第215話、MIDBOSS タケミカヅチ・Type-SUSANO①/夜笠と無剣

 アンドロイド反応。つまり……あのサムライみたいな男が、オストローデ王国のアンドロイドっていうのか?

 

『センセイ、戦闘許可を』

「あ、ああ。って、マジでアンドロイドなのか?」

「……間違いありません」


 すでにエクスカリヴァーンを展開してるブリュンヒルデ。すると、エクスカリヴァーンを手で制してキキョウが前に出た。


「お待ちください。あのお方のご指名は私……手出し無用です」

「お、おいキキョウ。あいつはアンドロイドだ、まともじゃないんだよ!」

「……」


 キキョウは俺を無視して前に出る。

 するとアンドロイドはニヤッと笑い立ち上がった。


「かっかっか! 安心しろ、儂はアンドロイドで敵だが、一人の剣士じゃ」

「…………信じましょう」


 キキョウは黒い編み笠を深くかぶり、一歩ずつ前に。

 なぜか止めることができず、俺たちは見守るしかできなかった。


「儂の名はゴエモン。剣に生きる男」

「……『夜笠よがさ』」

「……なんじゃ。おなごだったのか?」

「…………」


 キキョウは、無言で剣の柄に手を掛ける。

 ゴエモンと名乗ったアンドロイド剣士も、剣の柄に手を掛ける。


「おぬしは、『無剣』より強いかの?」

「……あの方と戦われたのですか?」

「ああ。儂が勝った……バンショウは、強かった」

「そうですか……」


 おいおい、『無剣』って確か、キキョウと同じ最強冒険者4人のうちの1人だよな。

 アンドロイドなら倒せるだろう……こいつら、戦いなんてしないし、敵を倒すことだけしか考えていない。

 俺は、迷いなく言った。


「ブリュンヒルデ、戦闘態勢継続。キキョウに何かあったらすぐに飛びだせるように」

『了解』

「みんな、あいつはアンドロイド……ハイドラやライオットと同タイプの敵だ。用心してくれ」


 全員、頷く。

 こいつらに正々堂々なんてない。あるのは目的を遂行する意思のみ。

 キキョウと戦うことにどんな意味があるのか知らないが……オストローデ王国に関係あることなら容赦しない。


「いざ、尋常に勝負!!」

「…………参る」


 お互いが剣を抜き、戦闘が始まった。

 ああ、2人とも双剣士か……なんて、どうでもいいことを考えていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 改めて、俺は凡人中の凡人なんだと理解した。

 キキョウとゴエモンは戦ってる。でも……速すぎて見えない。

 いかにキキョウが俺を相手に手加減してるのかよくわかった。間違いなく、1%の力も出さずに俺と戦っていたんだ。


『…………』

 

 ブリュンヒルデは、まるで置物のように動かない。

 ゴエモンとキキョウの戦闘データを入手しているのか。戦えば戦うほど強くなると言っていたブリュンヒルデだ、この戦闘データは大いに役立つだろう。


「ブリュンヒルデ、ど、どうなってる?」

『……手数ではキキョウが、一撃の重さでは敵アンドロイドが優勢』

「全く、見るだけで精一杯とは……いかに自分のレベルが低いかわかる」

「アタシは見えるけど、キキョウのが速いわね」

「うん。キキョウ、強い」


 ルーシア、アルシェ、三日月は見えるようだ。

 ゼドさんとクトネは首を捻り、俺はポカーンとして見ていた。

 そして、ガキッと剣がぶつかる音がして二人の距離が開く。


「ほっほう! バンショウとはまた違ったタイプの剣じゃな! こりゃ面白い! 面白いぞ!」

「……」


 キキョウは固有武器でもある刀、『夜叉烏』と『濡羽烏』を十字に構えた。


「『狩魔烏カルマからす』」

「ぬっ!?」


 なんと、キキョウの剣からドロッとしたカラスが何羽も飛び出し周囲を旋回する。

 能力なのは間違いない。というか、キキョウってどんなチート能力なんだ?


「この能力を使うとは思いませんでした」

「ほう、光栄じゃ!」


 ゴエモンは右の刀を掲げ、左の刀をキキョウに突き出す。

 まるで二天一流……デカく見える。こいつ、もしかして……。


「私は剣士であり冒険者……初めから貴方相手に、剣だけで勝とうなど考えていません」

「当然じゃ。戦いとは己の持つ全てを持ち戦うこと、バンショウも能力を全開放して儂と戦い……敗北した」

「…………」

「おぬしも、全てを持って儂に挑め。さもなくば……死ぬだけよ」


 キキョウは、刀を鞘に納め……構えた。

 

「ば、抜刀術……」


 俺の呟きは誰にも届かない。それくらい、この場の全員がこの戦いに魅入っている。

 いつの間にか、邪魔しようなんて考えは吹っ飛んでいた。

 

「面白い」


 ゴエモンも刀を収め、両手を柄に添える。

 上空のカラスが旋回し、ゴエモンとキキョウを隠すように低く飛び始める。

 強者同士の戦いは長引かないと聞くが……始まってからまだ数分なのに、もう数時間は経過しているような気がする。

 俺の歯が、カチカチと鳴る。


「────────ッ」

「────────ッ」


 次の瞬間、周囲のカラスが一瞬で消滅した。

 何が起きたかわからなかった。

 カラスが一瞬で消え、キキョウがその場でうずくまり……キキョウの右腕が、肩から切断されてボトリと落ちた。


「ッッッ~~~~~~っっ!?!?」


 刀と編み笠が落ち、結わえていた髪もほどける。

 左手で肩を抑えるが、激しい出血は止まらない。

 ゴエモンは、静かに告げた。


無剣流むげんりゅう───────針千本はりせんぼん


 後になって、それが『無剣』の持つ剣術だと知った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 キキョウを見下ろすゴエモン。

 俺は反射的に叫んでいた。


「ブリュンヒルデ!!」

『はい、センセイ』


 ブリュンヒルデは着装形態へ移行し、背中のブースターを噴射させてゴエモンの元へ。

 

「待て!!」


 ゴエモンは右手を突き出し、武器を収めた。

 ブリュンヒルデも止まり、双剣を構えたまま警戒する。


「夜笠よ、おぬしの剣……見事じゃった」

「……情けを、かけると、言うのですか……っ!!」


 肩を抑えたキキョウは大汗を流しながらゴエモンを睨む。

 だが、そんなキキョウをゴエモンはあっさりと受け流す。


「そうじゃ。おぬしはバンショウと違い伸びしろがある。強くなれば、儂を越えることも不可能じゃないかもしれん……そうなれば、儂はおぬしを斬る愉しみが増える」

「な……」


 ゴエモンは……まるで、子供のようにニカッと笑った。

 信じられないくらい、澄んだ笑みだった。


「おーいcode06、こいつの腕をくっつけろ!!」

「え……」


 馬鹿なと思うかもしれない。

 でも、あの言葉はすんなり信じられた。

 このアンドロイド……強いだけじゃない。何か、心が感じられる。


「ブリュンヒルデ、そのまま待機。行くぞジークルーネ」

「え、でも……」

「たぶん、大丈夫」


 俺は仲間を見て言う。


「みんな、ちょっと行ってくる」

「せ、セージさん……でも」

「大丈夫、だと思う」

「せんせ……」

「大丈夫だ」


 クトネと三日月の頭に手を乗せ、ルーシアとゼドさんとアルシェに頷く。何かあればよろしく頼むというメッセージだ。

 俺はジークルーネと一緒にブリュンヒルデと合流し、未だに蹲るキキョウの元へ。

 ゴエモンは腕を組み、俺を見ていた。


「ジークルーネ、頼む」

「はい、センセイ」


 キキョウの腕を回収し、ジークルーネは治療を始めた。

 ブリュンヒルデは警戒したまま剣を構え、俺はゴエモンと目を合わせて質問した。


「どうして、キキョウを殺さなかった」

「さっきも言ったじゃろが、伸びしろがあると」

「それだけ、なのか?」

「おお。この娘っ子が強くなりゃ、儂の楽しみも増えるからの。人間っちゅうんは、叩けば叩くほど硬くなる。この儂が斬れん硬さまで鍛えてくれや」

「…………」


 なんだこいつ……敵意がまるでない。

 それどころか、子供のようにケラケラ笑い、俺に笑顔を向けてくる。


「あー……儂の仕事におぬしの抹殺っちゅうんがあったんじゃが……やめとくわ」

「え……」

「センセイ、じゃったな。おぬしもなかなかええ目をしとる。ここで殺すんは惜しい……それに、code04とも戦ってみたいが、今日はその日じゃない。またの日にしようかの」

「…………おま、いや、あんた一体」

「かっかっか! 儂にもようわからん。まぁ……変わり者のアンドロイドと思ってくれ」


 そして、そのまま空を見上げる。




「さて、儂は帰────────」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 











「アリアドネ、準備はできてますか?」

『おっけ。『プログラム・TAKEMIKADUCHIタケミカヅチ』起動♪』











◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……え」

『ガ、ガ』


 俺は、信じられない物を見た。


『が、ががが、がぐぐ、ガガ、あ、シュク、ロフト、ォォォ……!!』


 ゴエモンの刀が、ジークルーネの心臓付近を貫いていた。

 ジークルーネの身体がガクンと落ち、同時にブリュンヒルデの双剣がゴエモンに襲い掛かる。


『敵機と確認。戦闘開始』

『…………テッキトカクニン。セントウカイシ』


 ゴエモンは、眼の色が変わっていた。

 機械音声に切り替わり、意志そのものが切り替わった。

 俺は倒れたジークルーネと、失血で気を失ったキキョウを見る。


「じ、ジークルーネ……ジークルーネ!!」


 ジークルーネを抱き起すと、意識はあった。


『め、めいん動力炉、っそんしょう。サブ動力に切り替え……センセイ、ごめんな、さい。メインウェポン使用、不可能……』

「くそ、今直し────────」


 次の瞬間、俺の身体が吹き飛んだ。

 ゴロゴロ転がり、ジークルーネから10メートル以上離れてしまう。


「駄目ですよ、センセイ。あなたはアンドロイドにとって究極の治療ツールであり、究極の脅威だ」

「おま……お前は」


 端正な顔立ち、全身鎧を着た騎士。

 忘れもしない俺の宿敵。


「お久しぶりです。さっそくですが……あなたには死んでいただきます」

「アシュクロフト……っ!!」


 戦いが、始まった。

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