第214話、遺跡掃除

 霧の森はすんなり脱出できた。どうやら、どこかでウォタラさんの力が働いたらしい。

 森を脱出し、目指すはラミュロス領土の古代遺跡。ここから約2日ほどの距離にある。


 遺跡に到着したら、まずは遺跡内を調べよう。

 もしかしたら新しい戦乙女型が見つかるかもしれないし、【戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー】が安置されているかもしれない。

 もし戦乙女型だったらレギンレイブだな。そうなったら、オルトリンデたちを呼び戻して、姉妹の再会といこうか。


 目的は、三種族の同盟だ。

 オーガ、ラミア、龍人が手を取り合って作る未来。子供たちが泣かない世界。

 もしかしたら、種族混合の町ができて、交流が始まるかもしれない。そんな未来だってそう遠くないはずだ。


 俺たちにできることは、お膳立て。

 オーガのダイモンは俺たちを認め、ラミアのエキドゥナは協力してくれる。龍人のヴァルトアンデルスは顔出しするって言ってたし、同じ卓に集めることはできた。

 あとは、上手く話をできれば……。


「センセイ、どうしたんですか?」

「ん、ああいや、ちょっと考え事」


 御者席に座っているジークルーネが、手綱を握る俺を見ていた。

 ブリュンヒルデはバイクで並走してるし、エンタープライズ号の屋根ではアルシェが警戒している。

 いつもの布陣だ。これを突破できる奴はそういない。

 それでも緊張が伝わったのか、ジークルーネは俺を見る。


「なんでもないよ。安心してくれ」

「ん……はい、センセイ」


 ジークルーネの頭をなでて、エンタープライズ号の手綱を握りなおした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それから1日、遺跡に到着した。

 意外にも、遺跡はしっかりした造りで破損も少ない。年数経過こそ長そうだが、その気になれば手入れしてそのまま住めそうな雰囲気だった。


「へぇ、国会議事堂みたいな遺跡だな」

「たしかに」


 俺と三日月は、遺跡を眺めながら懐かしむ。

 遺跡は国会議事堂みたいな建物で、周辺は開けてまるで広場のようになっている。


 この会話に付いてこれるのはいない。日本人の俺と三日月だけのトークだ。

 さっそく馬車を止め、遺跡の調査をする。

 エンタープライズ号を邪魔にならない位置に止め、俺は仲間に指示を出す。


「えーと、ジークルーネとブリュンヒルデは遺跡周辺の調査を頼む。もしアンドロイド関係の痕跡があったら俺に報告」

『はい、センセイ』

「はーい、センセイ!」


 ブリュンヒルデとジークルーネはさっそく調査を開始。

 ジークルーネはホルアクティを飛ばし、ブリュンヒルデは散歩でもするように歩き出す。


「残りは遺跡内の調査。使えそうな部屋を探して、会談の準備をしよう」

「了解でーす」

「わかった」

「うん、せんせ」

「ほいほーい」

「どれ、ワシはまた必要なモンを作るかの」

「…………」


 キキョウ以外は返事をしてくれた。

 まぁキキョウはいい。俺たちのクランメンバーじゃないし。というか、来てくれるだけでもありがたいしな。


 というわけで、さっそく遺跡内へ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 正面入口から遺跡内へ入ると、これまたしっかりした造りで破損が殆どなかった。

 光が殆ど入らないせいかジメッとしてるが、塞がっていた石製の窓を開ければ新鮮な空気が入ってくる。

 まず、一階はエントランスホール。そして二階へ上がる階段があった。ここで二手に分かれ、俺とクトネが二階、残りは一階の調査をする。

 二階の階段も破損がない。しかもしっかりした造りだから安心だ。


「セージさんセージさん、二階は会議室があるみたいですよ」

「本当だ」


 二階に上がると、長い通路と両サイドに入口がある。ドアはなく中は丸見えで、空き部屋には広い空間があるだけだった。

 というか、この建物はいったい何だろうか?


『センセイ、聞こえますか?』

「お、ジークルーネか。なにかわかったか?」


 右手のバンドからジークルーネの声が。どうやら短距離通信らしい。


『周辺を調べた結果、ここには何もありませんね。大昔の人が作った神殿じゃないですかね』

「そうかぁ……さすがにそこまで運はよくないか」

『あはは。とりあえずお姉ちゃんとそっちに戻ります』

「わかった」


 通信が切れ、クトネに言う。


「だ、そうだ。ここは純粋な遺跡、これだけしっかりしてれば、会談に使えそうだ」

「はい。じゃあ戻りますかー」


 後々、ここは使えるかもな。

 一階に戻ると、全員そろっていた。


「セージ、立派な円卓があった。会談にはもってこいの場所があったぜ」


 ゼドさんに言われて一階のエントランスホール脇の部屋に入ると、確かに立派な石の円卓があった。

 苔が生えているが掃除すれば問題ない。というかこの円卓、まるでアーサー王伝説に出てくる円卓みたいだ。


「よし、この部屋を綺麗にしよう」


 手分けして、円卓の間とエントランスホールを掃除することにした。

 三種族が到着するまで数日あるからな。その間に綺麗にしてやるぜ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…………」

「ん、どうしたキキョウ?」

「…………いえ」


 キキョウと一緒に近くに川に水汲みへ向かうが……キキョウはなぜか不機嫌だった。

 

「あのさ、何かあるなら言ってくれよ」

「いえ、本当に何でもありません。少し、その……引っかかるというか」

「?」


 バケツに水を汲み、遺跡に戻る。

 円卓を磨き、エントランスホールを掃除するが、どうしてもキキョウが集中していない。不意に動きが止まり、立ち上がり、入口を見つめ……。


「おいキキョウ、マジでどうしたんだ?」

「…………なにか引っかかる」

「……?」




────────────────カラン。




 よくわからん。

 拭き掃除を終えたクトネや三日月は、背伸びして言う。


「はぁ~……もしかしたら、この領土の歴史が変わる瞬間に立ち会えるんですねぇ。しっかり記録してレポートにまとめます!」

「クトネ、学生みたい」

「あの、あたし学生ですよー?」




────────────────カラン。




 ゼドさんは円卓のチェックをし、僅かな破損個所を埋めていた。

 ルーシアとアルシェは椅子を磨く。


「あー疲れた……ねぇルーシア、もういいでしょ?」

「……待て、まだ汚れがある」

「ワシも気になる箇所がいくつか……」

「ったく! 几帳面ルーシアに職人馬鹿のゼド、キリがないからやめなさい!!」

「な、き、几帳面はいいことだろう!」

「おいコラ、職人馬鹿とはなんじゃ!!」




────────────────カラン。




 ブリュンヒルデは、雑巾片手に硬直していた。


「お姉ちゃん?」

『…………』


 そして、ゆっくりと遺跡の入口を見て……。


『…………アンドロイド反応を感知しました』




────────────────カラン。




 全員が、遺跡の入口に注目した。

 そこに、一人の男が立っていた。


「え……ぶ、武士? 侍、なのか?」


 俺の第一印象は『サムライ』だった。

 二本差し、長く乱雑な髪を適当にまとめ、草履を履き、着物を着ている。

 不敵な笑みを浮かべたサムライは、腰の刀を外してその場にドカッと座った。




「『夜笠よがさ』──────────おぬしを斬りに来た」




 これが、俺の運命を決めた……決定的な戦いの始まりだった。

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