第231話、海の町で情報収取

 タイムリミットまであと二十六日。フォーヴ王国最北の町に到着した。

 潮風とちょっと生臭い魚の香りがするとても活気のある町で、町の入口からでも海が見え、船が何隻もプカプカ浮いているのがよく見えた。

 それだけじゃない。驚くべきはここの住人だ。

 町に入ると、この町の住人と一攫千金狙いの冒険者たちとよくすれ違った。


「…………」

「センセ、なんかエロい目をしてるっス……」

「なるほどな。人間のオスは欲望に忠実だとデータにあるが」

「う、うるさいな。データはデータ、俺には関係ない」

「でもでもセンセ、下半身に血液が」

「それ以上言うな!!」


 だって仕方ないじゃないか……ここの住人の基本スタイルが水着なんだからよ。

 人間はもちろん、女性獣人のワイルドなボディも惹かれる。水着なんて見るの久しぶりだったからつい……。


「と、とにかく。宿を取って情報収取しよう」

「ああ。沈没船と神殿のな」

「……あと、海底の王国もな」

「シグルド姉、海に入るなら水着着ましょうよぉ~」

「いらん。このままでいい」


 町に入ると、潮風で腐食するのを防ぐためか、やたら白い建物が多い。

 ヤシの木みたいな植物もいっぱい生えてるし、町の景観もどこかイタリアっぽい。ここは観光地としても超一級のスポットだ。

 レギンレイブやシグルドリーヴァと行くのも悪くないけど、俺としてはやっぱりブリュンヒルデたちと行ってみたかった。


 町の中央にはおなじみの宿や商店が並び、水着の少年少女や住人、獣人のオネーサンたちがたくさんいる。

 うーん、素晴らしい光景だ。これは脳内保存しなくては。


「というか、若い冒険者たちが多いな」

「一攫千金狙ってるんでしょ。やっぱ若いうちからお金使って遊びたいですもんね~」

「まさか、全員が沈没船狙いなのか!? おいセンセイ、早く海に行くぞ!!」

「っぐぇぇっ!? じょ、おぢづげ!! ぐるじぃ……」


 シグルドリーヴァに胸倉をつかまれる俺。こいつ、マジでポンコツ戦乙女なんじゃないかと最近強く思う。

 すると、レギンレイブが言う。


「安心するっスよシグルド姉。沈没船は海底の奥深くに沈んでて、人間の潜水能力じゃどう足掻いても辿り着けやしないっスよ」

「そ、そうか……」

「っぶぁ!?」


 ようやく解放された俺。

 というか個人的にはマジで沈没船なんてどうでもいい。言うと睨まれるから言わないけど……。

 

 とにかく、宿を取って情報収取だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 地中海風の宿を取り、荷物を置いてさっそく情報収取へ。

 向かう場所はもちろん、冒険者ギルドだ。


「むふふ、このレギンちゃんのお耳にお任せを!」

「…………くだらん」

「じゃあ俺は適当に話を聞いてみるよ」


 シグルドリーヴァは壁に寄り掛かって腕組みし、レギンレイブは耳に手を当ててフンフン頷き、俺はギルドに併設されてる酒場で飲んでいる集団に声をかけることにした。

 ……って、シグルドリーヴァもなにかしろよ。


「まぁいい。それより……」


 とりあえず、一番近くにいる中年冒険者二人に話しかける。


「こんにちは。ちょっといいですかね」

「ん、なんだ兄ちゃん」

「いや、ちょっと話を聞かせてくれ」


 そう言いながら銀貨数枚をテーブルに置く。それだけで中年二人は上機嫌になり、せっかくなので俺もエールとつまみのチーズを注文した。

 外は暑いし、冷えたエールはかなりうまい。


「で、なにが聞きたいんだ?」

「ああ。沈没船の話と海底神殿の話を」


 エールが運ばれ、中年二人にもお代わりのエールが届き、乾杯する。

 冷えたエールを三人で一気に煽り、チーズを齧った。


「沈没船ってぇと海の底に寝てるって話のやつだろ?」

「確か、どこぞの貴族が資金隠しで船にお宝を積んで、そのままクラーケンに沈められたとかいう噂の」

「……クラーケン?」

「知らねえのか? 魚人たちが手懐けてるモンスターだよ。海で悪さをする人間たちを海底に引きずりこんで殺すっていう物騒な奴さ」

「……そんな生物が。それと、沈没船はマジな話なのか?」

「ああ。冒険者どもは届きもしねぇ海の底を目指して今日も潜ってるぜ。まぁ、白金貨一万枚って聞けばどんなアホでも一度は潜るからな」

「い、いちまん!? マジなのか?」

「みたいだな。でもまぁ、オレらくらいになると現実見て稼ぐようになるさ。海に潜るよりモンスター狩って日銭を稼ぐのがいい。こうして美味い酒飲んで、明日も頑張ろうって気になるしな」

「違いねぇ!!」


 俺は再びお代わりを頼み、ついでに二人のエールもお代わりを注文した。


「あと、海底神殿ってのは?」

「ああー、沈没船よりも有名だぜ。ここから沖に船出せばすぐに見つかる。ちょいと素潜り得意な奴なら入口まではたどり着けるが、そこから先には進めねぇ。なにせ海の底だし息が持たないからな」

「なるほど。あることはあるのか」

「ああ。そこにもお宝が眠ってるらしいが、誰も入ったことないからわからねぇのさ。興味あるなら行ってみたらどうだ?」

「そうだな、考えとく。それと最後に、海底王国ネプチューンのことだけど」


 お代わりが届き、再度乾杯。

 チーズだけではなく、海鮮盛り合わせや焼きカニも頼んだ。


「ネプチューンねぇ……魚人はこの辺にけっこういるけど、海底王国には誰もいけないぜ」

「ああ。海の底で呼吸できるやつなんかいないしな。魚人たちも『人間を招待できないのが残念』とか言ってたし」

「場所は?」

「さぁな。海の底ってことはわかるが……」

「なんなら、浜辺に魚人たちがいるから聞いてみたらどうだ? どうせ行けないって思ってるから、場所くらいなら教えてくれるかもな」

「わかった。どうもありがとう」


 俺はエールを飲み干し、立ち上がる。

 ついでに、金貨を一枚テーブルに置いた。


「情報料だ。これでうまいモンたくさん食べてくれ」


 冒険者二人とハイタッチし、俺はシグルドリーヴァの元へ戻った。


 ◇◇◇◇◇◇


 シグルドリーヴァの元に戻ると、ニヤニヤしたレギンレイブも一緒に戻ってきた。

 情報を共有するため、俺は先程の冒険者たちから得た情報を伝える。


「……と、こんな感じだ。レギンレイブの方はどうだ?」

「ん~……センセと同じかな。でも、興味深い情報をゲットしたっスよ!」

「なんだよ……なんかいい予感がしないぞ」

「うっひひ、ねぇねぇシグルド姉ぇ~」

「……なんだ、一体」

「あのねあのね……」


 レギンレイブは、にししと笑って言った。


「ここのビーチ、水着を着ないと入れないそうっスよ?」


 なにが嬉しいのか、レギンレイブは俺の腕にじゃれついた。

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