第218話、MIDBOSS タケミカヅチ・Type-SUSANO④/ラブコール

「うそ……」


 三日月は、セージとブリュンヒルデが寄り添うように倒れる瞬間を目撃した。

 セージは胸を、ブリュンヒルデは頭部を貫かれた。

 共に、ピクリとも動かない。


「せんせ……」


 そして、嘲笑うような表情を浮かべるアシュクロフト。

 三日月の中で、ナニカがキレた。


「お、まえ……オマエェェェェェェェェェェッ!!」


 ブワッと、一瞬で猫王モードへ変身し、アシュクロフへ飛びかかる。

 全身の毛が逆立ち、眼はネコというより虎のようにギロついていた。


「おや、もしかしてシオンですか……ふふ、その姿、覚醒したのですね」

『シャァァァァァァァァッ!!』


 アシュクロフトは笑みを崩さず、迫り来る三日月相手に笑顔で言う。


「ゴエモン、残りを掃討しなさい。code06はデータ回収をするので放置。シオンは……処分して構いません」

『ッ!!』


 すると、三日月を狙って何かが飛んできた。

 三日月は猫王モード。全ての形態で最も速度がある。だが、飛んできたモノは自分と同じくらい速かった。木の上に飛び乗りなんとか躱し、飛んできたモノの正体を知る。


『剣? まさかこれ』

「さぁ、解説しているヒマはありませんよ?」

『ッッ!!』


 まるで雨のように剣が降ってきた。

 三日月は圧倒的スピードで剣を躱すが、上空に気を取られすぎてゴエモンの存在を忘れていた。


『排除します』

『ギャウッ!?』


 深く斬り付けられ、鮮血を噴き出しながらゴロゴロ転がる。

 起き上がることができず、唸ることしかできなかった。


『グルルルルッ!!』

「シオン、あなたは低レベルのまま覚醒したようですね。切っ掛けはなんでしょうか? やはり生死の狭間にヒントがあると思うのですが」


 アシュクロフトは、戦う気がない。

 無防備に三日月の傍に近付き、返ってこないであろう質問をする。

 三日月は負傷を無視し、身体を無理矢理起こしたが……。


「ゴエモン」

『ギャウッ!?』


 空から1本の剣が落下し、三日月の前足に突き刺さる。

 

「さて、いくつか質問をします。答えて───────────」


 ────────────────ピュイ!!


 口笛と同時に、エメラルドグリーンの矢が飛んだ。

 アシュクロフトの頭を狙った矢は、物言わぬ機械となったゴエモンによって弾かれる。

 エメラルドグリーンの矢こと『ピナカの矢』は折れ、煙のように消えた。


「あんたら……ぶっ殺す」


 怒りのアルシェが右手でピナカの矢を弄ぶ。


「…………」


 額に青筋を浮かべたルーシアが蛇腹剣カルマを構え、自らの影を躍らせる。


「ひっく……ま、まもりは、まかせてくだしゃいっ!!」


 涙を流すクトネは、自らの役割を全うしようとエンタープライズ号に張り付く。


「ふぅ……ふぅぅっ!! 久し振りにぶちキレそうだわい……!!」


 鼻息を荒くしたゼドが、はち切れんばかりに筋肉を盛り上がらせる。両手には金と銀の片刃斧を握り、ルーシアに負けないくらい顔を怒りで歪めていた。

 

「人間にエルフ、ふふ……敵討ちというところですね」

「黙れ、貴様……生きて帰れると思うなよ」


 ルーシアの啖呵に怯むことなく、アシュクロフトは言う。

 

「ゴエモン、全員を始末なさい」

『了解』


 ゴエモンは構える。奇しくも、キキョウと戦ったような構えだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





『─────────────申請』





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ジークルーネは、自分の躯体チェックをした。

 メイン動力炉が完全に破壊。サブ動力炉で辛うじて思考を維持可能。メインウェポン展開不可。四肢稼働……不可。センセイを助けたい、不可。code04戦闘不能……お姉ちゃん。

 自分にできることはまだある。


『緊急コード申請。code02オルトリンデ・code03ヴァルトラウテ。応答せよ』


 緊急コード。それはここではないどこかにいる、戦乙女型をこの場に召喚すること。

 粒子化によって亜空間へ収納し、ジークルーネが指定した位置で再構成する。どんなに遠く離れていても、ジークルーネが呼び出せばこの場に現れる。


『code04戦闘不能。現在の状況は最悪。至急応援に来られたし。これより緊急コードを使用する。code06ジークルーネの権限において緊急コードを使用する』


 ジジジと、ジークルーネの目の前の空間が歪んだ。


「ん?……これはまさか」


 アシュクロフトが気付いたがもう遅い。空間転移システムは起動している。

 これらを起動したエネルギーで、ジークルーネの機能はほぼ停止する。だが、もう安心だ。


『ねえさ、ん……あと、おねが、い……』


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「っく……ゼド殿、無事か」

「ああ、なんとかな……クッソが、このバケモンめ!!」

「シオン、大丈夫? 動ける?」

『にゃあ……なんとか』


 三日月たちは、満身創痍だった。

 ゴエモンは四人相手でも意に介さず、ルーシアたちの攻撃全てを避け、的確にダメージを与えてきた。

 四人とも、負傷している。ギリギリで剣を躱すが、徐々に躱しきれなくなっていた。

 ゴエモンの攻撃はなおも続く。


『特殊技能№3起動。《万象飛刃》』


 ゴエモンの周囲に剣が展開した。

 広範囲に、無差別に放たれるであろう無数の剣。出血も多く満足に動けないルーシアたちでは、躱すのは難しいかもしれない。


「っくそ……すまない、セージ」

「畜生……!!」


 ルーシアとゼドは諦めかけていた。


「せめて、クトネだけでも……」

『……まだ、諦めない』


 アルシェはクトネを守ろうと矢を飛ばし、猫王モードの三日月は身体を起こす。


「みなさん……」


 クトネは、いつの間にか座り込んでいた。

 そして……。


「…………あれ?」


 奇妙なモノを見た。

 同時に、ゴエモンの剣が無差別に放たれ─────────────。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「よっしゃ来たぁぁぁぁッ!!」

「お姉さま、やかましいですわよ」

「うっす!! なんかピンチっす!!」

「あ、あの……ここって?」

『きゅっぴ!』





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ─────────────ることはなかった。


 突如として戦場に乱入した人影は四つ。

 銀髪の戦乙女二人、タンクトップハゲの男一人、そして純白の少女一人であった。

 

「な……code02と03、それにライオット!?」

「あ?……おいテメェ、アンドロイド……ああ、センセイが言ってたアシュクロフトか」

「お姉さま。正確にはType-KNIGHTですわ」

「どーでもい…………おい、どういうことだ」


 ポニーテールの戦乙女オルトリンデはの視線は、倒れる二人とジークルーネへ。

 ヴァルトラウテも同じく視線を向け……眼を細めた。


「ブリュンヒルデちゃん……」

「バカ野郎が……」


 ブリュンヒルデは、ヴァルキリーハーツが砕かれていた。

 センセイはまだ僅かに息がある。そして、動力炉を破壊されたジークルーネ。

 敵は二人。アシュクロフトとゴエモン。


「おいオメーら、やるぞ」

「はい、お姉さま」

「うっす……!! ブチ壊してやるっす!!」

「え、ええと、はいっ!!」


 オルトリンデはバズーカ砲、ヴァルトラウテは盾、ライオットは両手を、エレオノールは手をかざす。

 

「くくく、これはいい……ゴエモン、戦乙女の回収を」

『了解』


 第弐ラウンドが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る