第221話、MIDBOSS タケミカヅチ・Type-SUSANO⑥/光輝剣コールブランド

 第三着装形態。

 目の前の少女は一体誰だ?

 真紅の瞳が空色に変化している。

 ブリュンヒルデは、こんな微笑を浮かべる少女だったか?

 

 誰もが、ブリュンヒルデから目を離せない。

 銀のロングソードを握り、背中には機械的な光の翼が生えた新形態。間違いなくセージの仕業だ。

 ブリュンヒルデは、ゆっくりとゴエモンに近づく。

 そして、ジークルーネ、オルトリンデ、ヴァルトラウテに目を向け、淡く微笑んだ。


「私の娘たち・・・を傷付けた報い、受けていただきます」

『危険度測定不能。全能力解放。目標殲滅』


 ゴエモンは亜空間を展開し、数百の剣をブリュンヒルデに向けロックする。

 対するブリュンヒルデは『光輝剣コールブランド』をゆっくり持ち上げ、ゴエモンに向けた。


『特殊技能№4起動。《突死》』


 ブリュンヒルデに向かって剣が同時に飛ぶ。対象を串刺しにする技だ。


「…………」


 だが、ブリュンヒルデは動かない。

 なぜなら、動くまでもなかったから。

 剣はブリュンヒルデに突き刺さる寸前で全て破壊されていた。一瞬どころじゃない、時間を止めたような動きだった。


「児戯ですね。この程度の技、私には通用しません。申し訳ありませんが……終わらせます」

『危険。危険。危け』




 次の瞬間、ゴエモンの首がころりと落ち、身体はそのまま細切れに砕け散った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 時間とは、止まる物なのだろうか。

 ゴエモンはあっさり敗北した。

 強いとか弱いとかではない。ブリュンヒルデには勝てないという事実だけが存在した。

 ブリュンヒルデは、ジークルーネの元へ。


「大丈夫ですか?」

『お、おねえちゃん……?』

「……少し違いますね。でも、今はあなたの損傷を回復させないと。あなたがいないとセンセイの傷が治せませんからね」

『あ……』


 空色の瞳は、ジークルーネを優しく見つめて抱きあげる。

 すると、オルトリンデとヴァルトラウテも近づいた。


「誰だオメーは……ブリュンヒルデなのか?」

「そうであり、そうでない。私は、あなたたちのアーキタイプ。まぁ、母親みたいなものですね」

「は、ははおや、ですか? わたしくたちに母親が……」

「ええ。この子、ブリュンヒルデのヴァルキリーハーツは予備の物ではない。全ての始まりである戦乙女、『code00ワルキューレ』の物だったのです」

「わ、ワルキューレだと? そんなデータはアタシの中にねぇぞ!」

「わ、わたくしもです……」

「話はあと、と言いたいのですが、『ブリュンヒルデ』の意識に身体を返してあげないといけません。オルトリンデ、ジークルーネの華でこの子の動力炉の修理を。ジークルーネのメインウェポンでなければセンセイの傷は治せません」

「あ、ああ……つーか、この華をセンセイにやればいいんじゃねぇか?」

「いえ、これだけでは不完全です。この微量なナノマシンでは治癒まで時間がかかります。見たところ、ジークルーネの損傷はメインパイプの破損のみ。動力炉のメインパイプを繋ぎ合わせるだけなら数分で完了します。その後、ジークルーネにセンセイの治療をしてもらいましょう」


 オルトリンデは、逆らうことができなかった。

 まるで、母親に言い聞かせられる子供のように、素直に華を出した。


「ありがとう、オルトリンデ」

「……お、おう。つーかさっさと直してやれ、センセイが死んじまうぞ」

「ええ」


 ワルキューレ・・・・・・は、柔らかく微笑んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 アシュクロフトは、ゴエモンの頭部を回収して逃げていた。

 ブリュンヒルデの進化、そしてゴエモンの敗北。何もかもが想定外。しかもブリュンヒルデは、アシュクロフトのことなど見てすらいなかった。

 あまりにも、圧倒的だった。

 

「バカな、バカなバカな……こんなことが!!」


 ギリギリと歯を食いしばる。

 ゴエモンの頭部を地面に叩き付け、目を閉じた。


「……ふぅ~」


 そして、通信回線を開く。


「アリアドネ、見ていましたか?」

『……無理、無理無理。あれは無理。あれはアンドロイドじゃ勝てない。つーかあの第三着装形態? あんな反則技に勝てない。勝てるとしたら化け物だけ』


 アリアドネは、ブリュンヒルデの進化と戦闘を目撃していた。

 ほんの少し戦闘データを解析しただけでわかる。規格外の化け物だ。


「確かに難しい。Code04はもう神の領域に達したと言っても過言ではない。でしたら……同じ土俵で戦える相手をぶつければいい」

『……おいおい、まさか』

「はい。強化魔道処理を全員に。これほどの脅威に対抗できるのは、レベル100の能力者と……『Type-KINGキング』しかいません」

『ちょ、KINGって、ヴァンホーテンを使うの? だいじょぶなの?』

「ええ。それだけの脅威と判断します。いいですかアリアドネ、アナスタシアの元に向かい『Type-KINGキング』の調整を、それと……」

『ん?』

「カサンドラ、いえ……『Type-QUEENクイーン』にも報告を。生徒の処理が終わったら計画を最終段階に。センセイの元に戦力が集いつつあります。最終決戦は近いかと」

『マジか……わかったよ』


 通信は切れた。

 アシュクロフトはゴエモンの頭部を拾う。


「あなたにもまだ働いてもらいますよ」


 ゴエモンの頭部は何も語らない。完全に停止している。


「センセイ……これほどの脅威になるとは」


 第三着装形態は、完全なイレギュラーだった。

 ゴエモンが瞬殺。戦いにすらなっていない。

 これを倒すには、改造したレベル100生徒か、オストローデの『KING』を使うしかない。

 

「計画は順調……もう少し」


 アシュクロフトは、まだ気付いていない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 戦いは終わった。

 ブリュンヒルデは蘇り、あとはセージを治療するだけ。

 三種族の会談前にこんな戦いがあるなんて、誰も予想していなかっただろう。


 戦乙女たちはジークルーネの治療をし、ライオットは周囲を警戒、三日月たちは負傷したセージの元へ向かおうとした。

 ジークルーネが直れば、すべて元通りになる。






「ぎゅっっいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーんっ!!」






 だから、最後の最後で油断した。

 銀色の光が上空から現れ、負傷したセージをかっさらったのだ。


「な……」

「え……」


 オルトリンデとヴァルトラウテは、驚愕した。

 他のメンバーも、上空を見て驚いている。

 オルトリンデは叫んだ。


「おまえ……っ!! どういうつもりだレギンレイブ!!」

「うひっ、い、いやぁその……ウチにも事情があるんすよ」


 セージを攫った正体は、code05レギンレイブだった。

 背中にはステルス戦闘機のようなデザインのメインウェポン。『乙女天翼フリーアイカロス』を展開していた。レギンレイブは空中戦闘型戦乙女、彼女に空で敵う者はいない。

 そして、それよりも驚くべきことが。


「お姉さま、あれ……」

「ああ、あれは……シグルド姉だ」


 乙女天翼の上に立つのは、セージを抱えた美しい少女……code01シグルドリーヴァだった。

 全員を見下ろし、薄く微笑む。


「ふ……戦乙女型が集まったか。悪いが、この男はもらっていく」


 セージは気を失っているのか、目が虚ろだ。


「では、さらばだ。行くぞレギンレイブ」

「ほいほーい。じゃあ姉たち、さらばである!」


 レギンレイブは敬礼し、音速を越える速度で飛んで行った。

 残されたのは、アンドロイドとセージの仲間たち。


「あの、なにがどうなって……」

「わからん……本当に、わからん」

「せんせ……」

「っくそ、セージ……」

「もう頭バクハツしそう……」

「え、ええと、とりあえずみなさん、怪我の手当てを!」


 クトネ、ルーシア、三日月、ゼド、アルシェは頭を抱え、エレオノールはけがの手当てを勧める。

 アンドロイドたちも合流し、これからどうするかを決める。


 考えることは、山ほどあった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 薄れゆく意識の中、俺は感じていた。

 誰かが俺を抱き上げ、柔らかいモノを押し付けてる……。


「ふ……戦乙女型が集まったか。悪いが、この男はもらっていく」


 だれだ、これ……?

 ああ、この子のおっぱいが俺に当たってる……きもちいい。


「では、さらばだ。行くぞレギンレイブ」


 ああ、やわらけぇ~……おっぱい最高。

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