第217話、MIDBOSS タケミカヅチ・Type-SUSANO③/愛しき君
アシュクロフトと対峙した俺は、肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ……っくそ」
「おやおや、息が上がっていますね」
「うるさい……」
アシュクロフトは避けるだけ。攻撃はしてこない。
理由は簡単……俺を舐めている。たかが人間の俺に自分は破壊されないと、高を括ってやがるんだ。
それにこいつは言った。俺たちの始末はゴエモンが付けると。
「ゴエモン……あいつ、正々堂々とキキョウと戦ってたのに」
「ああ、簡単ですよ。ゴエモンは我々にとっても扱いにくい兵器でしてね。いざという時のために保険をかけておいたんです」
「……保険?」
「ええ。ゴエモンに蓄積した戦闘データを解析し、習得した武技を効率よく作動させるためのプログラムを遠隔インストール。我々の都合のいい戦闘兵器とする特殊プログラム。その名も『プログラム・
「……この、野郎!!」
もしかしたら、分かり合えるかもしれない……そう思っていた。
「もしかしたら、分かり合える……そう考えたのでは?」
「っ!!」
「だからこそ、危険だったのです。彼はアンドロイドより人間に近い思考を持って行動している……彼の行動を縛るプログラムがどうしても必要でした。案の定でしたけどね」
ゴエモンとブリュンヒルデが戦っている。
剣と剣がぶつかり合い、火花が散っているのがわかる。
「センセイ、教えてあげましょう」
「……?」
「ゴエモンは、これまで倒した剣士のデータを蓄積・己にフィードバックすることが可能な学習する剣士。チート能力までは再現できませんが、それはアンドロイドとしての力で再現する」
「……何をする気だ?」
「もちろん、code04の破壊と……貴方の死ですよ」
────────────────トスッ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデとゴエモンは、互角の剣戟を繰り広げていた。
エクスカリヴァーンは双剣形態、対するゴエモンは二刀流。
つい先ほどまでゴエモンの戦闘を見ていたが、それらはあまり意味を成さないことにブリュンヒルデは気付いた。
『質問をします。あなたは私と同じタイプのアンドロイドですね?』
『…………』
戦い、学習する機能。
同パターンの攻撃など存在しない。戦闘データを組み合わせ、あらゆる状況に対応できる戦闘パターンを作り上げるアンドロイド。
ゴエモンの答えはないが、ブリュンヒルデは確信していた。
『申し訳ありませんが、私は剣士ではありません。あなたを破壊します』
ブリュンヒルデの傍に、ヴィングスコルニルが召喚された。
跨り、第二着装形態へ移行。巨大な槍と丸盾を装備したブリュンヒルデは、ゴエモンに向けて駆ける。対するゴエモンは、双剣を構えた。
そして、真の力を起動させる。
『特殊技能№1起動。《千雨招来》』
『!?』
突如として、『剣の雨』が降り注いだ。
ブリュンヒルデは丸盾を構えた。
『これは空間転移……』
剣の雨。それ以外に言い方がなかった。
文字通り、天から無数の剣が降り注ぎ、ブリュンヒルデを襲ったのである。
タネは簡単。亜空間に収納した剣を解放しただけであった。
『…………』
ブリュンヒルデにはわからない。
かつて『無剣』という冒険者の持つ能力が、無限に剣を作り出すということだったなんて。そして『無剣流』という独自の剣術を作り、最強の剣士として名を馳せていたなんて。
ゴエモンに敗れた『無剣』のバンショウが、作り出した全ての剣をゴエモンに託したことなど、知らない。
託された剣全てが亜空間に収納され、バンショウの剣技と共にゴエモンに継承されたことなど知らない。
そして今、その剣技の全てが、アンドロイドとしてのゴエモンに振るわれていることなど……ゴエモンは知らない。
『脅威度最高レベル……あなたは危険です』
『…………』
ゴエモンは、何も語らない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『くひひ……背中ががら空きだよん』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………?」
なんだ、これ?
じわじわ、じわじわ、なにかがおかしい。
「ぐぷっ」
おいおい、口の中があったかい。
これ、血だよな? あれ……下半身が冷たい?
「あ゛……れ」
むね? なんだこれ……なにこれ?
なにかはえてる……え?
「…………?」
じーく、るーね?……なにを、さけんでる?
あ……からだに、ちから、はいらな……。
「ふふ、よくやりましたアリアドネ。蓋を開ければ簡単な作業でしたね」
なにか、いってる……あり、あどね?
やべ、ねむ、い……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『…………』
ブリュンヒルデの思考がバグを起こしそうになった。
センセイが、血を流して倒れている。
胸に刃が突き刺さり、大量の出血をしている。
『…………』
原因は、空間転移した剣が、センセイを背後から貫いた。
それはつまり、目の前の敵がセンセイをやった。
『…………』
センセイは言った。
『ブリュンヒルデ、それは怒りだ』と。
ヴァルキリーハーツから発生してる得体の知れない波動が、ブリュンヒルデを激しく揺さぶる。
『…………』
Type-KNIGHTが、センセイに向かって剣を────────。
『センセイッ!! センセぇぇぇっ!!』
ブリュンヒルデは泣きそうな声で叫び、目の前のゴエモンを無視して飛び出した。
ヴィングスコルニルに跨っていることも忘れ、自分の足で飛び出す。
『特殊技能№2起動。《飛空剣》』
亜空間から呼び出された剣が、背中丸出しのブリュンヒルデに向けて飛び、数本の剣がブリュンヒルデを貫く。
だが、ブリュンヒルデは止まらない。
『センセイ、センセイ!!』
死なせたくない。生きていてほしい。
その願いを胸に、ブリュンヒルデは全力で走る。
身体が軋み、パーツがバラバラ零れ落ち、ブリュンヒルデはアシュクロフトとセンセイの前に割り込み、アシュクロフトの剣を受け止めた。
「お久しぶりですcode04」
『センセイ、無事ですか、センセイ』
アシュクロフトの剣を弾いて蹴り飛ばし、センセイの元へ蹲る。
『センセイ、死なないで……』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデの、声が聞こえた。
『センセイ、死なないで……』
「あ……」
薄れゆく意識の中、俺は見た。
ブリュンヒルデが、綺麗な真紅の瞳から涙を流しているのを。
俺の頭を抱きしめているのが────────。
「全く、本当に計画通りでしたよ」
『────────っ』
ストンと、ブリュンヒルデの頭を剣が貫通した。
「さようならcode04。あなたは実に厄介な存在でした」
アシュクロフトが剣を抜き……ブリュンヒルデは崩れ落ちた。
薄れていく意識の中、俺は見た。
ブリュンヒルデの眼が、死んでいた。
ブリュンヒルデの身体は、もう動かない。
ただの入れ物になってしまった。
ヴァルキリーハーツが、砕かれてしまった。
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