第十章・【鮫肌王スクアーロ】

第227話、異色パーティー

 俺、シグルドリーヴァ、レギンレイブの三人で、海の王国へ向かうことに。

 まず、この世界は巨大な一つの大陸であり、その大陸を分断してそれぞれの王様が治めている。

 魔術師の王国マジカライズ、獣人の王国フォーヴ、砂漠の王国ディザード、エルフの王国ユグドラシル、吸血鬼の王国ヴァンピーア、亜人の大地ラミュロス、そして人間の王国オストローデ。

 海の王国とは、この大陸一帯を囲む全ての海。

 海に住む魚人たちは中立を貫き、大地の争いには興味を示さない。そのへんはラミュロス領土と似ているかも。

 だが、海を侵すものには一切の容赦はしない。

 最強の鮫魚人にして海の王『鮫肌王パパ・シャークスクアーロ』。

 彼の治める王国、海底王国ネプチューンの最奥にある宝物庫に、【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】の扉があるらしい。


「……と、簡単だがこんなところか。きみの試練は、スクアーロの許可を得て宝物庫から遺産を得ることだ。なに、スクアーロは海を汚さなければ危害は加えない」

「いや、汚すなって言われても……」


 現在、俺はロキと一緒に食事をしていた。

 食事と言ってもロキは液体燃料の入った缶を飲んで、俺は一日に必要な栄養素を詰め込んだ不味い宇宙食みたいなゼリーを飲んでるだけだが。

 食事は最悪だったが、コーヒーは最高だった。

 ロキが淹れたコーヒーを飲みながら、話は続く。


「私のエネルギーは液体燃料だが、どうしてもコーヒーだけは飲みたくてね。味覚を感じさせつつコーヒーをエネルギーとして分解する仕組みを作るのはなかなか大変だった」

「確かに美味い。この世界に来てこんな旨いコーヒー飲んだの初めてだ」


 俺の答えにロキは満足したようで、おかわりを注いでくれた。


「この施設に客をもてなすような部屋はないのでね。申し訳ないがそこのソファで休んでくれ」

「ああ、わかった」


 今いる場所は研究室の待合スペースみたいな場所だ。

 ロキ曰く、ここはヴァンピーア領土にある山脈の地下にある天然洞窟を改造した場所らしい。

 普通に入ることはまず不可能で、亜空間転移じゃないと入れないとか。そんな場所に遺産があるのもびっくりだ……ある意味、ロキに救われたのかも。

 というか、亜空間転移って……なんか怖いな。


「明日、きみをフォーヴ王国最北の町へ転移させよう。そこから海沿いの町を目指し、海の王国へ向かうといい」

「……マジで行くのか」

「当然だ。とりあえず、遺産獲得までのタイムリミットは三十日とさせてもらおう。それ以上はきみの生徒が危ういのでね」

「…………なぁ、マジで教えてくれ。生徒たちはどうなってる」

「ここで答えを教えるときみの今後の行動に差し支える。申し訳ないが答えられない」

「…………」

「ふふ、そう睨むな。私を恨むのは筋違いだよ。恨むなら……オストローデだろう?」

「……そうだな」


 くそ、こんなことしてる場合じゃないんだ……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 硬いソファに横になると、なぜかすぐに寝てしまった……。

 そして翌日。


「おはよう、センセイ」

「……おはよう」

「よく寝れたようでなによりだ」

「……お前、このソファに何か細工したか?」

「さぁ? きみが寝不足にならないように掃除はしておいたがね」

「…………」


 くっそ、この野郎……確かに寝れるような精神状態じゃなかったけど、こうも目覚めスッキリの快眠じゃあ、こいつがなにかしたとしか考えられない。


「きみには最高のコンディションで試練に挑んでもらわなければ。さぁ、朝食を食べてモーニングコーヒーを飲んだら出発してくれ」


 不味いゼリーにクッソ美味いコーヒーを飲むと、シグルドリーヴァとレギンレイブが部屋に入ってきた。


「おはようございます、お父様」

「はよっす! ロキ博士にセンセ!」

「ああ、おはよう二人とも。身体の調子はどうだい?」

「はい、万全です。メンテナンスありがとうございます」

「いやぁ~さっぱり! ばっちぐーでっス!」

「ば、ばっちぐー……久しぶりに聞いたぞ」


 レギンレイブはツインテールを揺らし、俺の隣に飛び込むように座ると、そのまま腕にじゃれついてきた。


「お、おい」

「えっへへ~♪ ねぇセンセ、オル姉ぇやヴァル姉ぇ、ブリュ姉ぇやジークルーネっちと一緒だったんでしょ? そのへんのお話聞きたいっス~」

「あ、ああ。別にいいけど……」

「レギンレイブ、お父様の話をちゃんと聞け」

「えぇ~……ロキ博士はロキ博士っしょ。父ちゃんはオーディンっスよぉ」

「ははは、かまわないよ。さてセンセイ、人間であるきみには準備も必要だろう。支度金を渡すのでこれから転移する町で準備を整えるといい。それと、海底用の特殊スーツと小型艇はシグルドリーヴァに渡してある。必要なら彼女に」

「あ、ああ」


 ロキは、白金貨の詰まった袋を俺に渡した…………って白金貨!?


「ちょ、こんなに!?」

「ふ、金など私には必要ないものだ」


 袋重っ……これ三十枚以上入ってる。

 ま、まぁ、財布も置いてきたし、ありがたく受け取っておこう。海底王国でお土産買ってきてやるくらいは感謝する。

 俺は、2人の戦乙女に向かって言う。


「あー、えーと……成り行きだがよろしく頼む。シグルドリーヴァ、レギンレイブ」

「ふん。お父様の頼みだ、身柄の安全だけは保障しよう」

「にしし、ウチにお任せっスよ!」


 こうして、異色のパーティが結成された。

 俺、シグルドリーヴァ、レギンレイブ。この三人で海の底にある王国を目指す。

 不安ばかりだが、少なくとも戦闘面での不安はない。


「では、隣の部屋にある転送装置のところへ」


 ロキの案内で隣の部屋に入ると、初めてブリュンヒルデと出会った場所にあったような転移装置があった。

 その上に立ち、ロキがコンソールを操作する。


「ではセンセイ、期待しているよ」

「約束だ。遺産を見つけたら生徒を」


 最後まで言い切る前に、浮遊感が俺を襲う。

 あの野郎……ほんとに人が悪いな。

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