第234話、海底神殿へ
ロキ博士の小型艇は、三人乗るとめっちゃ狭かった。
畳二畳ほどのスペースに計器が付いた船内。コックピットは車のような運転席があり、後ろは二人が座れるくらいのスペースしかない。
小型艇の形も細長いし、強度にも不安があった。
「センセイ、お前はいちいち心配しすぎだ」
「仕方ないだろ、海底だぞ海底」
「センセ、そっち行っていい?」
「いや、せまいから……って、こら」
レギンレイブは、運転席に座る俺の隣に身体をねじ込んできた。
おいおい、小ぶりな塊が俺の身体に密着してるんですけど……やわっこい。
「センセ、興奮した?」
「…………出発!!」
俺はごまかすようにアクセルペダルを踏む。
これ、オートマの車みたいな操縦方法だ。アクセルとブレーキとハンドルの簡易操作、ゲームやってるみたいで面白いかも。
「目的地は海底神殿だ。マップにマークをしてあるから、そこを目指せ」
「はいはい。ったく、海底神殿なんてどうでもいいのに……」
「何か言ったか?」
「い、いえ……」
そういえば、魚人に話を聞いていない。
浜辺を探そうと思ったのに、シグルドリーヴァがさっさと海に入っちゃったからなぁ……なんか、こいつにペース握られてるよ。
とはいえ、海底はかなり美しい。
熱帯魚みたいな綺麗な魚が群れで泳ぎ、太陽の光がキラキラと差し込んで淡いブルーに輝いている。
「うーん、レジャーで来たかったなぁ……」
「じゃあセンセ、今度みんなと一緒に行くっスよ。きっと楽しいっス!」
「……そうだな」
願わくば、ブリュンヒルデたちと生徒たちを連れて、臨海学校なんていいかもしれない。
この戦いが終わったら、仲間と一緒に海水浴を……なんて。
「海底神殿……どんな宝があるのだろうな。金貨や白金貨も面白いが、どうせなら武器などあればもっと面白い」
「…………お気楽だなぁ」
シグルドリーヴァ、こいつもよくわからないことがある。
ジークルーネや他の姉妹たちは、シグルドリーヴァはブリュンヒルデを庇ってヴァルキリーハーツが砕け散ったって言ってたのに、こうして目の前にいるんだもんな。
まぁいい。今はとにかく、ロキ博士の試練とやらを達成しよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海底を小型艇で進むこと一時間。
歩くより格段に速いのはいいね。でも……腹が減ってきた。
「シグルドリーヴァ、何か食べものくれ」
「わかった」
シグルドリーヴァの亜空間に、食料と酒の瓶がいくつも入っている。
このヘルメットを装備したままでも食事ができるらしく、小型艇を自動操縦にして出してもらったパンとチーズを食べた。
「うーん、飲酒運転になるのかな……」
そんなことを考えながらワインを飲む。ワインもいいが麦茶が飲みたい……。
「あれ? センセ、生体反応があるっスよ?」
「魚だろ?」
「いや、これは……イカっスね」
「イカ?」
すると、小型艇の動きが止まった。
「な、なんだ!?」
「あちゃー……どうやらイカに掴まったみたいっス」
「ま、マジか!? おいおいやっべぇぞ!? どうする!!」
「落ち着け。たかがイカ程度に、お父様の作った小型艇が潰せるわけがない」
ギシギシミシミシと小型艇が軋む音がする。
おいおいマジで怖いんですけど。ほんとに大丈夫なのかよ!?
「さて、今度は私が行こう」
「お、おい、大丈夫なのか?」
「愚問だな。ハッチを開けろ」
小型艇のハッチ開閉ボタンを押すが、反応がない。
どうやら、イカの足はハッチ部分に絡みついてるようだ。
「あかない」
「…………」
「ちょ、シグルド姉!? 待った待った、小型艇壊れちゃう!!」
シグルドリーヴァは、小型艇の窓を叩き割ろうとしたが、レギンレイブに止められる。
間違いない、こいつはやっぱりポンコツだ。というか、カッコつけて『愚問』とか言ったのに……やべっ、ちょっと笑える。
「死にたいようだな」
「ごめんなさい」
やばい、シグルドリーヴァにバレて睨まれた。
さて、どうするか。多分だけど、このイカはじゃれついてるだけだと思う。飽きたら触手を離してくれると俺は思った。
それから15分後。
「お、離れたっスね」
「やっぱりじゃれついてるだけみたいだな……よかった」
「…………ふん」
あらら、シグルドリーヴァが拗ねちゃったよ。
うーん、なんかシグルドリーヴァが可愛く見えてきた。
「……不快な視線を感じるな」
「そ、そんなことない。さぁて、海底神殿に向けて出発だ!!」
再び小型艇を発進させ、海底神殿を目指した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数時間後……辺りが暗くなってきた。
「そ、そう言えば……夜のこと考えてなかった」
そう、泊まる場所のことを考えていなかった。
「そんなの、ここで寝ればいいだろう」
「いやいや、海底じゃ寝れないって」
「センセ、小型艇の中で寝ればいいじゃないっスか?」
「えー……こんな狭いところでか? この座席、リクライニングも付いてないし、シートは硬いし……」
「文句を言うな。それなら、海底神殿まで進んで、その中で寝ればいいだろう」
「いやいや、俺が言ってるのは海の中じゃ寝れないってこと!」
「ふん、陸なんてないぞ。諦めろ」
「…………」
一刀両断でした。
仕方ない、この硬い椅子で寝るしかないのか。
「待て、あと数キロで海底神殿に到着する。そこまで向かってからにしろ」
「探索は明日からってことっスね」
「……わかった」
それから1時間後、海底神殿に到着した。
太陽も落ちたのか海は暗い。岩陰に小型艇を止め、海底神殿を観察した。
「でかいな……」
大昔の神殿、と言えばいいのだろうか。
沈没船と同じく藻が張っており、かなり昔の建物だということがわかる。
そして、大型の魚もいっぱい泳いでいた。どうやら魚たちの住処になってるらしい……ふぁぁ。
「ん~……眠いな」
「センセ、ウチらで見張りしてるから寝ていいっスよ」
「ああ。ここは任せろ」
と、ダブル乙女から嬉しい提案。遠慮なく寝させてもらう。
「あ、そうそう。レギンレイブに見張りさせて、一人で海底神殿に行こうなんて考えるなよ……おやすみ」
「っ!?」
さて、寝るか……おやすみ。
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