第226話、センセイの行方③/騎熊王ウルスス・アークトゥルス

 この施設の地下に、新しい【乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】がある。

 半信半疑だったが、地下の直通エレベーターに乗り込んで最下層へ向かうと確信した。


「この通路、今までと同じだ……」


 今までの遺産と同様、白く発光した長い通路だ。

 この奥に、『接続アクセス』じゃないと開かない扉があるんだよな。

 というか……。


「…………」

「おっほ~、真っ白っスねぇ~」


 シグルドリーヴァとレギンレイブ。

 なぜかこの二人が一緒……新鮮というか、妙な気分というか。

 シグルドリーヴァは初期のブリュンヒルデみたいに喋らないし、レギンレイブはどことなくお調子者っぽい雰囲気が伝わってくる。

 すると、ジッと見てたのが気になったのか、レギンレイブがニヤッと笑う。


「うっひひ、なんすかセンセ? ウチの可愛さに見とれちゃいました?」

「うわっと……はは、可愛い可愛い」

「ありがとッス。あ、ウチはレギンレイブ。レギンちゃんでいいっスよ♪」


 そう言って、俺の腕にじゃれつく。

 なんというか、よく懐いたネコみたいだ。

 このツインテール戦乙女、けっこう話しやすいタイプかも。

 

「…………」

「ん? なんスか?」

「……いや」


 うーん、シグルドリーヴァほどじゃないな。ジークルーネ以上、ブリュンヒルデ以下ってところか……っと、おっぱいはどうでもいい。そんなことより先に進まないと。


「行くぞ」

「ほいほーい」

「…………」


 通路の奥を目指し、三人で進む。

 通路の奥は、やはり見覚えのある扉だった。

 

「よし、開けるぞ」


 扉に触れ、『接続アクセス』を使用して「開け」と念じる。

 すると、ドアはゆっくりと横に開き、奥の部屋へと続く道ができた。

 さっそく三人で中へ。


「うん、今までと同じだ。来るぞ……」


 そして、床が開き何かがせり上がってきた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「お、おぉぉ……で、でかい」


 現れたのは、三メートルはありそうな『白熊』だった。

 言うなれば、『全身甲冑を着込んだ白熊』か。ゴテゴテした鎧、背中に背負う巨大剣、顔つきはロボットの白熊だ。

 銀馬、黒牛、緑亀ときて白熊か……動物モチーフなのは確定だ。


「しゅ、しゅっげ~……これが父ちゃんの残した兵器ッスかぁ~」

「……素晴らしい」

「よし、ちょっと待ってろ」


 慣れたもので、俺は白熊に触れる。

 すると、聞き覚えのある機械音声が部屋に流れた。


『システムチェック完了。全システムオールグリーン。《ヴァルキリーハーツ》書き換え完了。これより相沢誠二を所有者とし、全機能権限を委ねます』

「お、きたきた。えーと、名前は『騎熊王ウルスス・アークトゥルス』か……騎士の熊の王か。かっこいいな」


 これで四つ目の遺産だ。

 こいつを使えるのは……うん、こいつしかいない。


「シグルドリーヴァ、こいつはお前向きだと思う。どうする?」

「……お父様の許可が出れば、使ってもいい」

「あれれ~? シグルド姉ぇったら足がパタパタしてるッスよぉ~? ホントは試したくてウズウズしてるんじゃないッスかぁ~?」

「斬り殺すぞ」

「うっひ!?」

「お、おいこら、俺を盾にするな!!」

 

 確かに、シグルドリーヴァはウズウズしてるように見えた。もしかしてこいつ、嬉しいんじゃ……なんて。

 

「おい、何をニヤニヤしている。用事が済んだならさっさと戻るぞ」

「あ、ああ」

「へいへーい」


 白熊に命じると、亜空間へ収納された。

 あとはいつでも呼び出せる。戦力の増強は素直に嬉しい。


 さて、次は……ロキの頼みとやらを聞くか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「きみに、私の全てを託せるか試してみたい」

「……は?」


 戻るなり、そんなことを言われた。

 なんか重そう……いきなりなんだ? 死亡フラグ?


「で……何をすればいいんだ?」


 もういいや。深くツッコむと泥沼だし、さっさと話を進めよう。

 それに、早くみんなと合流しないといけない。ブリュンヒルデがどうなったかも気になるし、ジークルーネの損傷も直さないと。


「君に、残り三つの遺産の在処を教えよう」

「…………え」

「まず一つ、深海王国ネプチューンの秘宝庫の奥にある開かずの間、そこに眠る遺産を解放してくれ。もちろん……仲間の協力は許さない。きみの力だけでやり遂げるんだ」

「ちょ……ちょ、ちょっと待った!! 残り三つって……」

「もちろん、遺産のことだが?」

「待て待て、残り三つってマジなのか!?」

「ああ。戦乙女型のために残した兵器なのだ。数は七つに決まっているだろう」

「うっそ……で、で、一つがどこだって!?」

「深海王国ネプチューン。『鮫肌王パパ・シャークスクアーロ』が支配する海の王国だ」

「う、うみ……というか、仲間の力って」

「きみの仲間に協力を仰ぐことは許さない。きみの力だけでやり遂げたとき、残りの遺産の場所と私の全てをきみに託そう。それがあれば、オストローデ王国からきみの大事な物・・・・・・・を取り返すこともできるだろうね」

「な……」


 俺の大事なもの。

 オストローデ王国にある、大事なのもの。


「おま、生徒のこと」

「知っている。ハッキリ言おう。きみの生徒たちは非常に危険な状態だ」

「……どういうことだ」

「それも、教えよう。だが、まずは私の試練を乗り越えたまえ」

「お前……ッ!!」


 すると、シグルドリーヴァが俺の肩を掴む。


「止めろ」

「……ッ」


 俺は深呼吸をして、ロキを見据える。


「いいだろう。やってやる。海の底だろうがマリアナ海溝だろうが行ってやる」

「うむ。では……シグルドリーヴァとレギンレイブを連れて行きたまえ。きみの護衛として役に立つだろう」

「え」


 俺は後ろを振り返ると、無言のシグルドリーヴァと手をフリフリするレギンレイブと目が合った。

 

「お、俺たち三人で海の底に行くのか?」

「そうだとも。安心したまえ、深海でも活動できる特殊なスーツを提供しよう。それと、潜水艇も」

「あ、ああ……って、準備いいな」

「時間だけはあったのでね。こんな時のための道具はたくさんある」


 ロキは、俺から視線を外す。


「シグルドリーヴァ、レギンレイブ、センセイを守ってやりなさい」

「はい、お父様」

「ほいほ~い。えへへ、センセと海にお出かけ~♪ 水着のデータチェックしとくッス~♪」

  

 こうして、次の目的地は決まった。

 場所は海。しかも海底にある深海王国ネプチューン。そこの秘宝庫の奥にある【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】だ。

 秘宝庫の奥ってことは、海底王国の宝。つまり、『鮫肌王パパ・シャークスクアーロ』の許可が必要。

 しかも、同行者はブリュンヒルデたちじゃない。ブリュンヒルデたちの姉妹であるシグルドリーヴァとレギンレイブ。


「…………不安だ」

「センセ、ウチの水着選んでッス~♪」

「…………ふん」


 俺、シグルドリーヴァ、レギンレイブの海底冒険が始まろうとしていた。






******************************


次回から新章です。


センセイ孤立ルート。

シグルドリーヴァとレギンレイブを加えた海底王国の冒険です。


この物語はセンセイの物語なので、他のキャラの出番がどうしても少なくなります。そこは申し訳ありません。次章はブリュンヒルデたちの出番も少ないです。


主人公が1人孤立して、新キャラを仲間に加えて冒険するっていいよね。

クロノクロスのヤマネコ編みたいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る