第222話、レベル100突破パーティー

 オストローデ王国・王城。

 パーティホールには、たくさんの料理とお酒、煌びやかなオーケストラ集団が音楽を奏で、キラキラと光るシャンデリアがホールを明るく照らしていた。


 そんなパーティ会場にいるのは、29人の少年少女。

 王国から支給された軍服ではなく、ドレスやタキシードといったパーティ用の装いに身を包み、手にはワイングラスを持ち仲間と談笑する姿があった。

 中には、騎士のエスコートを受けて躍る少女や、ひたすら料理をがっつく少年、この異世界で結ばれた者同士が寄り添い合い、各々がパーティを楽しんでいる。


 クラスの中心である中津川将星と篠原朱音は、ワイングラス片手に壁際で語り合っていた。


「ふぅ……まさか、こんな立派なパーティを開いてくれるなんてね」

「ふふ。みんな頑張ったもの。カサンドラが気を利かせてくれたのよ」

「そうだな。まさか……全員がレベル100になるとはね」

「ええ……」


 レベル100。

 能力の限界を迎えた生徒たちの強さは、騎士どころか10人集まれば国家ですら壊滅させるレベルに到達している。

 中でも最強の5人のである中津川将星と篠原朱音は、己の力を誇示することなく仲間をまとめ上げた優秀な逸材であった。

 やはり、思春期の少年少女は、力を得ると変わってしまう者もいた。だが、そんな仲間に言い聞かせる役目はこの二人じゃなきゃできない。話し合いで解決しない場合は、圧倒的な力を見せつけることもあった。


「そういえば将星。新設された聖騎士団の団長就任、おめでとう」

「あれ、知ってたの? まだ極秘情報のはずだけど……」

「ふふ、私も似たような立場よ。冥魔術師団の団長に就任したの」

「え!? ほ、ほんとかい!?」


 聖騎士団は、少年少女騎士によって編成された、中津川将星率いる新生騎士による団。

 冥魔術師団は、魔術師養成学園を優秀な成績で卒業した少年少女によって構成された師団。

 つまり、アシュクロフトとアナスタシアのような立ち位置に、中津川と篠原はなったのだ。


「オレたち、強くなったよな……」

「ええ。間違いなく」


 今の中津川は、王国の騎士が束になっても敵わない。それどころか、レベル100生徒20人相手にしてようやく互角と言ったレベルだった。能力だけじゃなく、心技体全てが桁違いの強さだった。


「もうすぐ、始まるんだな」

「そうね……私たちがこの世界に来た理由。大陸統一……オストローデ王国による世界統治」

「ああ。それが終われば、その……帰るための」

「…………」


 中津川の声はしぼんでいく。

 まるで、帰るという言葉を出すのに躊躇いを感じているようだった。

 

「将星、帰りたくないの?」

「……正直、迷ってる。このままこの世界に残って尽くす事も悪くない。もちろん、家族には会いたい……」

「……私は、あなたについていくわ」

「え……あ、朱音?」

「ふふ、今更何を言ってるの? 帰るにしても方法が見つかっていないし、大陸統一にどれくらい必要なのかもわからない。それに、帰ったところでもう大人になってるかも。高校は退学だろうし、中卒じゃ碌な就職も……」

「ちょ、ストップストップ!」

「冗談よ」


 朱音はクスクス笑い、中津川は苦笑する。

 すると、2人の間に割り込むように正面から銀髪の少女が飛び込んできた。


「楽しいお話? わたしも混ぜて!!」

「わわっ、アルヴィート!?」

「きゃっ!?」


 手に持ったグラスの中身が揺れる。

 銀色の髪をアップにして、同じ色のドレスを着た少女はとても美しい。子供っぽい部分もあるが、それでも素直に綺麗だと中津川は思った。

 アルヴィートは、篠原の腕にじゃれつく。


「ねぇねぇアカネ、楽しいことなら混ぜて!」

「もう、アルヴィートったら……ごはんは食べた?」

「うん! 経口摂取モードにしていっぱい食べたよ! エネルギー満タン!」

「そう……」

「えへへー」


 篠原は、アルヴィートの頭をなでる。

 子猫のように懐くアルヴィートは、クラスから妹のように可愛がられていた。

 もちろん、中津川も篠原も生徒たちも知らない。


 アルヴィートがアンドロイドだとも、『Type-VALKYRIEヴァルキュリア』というコードネームを与えられたオストローデ王国の兵器だとも。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アルヴィートは篠原にじゃれつき、いつものように矢継ぎ早に質問して彼女を困らせていた。

 なので中津川は助け船を出すため、思いつきで聞く。


「そういえばアルヴィート、捜し物は見つかったのかい?」


 中津川は、アルヴィートに質問する。

 するとアルヴィートはしょんぼりしてしまった。


「んーん、まだ……はぁ~、わたしの遺産・・が見つかればなぁ」

「遺産……よくわからないけど、きっと見つかるわ」

「ん、ありがと、アカネ」


 アルヴィートが何かを探しているという話は以前聞いたことがあり、中津川たちも捜索を手伝っていた。

 だが、内容が『戦乙女の遺産』とかいう、どのようなものなのかアルヴィートですらよくわかっていない。なので捜索は中々進んでいなかった。


「アルヴィート」

「あ、カサンドラだ!」


 そこに、ドレスを着たこの国の王女、カサンドラが中津川たちの前に。

 一国の姫であり、その佇まいは少女とは思えない。


「アルヴィート、アシュクロフトが探していましたよ。緊急の用事があるそうです」

「センセイが? わかった、ありがとね!」


 そう言って、アルヴィートはあっさりと行ってしまった。

 カサンドラは中津川と篠原に微笑みかける。


「こうしてお話しするのは久しぶりですね、ショウセイ、アカネ」

「はい。お久しぶりですカサンドラ様」

「ふふ、畏まらなくていいわショウセイ。普通にお話ししましょう」

「……わかった」

「アカネも、ね?」

「ええ。わかったわ」


 同年代の友人がいないのだろうと判断した二人は、友達のように砕けた話し方をする。


「まずは、レベル100おめでとう」

「ありがとう。これでようやく目標の一つを突破したよ」

「ええ。短いようで長かったわね……」

「ふふ、そうね。私も忙しくてろくに挨拶出来なかったけど、みんなが頑張ってるのは聞いていたわ。本当におめでとう」


 3人は談笑し、これまでの訓練内容や日々の生活について話をする。

 アルヴィートがじゃれついてくることや、騎士たちと酒を飲んだり、町で遊んだりと、楽しい話ばかり。

 カサンドラも年相応の笑みを浮かべて聞いていた。


「ふふ、こんなに楽しいのは久しぶり。ありがとう、ショウセイ、アカネ」

「別にいいさ。それより、オレたちも礼を言わないと。こんな楽しいパーティーは久し振りだよ」

「そうね。明日からまた訓練が始まるし、いい感じにリフレッシュできたわ」


 すると、カサンドラが言う。


「訓練……そういえば、明日は訓練じゃなくて、あなたたちの健康診断をするはずよ」

「健康診断?」

「ええ。みんなの身体をチェックして、悪い部分がないか調べるみたい。この世界に来てからちゃんと調べてなかったでしょ?」

「確かにそうね……気にしたことなかったわ」


 篠原は苦笑し、中津川も頷く。

 確かに、健康診断なんてやったことなかったなと思う中津川。


「さて、せっかく美味しい料理が並んでるんだ。カサンドラも朱音も、一緒に食べよう」

「そうね。行くわよカサンドラ」

「ええ、ありがとう」


 中津川も篠原も気付いていない。

 健康診断なんて嘘っぱち。


 本当は、魔導兵士処理を行うために、脳にチップを入れられるなんて。

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