型艇の中にあった懐中電灯を点け、シグルドリーヴァの後ろに続いた。


「お、おい。モンスターの気配とかは?」

「うーん、今のところはないっぽいっスねぇ……金属反応も電磁反応もないし、アンドロイド関係の施設じゃなさそうっス。たぶん、純粋な信仰心によって造られた建造物じゃないっスか?」

「それは調べればわかる。ふふ、なにが出てくるのやら」

「…………」


 シグルドリーヴァ、やっぱり楽しんでる。

 俺はレギンレイブに近づき耳打ちした。


「おい、シグルドリーヴァって普段からこんな感じなのか?」

「いやぁ~、ウチの知るシグルド姉は、自分に厳しく妹には優しいお姉ちゃんだったっスけど、なーんか変わったっスねぇ。見たことのない物に興味津々とか……んん?」

「どうした?」

「いや、ちょっぴり引っかかることが……」


 レギンレイブは首を傾げるが、それ以上は何も言わなかった。

 俺も懐中電灯、いや海中電灯で神殿内を照らす。


「おぉ……って、ボロボロの藻だらけだな」

「仕方ないだろう。人の手に触れていなかったんだ」

「うーん……確か、海には魚人がいるはずっスよねぇ? 地上じゃけっこう有名な海底神殿なのに、なんで魚人さんは調べてないんっスか?」

「……確かに」


 魚人か。

 浜辺にいたらしいけど、シグルドリーヴァが海に入っちゃうから話を聞けず仕舞いだったんだよな。

 圧倒的に情報が少ない中での海底神殿調査。

 神殿内を進むが、面白い物はない。錆びてボロボロの装飾品や、ふやけた絵画、巨大な石の石像とかはあったけど、どれも値打ち物っぽくない。というか、沈没船で見つけた白金貨の山のせいで、どんなお宝も霞んで見える。


「どうやらハズレだな……シグルドリーヴァ、諦めよう」

「…………むぅ」

「あはは、シグルド姉、残念でしたっス……って、なんでウチを睨むっスか!?」

「別に。おいお前、ちょっと来い……猛烈に抱きしめてやりたい」

「え、遠慮するっス……せ、センセをどうぞ? おっぱいで押しつぶせば喜ぶっスよ?」

「おいこらふざけんな、俺を差し出すなよ」


 俺の背中に隠れたレギンレイブを引き剥がそうとするが、なかなか強い力で引き剥がせない。というか離れろ!


「ったく……とにかく、次の目的地は海底王国ネプチューンだ」

「ほいほーい」

「……チッ、つまらん」


 海底神殿探査、何もなくて本当によかった。

 とにかく、こんな不気味神殿からさっさと離れよう。


「あり……? センセ、誰か来たっぽいっス」

「え?」

「うーん、けっこう早い……これ、モンスターじゃないっスね。たぶん魚人っス!」


 よくわからんが、外へ出た方がよさそうだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 えー……やばいです。


「お前ら……人間か!? なんで人間がこんなところにいる!!」

「え、あ、いや……その、神殿を調査してまして」


 槍を持った魚人十人ほどに囲まれていました。

 魚人はみんな黒と白の肌を持ち、背びれが生えている。顔つきからしてシャチの魚人だろうか。というか魚人ってガチな魚類と人間を合わせたような体系なのな。

 そんなシャチ魚人は、俺たちを敵として見ているようだ。


「ここは我ら魚人にとって神聖な場所と知ってのことか!!」

「知りませんでした、申し訳ございません!!」

「ここは海神様の神殿。人間が踏み込んでいい場所ではない!!」

「ごもっともです!!」


 頭を下げる俺。

 いや知らなかった。ほんとです。坊さんがキリスト教会に数珠ジャラジャラ言わせながらミサの最中に托鉢求めるような行為だ。

 とにかく、頭を下げるしかない。


「そもそも、なぜ人間が深海で呼吸できる? それに水圧にも耐えているとは……」


 お、話題が切り替わった。これはチャンス。


「私はアンドロイドだ。人間ではない」

「何……?」

「あ、ウチもっスよ~」

「ちょ、待て待て、余計なこと言うな!」

「あんど、ろいど……? 人間ではないのか?」

「いや、俺は純ナマの人間です。とある道具を使ってこうして海でも呼吸できまして……その、海中王国に行こうと思いまして」

「なんだと……?」


 う、怖い。

 というか、シャチって海のギャングって呼ばれてるんだよな。このシャチ魚人のリーダー格っぽい人も、めっちゃ俺を睨んでいるし。


「お前たち、神殿荒らしではないのか?」

「へ? も、もちろんです! 見て下さいよ、手ぶらで出てきたんですよ? ここには調査のために入っただけですし、神殿のことも何も知りません!」

「…………」


 シャチ魚人たちは、俺たちにジャキッと槍を構える。

 俺は両手を上げ、レギンレイブはキャーキャー言いながら俺の真似をして、シグルドリーヴァは両腕を組んだままフンと唸る。

 すると、シャチ魚人たちは槍を降ろした。


「……いいだろう。信用してやる」

「よ、よかった……」

「それと、海底王国ネプチューンに行くと言ったな? 目的はなんだ?」

「え」


 ええと……『ネプチューンにある宝物庫の奥にある開かずの扉を開けることです』なんて言ったらどうなるだろうか……とりあえずそれっぽく言っておくか。


「ええと、人間では踏み込むことのできない海の大国に興味がありまして。その、観光に……なんて」

「…………」


 こ、怖い。そのギョロついた目で見ないでほしい。

 すると、シャチ魚人たちはゲラゲラ笑った。


「ギュギャッギャッギャッギャ!! 面白い!! いいだろう、我らの村に案内してやる。そこで休んでから海底王国ネプチューンに行くがいい。必要なら案内もしてやろう」

「はい?」

「ふ、人間の客人を招くのは初めてだ。歓迎しよう」

「え? その……いいんですか?」

「構わん。遺跡荒らしでないのなら問題ない」


 なにこれ、めっちゃいい人じゃん!!

 というわけで、シャチ魚人の村に行くことになった。

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