第228話、好奇心旺盛なシグルドリーヴァ

 転移したのは、森のような場所だった。

 森の中というよりは入口に近く、少し歩けば街道に出た。

 そして、そこが町の近くにある人気のない森ということがわかった。


「あれ、町だよな」

「そうみたいっスね。ロキ博士、気が利くじゃないっすか」

「行くぞ」

「ちょ、おい」


 一キロもない先には町があり、そこがフォーヴ王国最北の町らしい。

 シグルドリーヴァはスタスタ歩き、俺とレギンレイブはその後を追う。

 

「シグルド姉、歩くの速いっスよぉ~」

「うるさい。お前も戦乙女型ならこの程度問題ないだろう」

「いやいや、ウチらはセンセの護衛っすよ? 進路を決めるのはセンセだし、先に行くのはロキ博士の言いつけと違うんじゃないっすかねぇ?」

「…………む」


 シグルドリーヴァはレギンレイブを見て、次に俺を見る。

 俺としては『俺についてきな、お嬢ちゃんたち』っていう柄でもないしどうでもいい。行先はどうせ同じだしな。


「ふん、センセイ、先を歩け」

「あ、ああ」

「じゃあウチはセンセのとなりっ!」

「お、おいレギンレイブ、くっつくなよ」

「えっへへ~」


 レギンレイブは俺の腕にじゃれつき、シグルドリーヴァはその後ろを歩く。

 可愛いっちゃ可愛いんだけど……なんか慣れないなぁ。

 面識のない戦乙女型二人と海の底目指して冒険か……ほんと、わけわからん。


「とりあえず、町に付いたら宿を取って補給しなきゃな」

「補給……エネルギーか?」

「いや、エネルギーというか、旅に必要な道具だよ」

「ふむ……何が必要なんだ?」

「ええと、野営するのに必要なテントとか、調理道具とか、ナイフとか……」

「ほう、なるほどな」


 意外とシグルドリーヴァの食いつきがいい。野営に興味あるのだろうか? 

 レギンレイブは相変わらずじゃれついてるし……あ、そうだ。


「なぁ、二人ってどんな戦乙女型なんだ?」

「ほっほぅ、ウチらに興味津々ですな」

「いやそうじゃなくて……ああもう、それでいいよ」


 レギンレイブは面倒くさいお調子者、と……。


「ふっふん。ウチは『空中戦闘型』でっす! 空を駆ける戦乙女code05レギンレイブとはウチのこと! ウチの相棒『乙女天翼フリーアイカロス』は空の化身! どうですセンセ、かっこいい?」

「かっこいいかっこいい。それでシグルドリーヴァは?」

「…………センセ、冷たい」

 

 シグルドリーヴァはちゃんと答えてくれた。


「私は『試作弐号型』だ」

「弐号?」

「ああ。なぜ弐号なのか意味不明だったがようやくわかった。Code00のデータを基礎に開発された試作機の弐番型だ」


 なるほど……ワルキューレさんの次に開発されたアンドロイドだからな。

 シグルドリーヴァをベースにオルトリンデとヴァルトラウテが造られ、ブリュンヒルデとレギンレイブ、ジークルーネとアルヴィートが造られたってところか。


「他の連中みたいに特化した能力はないが、総合的なスペックは私が上だ。安心しろ」

「そ、そうなのか。頼りにしてるよ」

「ああ」

「ウチは? センセ、ウチは?」

「はいはい、お前も頼りにしてるよ。レギンレイブ」

「えっへへ~♪」


 レギンレイブは、再び俺の腕にじゃれついた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


フォーヴ王国最北の町に到着した俺たちは、検問を抜けて町の中へ。

 獣人の国にまた来ることになるとは思わなかったが、少しだけ気になった。


「……あれ? 奴隷がいない」


 そういえば三日月が、フォーヴ王国で奴隷制度が撤廃されたって言ってたな。

 以前は人間の奴隷が当たり前のように地べたを這っていたのに、それがない。それどころか、獣人と人間がなかよくやっているように見える。

 アルアサド王……少しは人間のことを考えるようになったのかな。


「おい、宿を取るのだろう」

「ん、ああ。こういうのは町の中心にあるのが定石だ。行くぞ」

「おぉ~、さっすがセンセ!」


 町の中心まで歩くと、けっこうな賑わいだった。

 住人は獣人が多い。でも人間もいる。

 日差しが強いせいか薄着が多く、サンダル履きの人もかなりいる。それと、冒険者がけっこう目立つ。


「なんか冒険者が多いな……」

「ぼうけんしゃ……ふむふむ、お宝狙って一攫千金、モンスター倒して名声ゲットの冒険者ですな」

「お前な、その知識はどこから来たんだよ」

「こう見えて耳はいいのです! なになに……ほほう、どうやら冒険者のみなさん、海底にある神殿を目指して冒険してるようですよ!」

「神殿?」


 レギンレイブは耳に手を当て、どこぞの会話を聞いているようだった。


「なになに、海底神殿……それと沈没船、海底神殿には伝説の武器、沈没船には白金貨がぎっしり詰まった宝箱があるとかないとか。この町で準備を整えて、北にある海の町で冒険するってのがこの辺の冒険者たちの目的みたいっすね」

「へぇ……クトネやアルシェなら喜ぶな。俺はごめんだけど」


 海底なんてぶっちゃけ行きたくないのが本音だ。

 だって人間は水の中じゃ無力だ。呼吸できないし、泳げないし、ダルくなるし。

 すると、黙っていたシグルドリーヴァが言った。


「神殿、沈没船か。面白そうだな」

「は?」

「センセイ、この町で準備を整えたら北の町に出発だ。沈没船とやらを見てみたい」

「え」

「ちょ、シグルド姉!? なにいってんの!?」

「別にいいだろう。期日は三十日もあるのだ。数日の寄り道は問題ないと判断する」

「いやいや、それを判断するのセンセっしょ!?」

「なら聞こう。センセイ、かまわないな?」

「え、いや」

「構わないな?」

「えと……」

「かまわないな?」

「…………はい」


 あの、シグルドリーヴァさん……そんなに近づいておっぱいを当てられたら、男はみんなハイって言っちゃいますよ。

 というか、沈没船とか神殿とか、なんでこんなに気にしてるんだ?


「沈没船、そして神殿か……新しいデータが手に入るな」

「…………」

「シグルド姉ぇ……」


 後で知ったが、シグルドリーヴァは好奇心旺盛だった。

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