第219話、MIDBOSS タケミカヅチ・Type-SUSANO⑤/だきしめて

「ライオット、周囲の人間を一か所に集めろ、そんで戦闘に参加。エレオノールはそいつらの守り、ヴァルトラウテはアタシと一緒に戦うぞ」


 オルトリンデは一瞬で戦況を分析し、個々に指示を出す。

 当然、異論などあるはずもなく、すぐに行動開始となった。


「うっす! いくっすよお嬢ちゃん!」

「は、はいっ!」


 ライオットとエレオノールは、ルーシアたちを回収して一か所へ。

 負傷もしているのでこれ以上の戦闘は続行不可能。守りをエレオノールに任せてライオットは戦闘に参加する狙いだ。

 ライオットは、ルーシアの元へ。


「うっす! 大丈夫っすか!?」

「お、お前は……そうか、ジークルーネが呼んだのだな? それと彼女は……?」

「は、はじめまして。エレオノールと申します。その……一応、冒険者です」


 ルーシアになるべく近づかず、少し距離を取って頭を下げるエレオノール。

 胸に抱いた不眠ペンギンのピーちゃんが手を挙げた。


『きゅっぴ!』

「な、なんだそれは……?」

「とにかく、みんなを回収するっす! 怪我してるし無茶はダメっすよ!」


 ライオットは、ルーシア、ゼド、アルシェ、三日月を回収し、倒れているキキョウを回収。エンタープライズ号の前にいるクトネの元へ連れていった。


「みなさん! よかったぁ……」

「うっす! ここで休んでてくださいっす! あとはお嬢ちゃんにお任せするっす!」

「は、はい! ライオットさん、お気をつけて!」

「うっす!」


 ライオットは『ボルテックモード』に変身し、すでに戦いを始めているオルトリンデたちの元へ。

 少し距離をとってエレオノールは立ち、ルーシアたちを守ろうと警戒していた。


「ね、ねぇあんた」

「あ!! これ以上私に近づかないで!!」

「っ!!」


 アルシェがエレオノールに近づこうとするのをエレオノールは止める。

 もちろん、エレオノールに悪気があるわけじゃない。エレオノールの特性で、これ以上近づくとアルシェは倒れてしまうからだ。


「ご、ごめんなさい……その、私は少し特殊で」

「ちょっ、後ろ後ろ!! やばい!!」


 すると、ゴエモンの放った剣がエレオノールに向けて飛んできたのだ。


「あ、大丈夫です」


 だが、エレオノールはにっこり笑う。

 飛来した剣はエレオノールの手前で止まり、そのままガラガラ音を立てて地面に落下した。

 突然のことで仰天するルーシアたち……そして、ルーシアは気が付いた。


「待て。純白の髪に真紅の瞳、あらゆる攻撃を拒絶する白き姫……まさか、S級冒険者『眠り姫ネムリヒメ』か!?」

「え、ええと、そう呼ばれています」


 エレオノールは、恥ずかしそうに頷いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オルトリンデとヴァルトラウテは、ゴエモンと戦っていた。

 斬撃に対してヴァルトラウテの盾は相性がよく、クルーマ・アクパーラの大盾を装備して戦うと攻撃のほとんどがガード可能になる。

 オルトリンデは着装形態で銃器による攻撃を仕掛けているが、ゴエモンには全て回避されている。

 つまり、互いの攻撃がヒットしないまま時間だけが過ぎていった。


「ヴァルトラウテ、まずいぞ」

「ええ……このままでは、センセイが」


 ジークルーネが動けない以上、治療できるのはオルトリンデたちの持つ『華』だけだ。

 ジークルーネのメインウェポンである華を一輪だけ借りたのが幸いした。これならセンセイを治療し、時間はかかるがジークルーネの動力炉も修理できる。

 だが……無為に時間だけが過ぎる。このままでは。


「センセイが死んじまう! なんとかするぞヴァルトラウテ!」

「大丈夫ですわ!」


 ヴァルトラウテは笑う。


『オォォォォォォォッ!!』

『敵機確認』


 ゴエモンの背後から、ボルテックモードのライオットが襲い掛かる。

 かつての仲間同士だが意味はない。ここにいるのは敵であり排除すべき存在同士。


『ガァァッ!! おがぁぁぁっ!! ふんがぁぁっ!!』


 ゴエモンは、ライオットの拳を丁寧に回避。回避の過程で腕を斬りつけるが、ボルテックモードのライオットの装甲はエクスカリヴァーンですら受け止める。


「へへっ、チャンス!!」


 ライオットに気を取られている隙に、オルトリンデは武器をライフルに変形させる。

 狙いは頭部の電子頭脳。そこを破壊すれば終わりだ。


「ヴァルトラウテ、守りは任せた」

「了解ですわ」


 アシュクロフトに注意するが、ほとんど動いていない。

 それどころか、センセイの傍にいる。早くあれをどかさなくては。

 オルトリンデは、ターゲットを変更した。


「……っくそ、ヴァルトラウテ、ターゲット変更。目標Type-KNIGHTだ!」

「えっ!?」

「センセイがまずい。見ろ!」


 アシュクロフトは剣を抜き、センセイに突き付けている。


「あの野郎……なめんじゃねぇ!!」

「お姉さま、ストップ!!」


 オルトリンデのライフルから弾丸が発射され、アシュクロフト目掛けて飛ぶ。

 センセイに突き付けた剣を振り上げ、そのままライフル弾を両断した。


「ゴエモン」

『了解』

「しまっ……」


 誘われたと理解した。

 センセイを狙えば、オルトリンデはターゲットを変えると読まれた。

 それが、決定的な隙を生んでしまう。ヴァルトラウテの展開した盾は砲撃のため一時解除されている。


「お姉さま!!」


 ライオットなど振り切るのは容易いのか、ゴエモンの狙いは初めからオルトリンデだった。

 ヴァルトラウテが盾を展開するがもう遅い、オルトリンデを狙った斬撃が右腕を切断した。


「っちぃぃぃっ!! 小癪な野郎が!!」

『排除します』

「お姉さま、下がって!!」


 ヴァルトラウテの盾がゴエモンの剣を受け止めるが、ゴエモンは強烈な蹴りでヴァルトラウテを弾き飛ばした。


『姐さん!!』

「ライオット、こっちにこい!!」

『うっす!!』


 ライオットの鈍足がここに来て響く。

 ヴァルトラウテが弾かれ、ゴエモンと一対一で対峙するオルトリンデ。しかも右腕が切断され、攻撃力が半減した状態だ。


「ちっくしょう!! こいつ強ぇぞ!!」


 今更なことを、オルトリンデは叫んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…………」


 俺の意識は明滅していた。

 わかるのは、身体がやけに冷たいということ、そしてとても寂しい気持ちであふれていることだ。

 瞼がこんなにも重いとは思わなかった……今回はマジで死ぬかも。ジークルーネのナノマシンは仕込まれてないし。


「…………」


 薄暗い視界。目の前には……目を開いたまま停止してる、ブリュンヒルデの顔がある。

 俺を守るため、戦ったんだ。命を懸けてくれたんだ。


「……………………ぁ」


 ちょっとだけ、身体が動いた。

 なんでかな……ブリュンヒルデを、抱きしめたかった。


「…………っ」


 首から下が冷たい……でも、うごかなきゃ。

 

「ん? センセイ、どうされたのですか? ふふ、その出血ではもう助かりませんよ? 生きようと足掻くのは人間らしいというか……」


 なにか聞こえるけど、どうでもいい。

 俺が残りの命を使ってすべきことは、たった一つ。

 

「……理解できませんね。code04のヴァルキリーハーツは破壊した。それはもう物言わぬ鉄くずですよ?」


 俺は、身体を起こしていた。

 そして……ブリュンヒルデを、静かに抱き寄せる。

 胡坐をかき、静かに抱き寄せ……あたまをなでる。


「やれやれ、長い付き合いだったのでしょうね……仕方ない。せめてもの情けです。苦しまず、ここで眠りなさい」


 アシュクロフトが剣を掲げる……ああ、こいつ、俺を殺すつもりか。

 そうか……そういえば、こいつがブリュンヒルデをやったんだ。

 頭がボンヤリしてるせいか、怒りが湧いてこない。


「…………」


 ああ────────。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「やれやれ、長い付き合いだったのでしょうね……仕方ない。せめてもの情けです。苦しまず、ここで眠りなさい」


 アシュクロフトは、セージにトドメを刺そうと剣を振り上げた。

 このまま放っておいても死ぬだろうが、せめてもの情けで苦しませずに殺してやろうと慈悲をかけたのだ。

 だが……。


「ん? どうしたのですか、手を─────」


 セージは、ゆっくりと手を持ち上げ、アシュクロフトに向けた。






ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾザザザザザザザザザジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ────────。






 ノイズ。ノイズ。ノイズ。

 アシュクロフトの全てにノイズが奔る。走る。ハシル。


「ッッッ!? ~~~~~ッ!? じg、ギガガギggx!?」


 アシュクロフトはセージから飛びのき、距離を取った。

 何をされたか、さっぱりわからない。

 でも、ひとつだけ理解できた。




 あのままだと間違いなく、自分は『廃棄バラ』されていた。




「……………………」


 アンドロイドは、汗をかかない。

 アンドロイドは、呼吸を必要としない。

 アンドロイドは、恐怖を感じない。

 アシュクロフトは、恐怖を感じない。


「…………きょう、ふ」


 アシュクロフトは、もうセージに近づけなかった。

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