第225話、センセイの行方②/ロキという男

「………………は?」


 こいつ、今……なんて言った?

 

「聞こえなかったかね? この施設地下に眠るオーディン博士の残した遺産……戦乙女の遺産を解放して欲しいと言ったのだよ」

「な、なんであんたが……」

「ははは、私はオーディン博士の元助手だぞ? 彼が娘と呼んだ戦乙女型にプレゼントを残すことなど予想できたさ。だが、数千年かけても扉を解除することはできなくてね……あの男、まさに天才だよ」

「……」


 【乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】がここにある……それは朗報だ。

 でも、それが真実なのだろうか。というか……ああもう、わからん。

 俺は、未だに薄ら笑いを浮かべてるロキに質問した。


「どうして、遺産を欲しがる?」

「……っくはははははっ!! そんなの決まっているだろう? オストローデ王国を支配するアンドロイドを滅ぼすためだよ」

「…………」


 胡散臭い……こいつ、本当に何が目的なんだ。

 俺が睨んでいるのが本当に不思議なのか、ロキは小さく息を吐く。


「君が私を信じれないのも無理はない。だが、オストローデ王国のアンドロイドを始末するという目的は真実だと誓おう」

「……根拠は? あんたがオストローデ王国と繋がっていないという証拠がない」

「誓って言う。私が『Osutorodeオストローデシリーズ』に肩入れするなどあり得ない。絶対に」

「っ!!」


 ロキの笑みが、初めて消えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「そもそも、アンドロイドとはオーディン博士が作りだした存在だ」


 ロキは、再び笑みを浮かべて語り出す。

 今更だがこいつ、説明するの大好きだな。


「アンドロイドは自我を持ち、反乱を起こした。兵器が兵器を開発し、自己進化を遂げ、オーディン博士が最初に作りだしたアンドロイドである『Osutorodeオストローデシリーズ』は、人類の脅威となった」


 そこまでは俺も知ってる。なにせ本人から聞いたからな。


「オーディン博士はアンドロイドに対抗するためのアンドロイドとして『戦乙女型』を作りだし、『Osutorodeオストローデシリーズ』のような人間の感情を模倣して思考するタイプではない、人間の感情そのものを持ったアンドロイドを作り出そうとして……失敗した」

「……それが、オーディン博士の奥さん」

「ああ。私の幼馴染みであり、オーディン博士が愛した女……ワルキューレ」


 確か、ワルキューレさんの意志をヴァルキリーハーツに移す実験だ。

 結果は失敗……ワルキューレさんは暴走してボディは破壊、ヴァルキリーハーツは取り外され、俺が見つけてブリュンヒルデのボディに搭載した……だよな。


「実験は失敗し、オーディン博士は行方を眩ませた……だが、奴は諦めていなかった。失敗のデータを元に新たな理論を構築し、戦争孤児の少女達を使って7つのヴァルキリーハーツを完成させた。それが今の戦乙女型、七人の乙女たちだ」

「え……せ、戦争孤児!?」

「そう。ここにいるシグルドリーヴァも、レギンレイブも、元の意志は人間の少女だった。もちろん、人間時の記憶はないがね」


 シグルドリーヴァはそっぽ向き、レギンレイブはなぜかピースした。


「当時、私たちは非常に混乱したよ。突如として戦場に乱入した銀髪の乙女たちが、アンドロイド軍の兵器をあっという間に破壊していく光景を……そして、オーディン博士が彼女たちを引き連れ、私の前に現れたこと……今でも鮮明に思い出せる」


 うーん、俺TUEEEEをやったのね。


「人類軍とアンドロイド軍の戦争は、戦乙女型の登場で一気に持ち直した。だが……アンドロイド軍の特殊兵器がcode01を破壊し、code04を半壊させたことで状況は一変した」


 そういえば、その辺のことをよく知らない。


「私はね、code01とcode04が搬入された施設にいた。そして、そこからの記憶が曖昧だが……どうも施設で事故があったようで、私の身体はぐちゃぐちゃになってしまってね……自らを機械化して事無きを得た。長い間自らを改良し、気が付くとアンドロイド軍と人類軍の戦争は、小競り合いレベルにまで下がっていた」

「え、なんで?」

「簡単だ。資源が枯渇して碌な装備を作る事ができなかったのだ」

「うわぁ……」

「だが、私は気付いていた。『Osutorodeオストローデシリーズ』は生存し、力を蓄えていると。人類が繁殖を始め、村や町が増え、王国を築き……『Osutorodeオストローデシリーズ』はオストローデ王国を作り、今度こそ人類を滅ぼすつもりだとね」

「……まじか」


 なんというテンプレ。いや、オストローデのアンドロイドたちは、昔から変わっていないだけだ。

 人類を滅ぼす。自分たちを利用するだけ利用して捨てたアンドロイドたちのために戦う、それだけ。


「私は、シグルドリーヴァを見つけ、彼女を修復した。そして……彼女が眠っていた遺跡の地下に、妙な部屋があるのを見つけたわけだ」

「それが、戦乙女の遺産……」

「ああ。オーディン博士め、妙な物を残したものだ」


 つまり、何が言いたいのか。


「私は、人類軍の生き残りとして、『Osutorodeオストローデシリーズ』の開発チームの一員として、『Osutorodeオストローデシリーズ』を破壊しなくてはならない。私はそのために生きている」

「…………」

「私の脳が生身なのがその証。私が人間であることが、オストローデ王国の仲間ではない証だ」

「…………」

「もう一度言おう。私に協力……いや、力を貸してくれ、センセイ」

「…………」


 ロキは、浮遊車椅子から立ち上がり、俺に手を差し出す。

 まっすぐに俺を見つめていた。


「……わかった。信じるよ」


 俺はロキの握手に応じる。

 ロキの手は硬く、人間の手ではない。だが、なぜか熱かった。


「ありがとう。では、さっそくだが地下に移動してくれ。そこにある『遺産』を解放してほしい」

「わかった」

「それが終わったら、やってもらいたいことがある。きみがオストローデ王国を倒せるかどうか、私に見極めさせて欲しい」

「は? な、なんだそれ? 協力するって言ったじゃないか」

「ふふ、それはそれ、これはこれだ」


 こ、この野郎……タヌキ野郎か?

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