第230話、海辺の町へ出発

翌日。


「うぅ~……あたま、いてぇ」

「ほう、これが二日酔いという症状か」

「センセ、修理しまっスかぁ~?」


 俺は、ベッドの上で二日酔いに苦しんでいた。

 ウィスキーロックなんて慣れないの飲んだせいか、久しぶりに二日酔いをしてしまった。

 シグルドリーヴァとレギンレイブが興味深そうに見ているが、なんとか立ち上がり着替える。


「うし、朝飯食べたら出発だ……うぅ、酔い覚ましあるかな」


 朝食はお粥にしてもらい、酔い覚ましとかいうキツいミントジュースをもらった。

 味は最悪だったが仕方ない。一気飲みして宿を出発し、町の外まで散歩がてら徒歩で進む。

 居住車はシグルドリーヴァの亜空間に入ってるし、街中で出すわけにはいかない。外で頃合いを見計らって出す予定だ。

 三人で外を歩くと、けっこうな冒険者たちとすれ違う。


「う~ん、ギルドに行くみたいだな」

「ほほう。朝一で貼りだされる依頼がお目当てみたいっスね」

「お前、詳しいな」

「うっひひ。昨日のうちに情報収集してましたっス!」

「……どうでもいい。さっさと行くぞお前ら」


 シグルドリーヴァは冒険者を無視してスタスタ歩く。

 すると、レギンレイブが耳打ちしてきた。


「シグルド姉、早く沈没船やら神殿やら見たくてしょうがないっスね」

「かもな。意外と冒険者向きかも」

「お前ら、やかましいぞ」


 やべ、聞こえてた。

 ギロリと睨まれたので、さっさと町の外へ向かって歩き出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 町の外に出て少しだけ歩き、人通りがなくなったのを確認した。


「よし、シグルドリーヴァ、頼む」

「ああ」


 シグルドリーヴァは小さなログハウス風の居住車を出し、俺もヴィングスコルニルを召喚した。

 銀の馬ヴィングスコルニルに二人は興味を示す。


「おお、これも遺産っスね」

「なかなかの面構えだな」

「面構えはともかく、最初に手に入れた遺産で、ブリュンヒルデの愛馬でもある」

「ほう、私は騎乗できないのか?」

「できないことはないけど、こいつには居住車を引っ張ってもらうからな。悪いけどまた今度」

「センセ、センセ、ウチが使える遺産はないの~?」

「今のところはない。海底王国の遺産に期待しておけ」


 俺の腕にじゃれるレギンレイブと、ヴィングスコルニルを興味深げに凝視するシグルドリーヴァ。なんというか、この二人との旅もうまくいきそうな気がする。

 俺は居住車にヴィングスコルニルを接続し、二人を連れて室内に入る。


「うん、やっぱり狭いな」


 広さは六畳ほどで、荷物に一畳使ってるから残り五畳しかない。

 窓は二つあり、前方には御者用の小さな入口があった。

 ヴィングスコルニルに命令し、街道をゆっくり走ってもらう。


「うぃぃ~、センセ、ここ狭いよぉ~」

「我慢しろよ。これからしばらく世話になる宿だぞ」

「えぇ~……まぁウチらは寝ないから別にいいけどぉ、センセが大変かもぉ」

「俺はこのくらいのが落ち着くけどな。元の世界で住んでた安アパートもこんな感じだったし」


 一応、ちゃぶ台と座布団も三枚ほど買った。おかげで室内はかなり狭い。

 エンタープライズ号が恋しいが、この居住車も悪くないと感じている俺でした。


「さて、海沿いの町まで数日……」


 タイムリミットはあと二十九日。やることやって海底を目指そう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 二日ほど順調に走り、目的地まであと一日ほどの距離となった。

 タイムリミットは残り二十七日。焦る気持ちはあるが無茶をして進めなくなるのは愚かな行為。焦らずにじっくり行く。

 なので、日が暮れる少し前に野営の準備をする。

 食べるのは俺だけなので、手早く肉野菜を炒め、パンを軽く炙ってそこに挟み、ボトルワインとチーズを出して簡単に済ませる。

 あとは寝るだけだが、少し気になった。


「なぁ、お前たちってメンテナンスはしなくていいのか?」


 いつもジークルーネがやっていた。

 レギンレイブとシグルドリーヴァは答えてくれる。


「メンテはやったばかりだし必要ないっスよ。普段は身体の中を泳いでるナノちゃんがお掃除してくれるっス」

「な、ナノちゃん? ああ、ナノマシンな」

「code06がいればそんな心配はないのだがな。まぁ数か月程度なら無調整で問題ない」

「そうそう、あの子は几帳面だから数日おきにやってくれるんっスよねぇ。よーくできた妹ちゃんっス」

「ジークルーネ……怪我は大丈夫だろうか」


 むこうの近況が知りたい。

 会談はどうなったのか、ブリュンヒルデはどうなったのか、三日月たちやキキョウはどうなったのか……情報がなにもわからない。気になってしょうがない。


「気になることもあるだろうが、お前はやるべきことをやれ」

「……わかってるよ」

「なら、さっさと寝ろ。見張りはしてやる」

「ああ。レギンレイブに見張りをさせて、ヴィングスコルニルに乗ろうなんて考えるなよ」

「っ!?」


 どうやら図星のようだった……シグルドリーヴァってポンコツなのか?

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