第220話、メモリー・オブ・ヴァルキュリア
俺は、夢を見ているような気がした。
『この実験には危険が伴います。本当に……******様を』
『ああ、もうこれしかないんだ……』
若い白衣を着た男と、白髪交じりの中年男性が話をしている。
場所は……なんだこれ、研究所か? 機械がいっぱい……。
『先生、本当によろしいのですか!?』
『ああ。**の意志だ……私は、その強い意志に賭ける』
『……あなたは、悪魔だ』
あ、この中年研究者……たぶん、オーディン博士だ。
夢で見たよりちょいと老けてるな。なんというか、疲れを感じさせる。
というか、******って誰だ? 実験とか、危険とか……というか、なんだこれ? 夢?
あ、画面が切り替わった……。
『すまない、******、気分はどうだ?』
場所は……病室、か?
白い部屋、窓が開いてカーテンが揺れて、病院とかにありそうな人工呼吸器や生命維持装置? みたいなのに繋がれた……うわぁ、すっげぇ美人。
『ええ、今日は気分がいいわ。ありがとう、あなた』
『ああ……』
あなた? おいオーディン博士、あんたの奥さんかよ。
めっちゃ美人じゃねぇか……いや、別に羨ましくは……ごめん、羨ましい。
『あなた、実験は……』
『予定通りに行う。その……本当にいいのかい?』
『もちろん。あなたのお仕事に協力できるんですもの。こんなに嬉しいことはないわ』
『だが……』
『いいの。どうせ長く生きれないのなら……あなたに迷惑かけっぱなしの私でも、役に立てるって証明したいの』
『******……僕は、キミに』
なんだこれ……まさか、オーディン博士は人体実験を?
長く生きれないってのはわかる。この女性、美人だけどやせ細ってるし、顔色も恐ろしく悪い。
あ、また画面が切り替わった……。
『何故だ、どうしてこうなったんだ……!!』
『だから言ったでしょう!! あなたの理論は破綻していた!! あなたのせいで彼女は、******は……!!』
『……責任は、私が取る』
『この、悪魔がァァァァァッ!!』
な、なんだこれ……研究所? らしき場所が、メッチャクチャに破壊されてる。
砕けた建物に壊れた機械、電気ケーブルがバチバチと火花を立て、研究員らしき人が何人も死んでる……。
最初の場面で見た男の研究員が、オーディン博士を罵倒していた。
『すまない、本当にすまない……』
オーディン博士は、泣いていた。
◇◇◇◇◇◇
画面が切り替わり、今度は……。
『すまない…………許してくれ』
『…………』
え……これって、うそだろ。
『キミが生きてくれたこと、僕の傍にいてくれたこと、決して忘れない』
『…………』
な、なんで、オーディン博士が……。
『さようなら……******』
そして……俺の意識も、少しずつ消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……あれ?」
次に目覚めたら、見覚えのある場所……。
「ここ、職員室? というか、またスーツ着てる……」
以前、オーディン博士に会った場所だ。
深層心理世界。俺の心の中の世界とでも言えばいいのか? 懐かしい……職員室の角にある休憩スペースにはテレビがあり、小型冷蔵庫も置いてある。あの冷蔵庫におやつ入れておいたんだよな。
「っと、そんなことより……あれ? 今回は誰もいないのか?」
オーディン博士もいない。まぁそんな頻繁に会えるとは思わないけど。
それより、ここから帰らないと……って。
「…………ブリュンヒルデ」
あの子は、もう動かない。
なぜなら……ヴァルキリーハーツが、砕かれてしまった。
「…………死ん、だ」
壊れた、ではない。
彼女は……死んだのだ。
「…………ちくしょう」
俺は、自分の椅子に座り頭を抱えた。
ヴァルキリーハーツは機械じゃない。俺の『
元々、ブリュンヒルデのヴァルキリーハーツは予備……仮に予備が他にもあったとして、それを使えばブリュンヒルデは生き返る……違う。
ヴァルキリーハーツは『心』だ。
心が違うなら、それはもう俺たちの知っているブリュンヒルデじゃない。
ブリュンヒルデは、死んだのだ。
「……ちく、しょう」
あ……やべ、涙が零れた。
「……アシュクロフトの野郎」
そして、怒りがふつふつと湧いてきた。
あの野郎だけは許さない。あの野郎だけは……破壊してやる。
破壊は無理でも、顔面一発くらいはぶん殴ってやる。人間の恐ろしさを舐めるなよ。
俺は椅子から立ち上がり、職員室ドアへ向かう。
「ブリュンヒルデ……仇は俺が取る。それと、俺もそっちに行くからな」
ドアに手を掛け、開けた───────────。
『忘れないで───────────』
「……え?」
振り返ると、誰かが立っていた。
綺麗な銀色の髪を持つ、真紅の瞳の女性。
『生きて、そして───────────』
何かを言っている。
ふと、右手が熱くなるのを感じた。
『また、会いましょう……センセイ』
俺の身体が、光に包まれる。
この人は誰だ? どうしてこんな……涙が溢れてくる?
ああ、そうか、この女性は───────────。
「ああ、そうか。貴女は───────────」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぅ…………ぁ」
目が覚めると、身体はピクリとも動かなかった。
怪我もそのままだが、何故か意識ははっきりしている。
眼だけを動かすと、オルトリンデたちが戦っているのが見えた……ジークルーネ、あいつらを喚んだんだな。
「…………」
俺は、胡座をかいて座っていた。
ブリュンヒルデの額には剣で刺した亀裂が入り、光彩の失われた真紅の瞳が俺を見ていた。
「だい、じょ、ぶ……」
右手が、燃えるように熱くなった。
なにをするべきか、答えは全て俺の中にある。
俺は命を燃やし、右手を広げる。
右の掌にあったのは───────────小さな銀色の歯車。
銀色の歯車は、俺の命を吸って光る。
「な、なんだ……これは」
アシュクロフトが驚愕する。
「せ、セージ……?」
「せんせ……?」
「な、なんですかこの光!?」
「おお……」
「わぁ……綺麗」
「銀色……すごい」
ルーシアが、三日月が、クトネが、ゼドさんが、アルシェが、白い少女が見ている。
「な、なんだ!? おいヴァルトラウテ!!」
「わ、わかりませんわ……」
「うっす……すごいっす!!」
『………セン、セ』
オルトリンデが、ヴァルトラウテが、ライオットが、倒れたままのジークルーネが俺を見る。
俺は、はっきりと喋れた。
身体に力がみなぎり、右手の歯車を握りしめる。
「いろいろわかったよ。どうしてあんな夢を見たのか、あの女性を見た瞬間、いろんな知識が俺の中に流れ込んで来た」
俺は、歯車をブリュンヒルデの額に持っていく。
「ヴァルキリーハーツに予備なんてなかった。お前は……ブリュンヒルデであって、ブリュンヒルデじゃなかったんだ」
歯車が輝き、力を増していくのがわかる。
「でも、そんなこと関係ない。お前は、俺と出会ったお前は『ブリュンヒルデ』なんだ」
この歯車は、俺の『固有武器』。
なんの役に立つかわからなかった、小さな銀色の歯車。
「だから……もう一度だけ、立ち上がってくれ。ブリュンヒルデ」
小さな銀色の歯車こと『
「起きろブリュンヒルデ!! 『
俺はブリュンヒルデに向け、全力の『
剣で斬られた傷が修復され、額の切れ目も修復される。
『
『ッッッッッ!!!!』
ブリュンヒルデの眼がカッと開かれ、真紅の瞳が虹色に輝く。
そして───────────。
「───────────おはようございます、センセイ」
真紅ではない、
ああ、間違いない。彼女はブリュンヒルデじゃない。
「ああ、おはよう。さっそくだけど……頼む」
「はい、センセイ」
空色の瞳をしたブリュンヒルデは、この場にいる全員の度肝を抜いていた。
戦闘も完全に止まり、ゴエモンと戦っていたオルトリンデたちですら完全に余所見をしている。
「敵機を排除します」
空色の瞳をしたブリュンヒルデは、エクスカリヴァーンを展開する。
「着装形態へ移行……」
静かに、柔らかい声だった。
エクスカリヴァーンが分解し、いつもとは違う着装形態へ変わる。
いつもならゴテゴテした鎧に双剣形態となるが、剣は1本、鎧はシンプルかつ機能的になり、残りのパーツは背中で変形し、まるで天使の羽のように広がる。
ブリュンヒルデは、光の翼を広げ、一本の美しいロングソードを構えて言う。
「第三着装形態・『光輝剣コールブランド・インヴォーク』展開完了。これより敵機を破壊します」
まるで、天使のような戦乙女がそこにいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
やっとわかったんだ。あれはブリュンヒルデじゃない。
俺が見た夢の映像。あれは……オーディン博士の奥さんが、ヴァルキリーハーツに自らの意識を移すための実験だった。
そして、実験は失敗し……オーディン博士の奥さんは死亡し、意識を移したヴァルキリーハーツを搭載した戦乙女型は暴走。オーディン博士によって破壊された。
ヴァルキリーハーツに予備なんてない。
俺が見つけたのは、code00のヴァルキリーハーツ。
ブリュンヒルデの身体に搭載したのは、code00……。
『code00・試作実験型戦乙女ワルキューレ』のヴァルキリーハーツだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます